side K
「ヒョン、いつまで僕の部屋にいるんですか。はやく自分の部屋に戻ってくださいよ。」
セフナに文句を言われるのもこれで何度目だろう。
あの日からリビングのソファで寝たり、メンバーの部屋に入れて寝かせてもらっている。
ギョンスとは一言も話していない。
ギョンスは何度も話しかけてくれるのに、俺は自分が抑えられなくなりそうで、ギョンスになにをするかわからない自分が怖くて避けてしまっている。
「お前ってほんとにバカだよな。」
「ちょ、ベク!思っても言っちゃダメ!」
ベッキョニヒョンとチャニョリヒョンが俺を虐めるのもあれからだ。
てか、チャニョリヒョンも思ってたンだな。
このふたりは事の翌日にはすでに仲直りしていて、夜中には宿舎中にベッキョニヒョンの声が響いてて、みんなホテルで寝泊まりしたっけ。
「ヒョンも柄にもなく抑え込まないで、いつもみたいに噛みつけばいいじゃないですか。あ、そのときは前もって言ってくださいよ?この前みたいな事はもう真っ平です。タオ以外の人の声なんか聞きたくありませんから。」
言いたいことをずけずけという俺たちのマンネ。そういうところが可愛くなくてみんなタオばかり甘やかすんだけどな。
「あ~、あのときはごめんね。抑えられなくてさ。アイタッ!ベク、なんで殴るのさぁ!」
「うるさいっ!////黙ってろ!!!!!」
あーあ、また、イチャつきはじめたよ。
俺もセフナも目の前のふたりにうんざりして背を向けた。
「あ、お前らまだ起きてたの?ベクとチャニョルは明日はやいんだから寝なよ。ほら、おしまい!部屋に戻って!おやすみ!」
お風呂から戻ってきたスホヒョンが締めくくる。
バカップルふたりはすぐに部屋に戻って、俺はまだしばらくその場で漫画を読んでいた。
「ジョンイン、お前も戻りなさい。」
「………。」
「ヒョン、今日こそ自分の部屋に戻ってくださいよ。そろそろ僕らも面倒見切れませんよ。あれからもうすぐ1ヶ月たつんですよ?」
「そうだな。セフナのいう通りだ。」
ここまでふたりに言われてしまうと俺も居れなくて、仕方なく部屋に出た。
だけど、やっぱり部屋には戻れなくてソファに寝転がっていつの間にか寝てしまっていた。
ふと寒くなって目を覚ますと、携帯のデジタル時計は夜中の2時を表示していた。
宿舎内は静まり返っていて、ひとりポツンとソファにいるのが寂しくなってきた。
「はぁ~……。」
重い身体を起こして、ギョンスの居る自分の部屋に戻った。
扉を開けるのに心臓がどきどきして数秒(いや、数分かな?)躊躇っていた。
ドアノブに手をかけてゆっくりと開けて入り、後ろ手で静かに扉を閉めた。
カーテンが開いたままで、月明かりがギョンスの寝顔を照らしていた。
頬に涙の痕をたくさん残して寝息をたてる恋人に胸が締めつけられた。
たった1ヶ月でもともと細い体がもっと痩せてしまった。
ぜんぶ、俺のせいだよな。
ギョンスの酒癖は練習生のときにふたりで飲み比べをしたときに知っていた。
それなのに、あのときに俺はギョンスをただ見てるたけだった。
たぶん、心のどこかで俺と他人を間違えないだろうと思い込んでいたのかもしれない。
酔っぱらって寝ぼけたギョンスが間違えないわけがない。
だれだってわからなくなるだろう。
「俺ってほんとにバカだな……。」
ゆっくりギョンスの隣に横になって、濡れた頬をそっと拭う。
「ン………ンイナ………ジョンイナ………。」
寝言で俺の名を呼んで擦り寄る顔に、また一粒涙が零れた。
夢のなかでも俺を求めてくれることが嬉しくて、俺はギョンスを抱きしめた。
「傷つけてごめん、だけど、愛してるよギョンス。」
小気味良く寝息をたてるギョンスにつられて眠りに落ちた。