桜の花弁が風に吹かれてパラパラと落ちていく様子を見ながら、もう春かぁと呑気に家路を歩いていた。
あ、
買い物から帰ってくると、アパートの前に引っ越しトラックが止まっていた。
だれか引っ越してきたのかな?
とか思いながらその横を通り過ぎて、階段をあがると、自分の部屋の隣の扉が全開でその前に段ボール箱が積み重なっていた。
お隣さんか~
そう、呑気に思いながら鍵を開けたと同時に横からドサッと段ボールが置かれる重たい音がした。
発信元にぱっと振り向いた瞬間に、それはそれは綺麗な顔をした人とばちっと眼があった。
綺麗な女顔の男性。
僕より少し背が高くて、すらっとしている。
にしても、ほんとに綺麗な顔だなぁ。
男をぼーっと見てると、男はニコッと笑ってこんにちはと挨拶してきた。
「今日から引っ越してきました!ルハンと言います!これからよろしくお願いします!」
「こんにちは。こちらこそ、よろしくお願いします。ルハンさん」
僕もつられてニッコリ微笑むと同時に、彼の部屋の中から彼を呼ぶ声が聞こえた。
「あー、今行くから待ってろ!」
ああ、やっぱり、男性なんだな。
見た目よりも少し低い声を聞いてひとり納得して自分の部屋のドアを開けた。
「では、失礼します」
と男に軽くお辞儀してから、僕の帰りを待つ兄に向かってただいまーと声をかけた。
「お帰り、ギョンス」
リビングに入ると珈琲の薫りに包まれた。
ミンソギヒョンは自分でデザインしたカウンターで珈琲を注いでいた。
ほんとにこの人は珈琲が大すきなんだなぁ。
「隣、だれか引っ越してきたの?」
ミンソギヒョンはお湯の入ったやかんをタオルの上に置いて、その猫のような瞳で向かい側に腰を降ろす僕を見た。
「そうみたい。さっき、お隣の人に会ったよ」
「へぇ……」
「なんか、女っぽい人だったよ」
「女じゃなくて?」
「男の人」
「ふーん」
うん
ほんとに綺麗な人だった。
動物で例えると、、そう!鹿!
バンビみたいな人だった!
「バンビか……」
なにか思いに更けるように呟くミンソギヒョンを見ていると、僕の視線に気づいてにっこり微笑んだ。
「俺も会ってみたいな」
「じゃあ、後日ふたりで挨拶行こう!」
普通は向こうから来るんじゃ?
と、ミンソクは思いつつも頷いた。
「だれかと話してなかった?ルハニヒョン」
タンクトップで汗だくになったジョンイナが、積まれた空き段ボールを持って怪訝な顔をして眉を寄せていた。
お前が呼んだせいで名前聞きそびれた。
と、言いたいのを我慢して頷いた。
「偶然お隣さんに会ったから挨拶してた」
真っ白くてやわらかそうな肌
ビー玉のような大きな瞳
紅いぷっくりした唇
小柄な身体
まるで白雪姫のような人だった。
「片付けの最中ヒョンひとりだけで遊びに行くなんて狡くない?」
「遊びじゃなくてあ・い・さ・つ!外に出しに出たらたまたま会ったんだって」
「どっちでもいいから口ではなく手を動かしてよ。今夜8時からアルゼンチン戦見るんでしょ!はやく片付けようよ」
横の部屋から顔だけひょっこりと覗いたセフナにふたりして叱られてしまった。
サッカーを見るべく、男3人で協力して予定の時間よりもはやく片付け終わった。