side D
「ヒョン、ん。」
と手を差し出すジョンイナ。
「チョコ、ちょーだい。」
僕の手にはチョコがいっぱい入った袋がある。
だけど、これは全部ジョンイナをすきな女子に渡すよう無理矢理頼まれたもので、僕からのではない。
すきな人に他の人からのチョコを代わりに手渡したくはないけど、それは僕の我が儘。
はい、と袋を前に出すが、ジョンイナは首を横に振る。
また、ん。と手を差し出す。
「なんだよ?渡してるだろ。」
「いらない。俺はヒョンのだけ欲しい。」
「…そんなのあるわけないじゃん。」
うそ…。ほんとはポケットに入れて持っている。
だけど、こんなにたくさんのチョコを見て渡せるわけがない。
「ほら、はやく受け取ってよ。」
もう一度袋を前に出してジョンイナに受けとるよう促す。
「だからいらないってば。全部ヒョンにあげる。」
「いらないよ。」
お前への想いが詰まったチョコなんか、いらない。
「じゃあ、タオとかにあげてよ。俺はマジでいらない。」
ジョンイナはうんざりしたように自分のベッドに寝転がる。
ほんとは、さっき、ヒョンのだけ欲しいって言ってくれたのが嬉しかった。
ジョンイナをすきな子たちには悪いけど、ジョンイナがこの袋を受け取らなくて正直ほっとした。
僕は嬉しさで顔が緩むのを堪えて、ジョンイナのベッドの横に袋を置いた。
「僕のじゃないんだから、自分で分けてくれば?」
僕は一眠りしようと自分の2階のベッドへの階段を登ろうとした。
実はみんなの分も作っていたから、少し寝不足なのだ。
もちろん、ジョンイナのは特別。
絶対、教えてあげないけど。
突然、後ろから腕を掴まれて、自然と振り返るとジョンイナの悪戯っぽい顔が視界に入る。
「ねぇ、ヒョンからのは?」
ジョンイナはあるんでしょ?と全部知っているように、ちょーだいとねだる。
ほんとに狡い奴だ。
「っ… …ないっ!!」
猫のようにねだるジョンイナが可愛いと思いつつも、モヤモヤする気持ちがあげることを許さない。
「ジョンイナにチョコはあげない!」
