妻が帰ってきた夜、ホテルの匂いを感じた気がした
ただいまの声やっと帰ってきた夜9時すぎ。「ただいま〜」って声が玄関から聞こえてきた。リビングに入ってきた美咲は、髪が少し乱れてて、頬がほんのり赤い。どこか満たされたような表情に、僕の胸はドクンと鳴った。他愛ない会話「どうだった?」って聞くと、「うん、ランチして、ちょっと買い物してきただけだよ」って。でも──。バッグを置く仕草、頬の火照り、やわらかい香り。どう考えても「買い物だけ」の雰囲気じゃない。頭の中でひとつの言葉が浮かぶ。ホテル。妄想と確信のあいだ二人が並んで歩いて、途中で彼が「ちょっと寄っていかない?」って言ったとしたら?彼女は少し笑って、でもすぐに頷いて──。そのままホテルの白いシーツに、ぽっちゃりした身体を投げ出していたのかもしれない。彼に触れられて、声を抑えながら何度も身をよじっていたのかもしれない。想像なのか、確信なのか、自分でももうわからない。でも、そんなふうに考えてしまうのが止められない。眠る前にベッドに横になる妻。「おやすみ」って言った声は、どこか甘く疲れを含んでいた。さっきまで彼と過ごしてきた余韻を抱えながら眠る妻の横で、僕は嫉妬と興奮の入り混じった気持ちを抱えたまま目を閉じた。