自分らしさってなんだろう
なんてことを、考えていた
「何考えてんの」
柏宇の声にふと我に帰る
「いや、別に」
「悩み事あるんなら聞くよ」
「なんで俺がお前に悩み事相談しないといけないんだ?俺の方が年上なのに」
「そんなこと関係ないと思うけど」
そうだけど…
「僕のこと信頼してる?」
「そりゃあ、勿論…」
「僕も孟霖を信頼してる。それぞれの人生を行きてきた2人が今ここに居て、お互いに信頼し合ってる。それってすごく幸せなことじゃない?」
確かに
「無理に話すことないけど、話したいことあったらちゃんと聞くから」
柏宇の目はいつも真っ直ぐ俺を見る
「…うん。お前は、大人だな」
「そんなことないよ」
真っ直ぐにこちらを向いていた視線が少し外れる
「そうかな、だいぶ落ち着いて見えるけどな」
「そんなことない。今だって、欲しくて欲しくてしょうがないものをどうやって手に入れるか必死であれこれ考えてる」
意外な返答だった
「お前がそんなに欲しいものってなんだ?」
外れていた視線が再び戻る
「教えない」
なんだか可愛くない
「なんだよ、教えろよ。高いものか?」
「いいや」
「じゃあ、めっちゃレアな物とか」
「この世にたった1つしかないものだよ」
「へぇ…なんか凄いな。よく分かんないけど、俺にできることあったら協力するよ」
「あはは」
「なんだよ」
「分かった。その時はちゃんとお願いするよ。」
よし、なんか気分良い
「じゃあさ孟霖、さっき何考えてたのか教えて」
「あ?なんの関係があるんだ?」
「あるよ、凄くね」
ますます分からない
「無理に話すことないって言っただろ」
「協力してくれるって言ったよね」
なんか、完全に負けてる気がする…
「大したことじゃ、ないけど。」
「うん」
やっぱり、なんだか、言うのが恥ずかしくなってきた
でも、目の前の柏宇は
全身で
俺の言葉を待っている
「自分らしさって、なんだろな、と思って…」
「自分らしさ…?」
「…うん」
あぁ、だめだやっぱり恥ずかしくなってきた
「ごめんっ、やっぱ今のなし!」
「孟霖」
「え」
「自分のこと僕に出すの恥ずかしい?」
「あ、いや、そんなこと」
あるに決まってんだろっ
「孟霖はさ、いつも僕に対してお兄ちゃんであろうあろうとしてるよね」
「え…」
「疲れない?」
「何言ってんだ、俺の方が年上なんだから当然だろ」
「じゃあ、今ここで僕に甘えてみて」
「はぁっ?」
柏宇は何故だか余裕の笑みを浮かべていて
「あ、あ、甘えるって」
嘘だろ…完全に狼狽えてる
「言葉でなくてもいいんだよ」
…言葉でなくてもいい?
「何も考えなくていいよ」
何も…?
考えなくていい…?
無意識に
そうだ、無意識だった
俺の手はスローモーションのように柏宇へと近付いていく
柏宇は動かない
俺の指先は
彼の胸元に触れ
肩先に触れ
背中へと
たどり着く
指先に感じる広い背中の感触と
鼻先に触れる
柏宇の体温が混ざった匂い
どうしていいか分からなくなって離れようとした瞬間
柏宇の長い両腕に引き止められた
さっきまでよりももっと近く
彼の体温を感じる
「カッコつけたい時はカッコつけていい。甘えたい時は甘えていい。」
「何、言ってんだ?」
「して欲しいことがあるなら言って、欲しい言葉があるなら言って。」
「そんなんじゃ、お前の方が疲れるだろっ」
柏宇の腕が、決して強引ではなく
俺の身体を引き寄せ
包み込むように
抱きしめる
「どんな孟霖も受け止める。それが今の僕のすべてだよ。だから…」
「だから…?」
不意に止まった言葉に思わず顔を上げた
柏宇はやっぱり俺を真っ直ぐ見ていて
そして
ふんわりと笑った
「自分に嘘、つかないで」
そう言って
もう一度俺を抱きしめた
優しく、あやすように
髪を撫でる
なんだか
気持ちの内側で固まっていたものが
ひとつ、ひとつ
溶けていくような感覚
めまぐるしい日々の喧騒の中で
自分自身すら見失いそうになる
でもそれは、柏宇も同じなはずだ
もしかしたら
いま彼は
必死で俺を守ろうとしているのかもしれない
自分らしく生きるなんて簡単じゃない
どっかで自分に嘘つかないといけない時もある
でも
せめてこの腕の中では
嘘なんて
つきたくないと思った
「孟霖」
「ん?」
「僕、手に入れたよ、欲しくて欲しくてしょうがなかったもの」
きゅっと、柏宇の腕に力がこもる
「え」
俺?
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