
▽活動の拠点とするバスの前に立つ仁藤夢乃さん。2018年12月、東京都新宿区
コロナウィルスは、「貧しい人から犠牲になる」ということも、世界ではすでに言われている。
ダイヤモンド・オンラインの記事では、「そもそも、生活に困難を抱える人、経済的弱者といった人々に基礎疾患が多く」「経済的な難しさを抱える人は、健康状態が悪いだけではなく、感染のリスクをおかしても働き続けるしかない」「オフィスで働くホワイトカラーの労働者は在宅勤務が可能だが、サービス業や製造業で働く人は、物理的に店や工場に出勤しなければならない」。そして、体調が悪くても、医療費がかかることから病院へは行けず、病状を悪化させることも指摘されている。
■貧しい人から犠牲になる
これは、私たちが日々出会っている10代、20代の女性たちにも共通する。しかし、政府も自治体も、こうした人々への支援に本腰を入れない。 緊急事態宣言が出されることになった4月7日には、感染症対策を理由に活動の自粛や回数を減らす要請を出すかもしれないという情報が都から入った。Colaboでは厚生労働省のモデル事業として、東京都や区とも連携して、女性たちへの支援を行っているのだが、「活動への自粛要請が出るかもしれないがご理解いただけるか」と聞かれたのだ。
そのため、若年女性が普段以上に苦しい状況になっているのだから、むしろ私たちは支援体制を拡充することを始めており、行政にも支援の拡充や、私たちのような団体が感染症対策を徹底しながら活動を続けるために、民間だけではカバーできない感染予防対策の後方支援をして欲しいと伝えた。
結局、活動への「自粛要請」は出されなかったが、行政の制度からこぼれ落ちている方々へ緊急的な支援を行っている民間支援団体への支援についても、少女や女性たちへの生活保障についても、具体的な対応は見えず、検討されているのかすらわからない。30万円の給付金についても「自分は対象になるのか。申請はどうしたらいいのか」という10代、20代の女性たちからの相談も増えているが、具体的な内容がわからない。
東京都は、ネットカフェを追い出された人に宿泊先を提供する「TOKYOチャレンジネット」 の支援体制を拡充したが、その案内を困っている人に本気で届けようとしているようには思えない。インスタグラムやTwitterなどのSNSでも、政府や東京都から感染予防を訴えるようなメッセージ動画が頻繁に流れているが、支援の情報についてはほとんどない。
また、実際に「TOKYOチャレンジネット」に相談に行き、最近まで日本にいなかったことから利用を断られて路上に戻されてしまった人もいる。彼女は、留学中で、コロナの影響で一時帰国をしているが、家では虐待があり居場所がない。しかし、東京で半年生活しているわけでも仕事を東京でしているわけでもないことから対象にならないとして、利用を断られたという。
また、役所の女性相談窓口に行き水際作戦にあったり、色々な理由をつけて、本人が利用を諦めるような言い方を相談員がしたりして、路上に戻ってきた人もいる。
こうした対応にはColaboでも抗議し、対応を改めるよう要請していくが、「今、行き場がない」という人たちをそのまま路上に放り出すことが、この状況でも起きている。人々の安全、人権をどう守るのか真剣に考えるべきだ。

シェアハウスとして運営する中長期シェルター。初めの3カ月の家賃は無料で、以降は3万円から。状況次第で相談に応じる。家具家電あり、お米食べ放題。Colaboのホームページから
また、この状況から、オンライン授業の開始を決めた大学も多くある。しかし、Colaboとつながる学生たちの中にはネット環境がなく、パソコンも買える状況にない人が多くいる。
ある大学の新1年生の女性は、コロナの影響でアルバイトがなくなり、この先の生活の見通しがたたなくなっている。貯めたお金でパソコンを安く購入しようと思っていたお店も、休業している。奨学金の手続きや、履修登録の方法などもオンライン化されることとなり、郵送で届いた資料には、「学生専用のサイトにログインすると、詳しい情報が見られる」という案内があったものの、肝心のパソコンがない。
資料には、パソコンがない学生は、学校のパソコンルームを使うことができると書いてあるが、今は学校も閉鎖されていて、ネットカフェも開いていない。期限の迫る奨学金の申請書類も、パソコンからダウンロードすることを前提とされていて、スマホでサイトにログインできても、印刷ができない。そのため、Colaboがそのファイルをダウンロードし、コンビニで印刷できるようにネットプリントへ登録して、彼女が家の近くのコンビニで印刷する、ということをした。
彼女はSNSで同じ大学の新1年生たちとつながり、お互いわからないもの同士やりとりし、提出物などについて情報交換をしていたが、「履修登録」「ポータルサイト」と言われても何のことだかわからなかったと言う。通常、入学の際に行われるオリエンテーションがないのだから、わからなくて当然だ。こうした学生は、彼女だけではないだろう。大学への立ち入りも禁止になっているため、対面で相談ができる人がおらず、不明点の確認も簡単にはできない中、早い大学では、来週からオンライン授業を開始する予定だという。
各大学は、授業だけでなく、窓口業務や、手続きの相談についてもオンライン化するなどし、対応してほしい。また、親からの虐待があったり、生活が困窮していたりして、特別な配慮が必要である学生がいつでも相談できる窓口を用意してほしい。このままだと、せっかく進学が決まり、入学金なども支払い準備をしてきたのに、授業が始まる前に学生生活を諦めざるを得ない人が出てしまう。
そうした状況にある人たちが、この状況の中で、自分たちで頼れる人や窓口を大学内に見つけることは難しい。一人ひとりにコロナウィルスによる影響で困っていることがないかアンケートを取るなどし、大学側から学生たちにアプローチし、困っている学生の声を拾う努力をし、安心して研究できる環境を整えてほしい。

夜の街を巡回し、家に帰らなかったり、帰れなかったりする少女に声を掛ける活動。Colaboのホームページから
普段から目を背けられ、無き者として扱われ、我慢を強いられてきた人々の状況が、この非常時に真っ先に悪化している。それでも、見ようとしなければ、多くの人には、見えないのかもしれない。
誰もが今、普段とは違う生活を強いられ、不安な思いで過ごしている人も多いが、そんな時だからこそ、想像してほしい。想像するためにも、現実を知ってほしい。
非常時になる前から、生活が困窮したり、住まいや居場所を失ったりしそうな状況にあった人たちのことを。虐待や性暴力被害にあって、住まいが安全でなかったり、トラウマに苦しんだりしている人がいることを。そうした若い女性たちを、性的に搾取しようとする加害者たちが、今も目を光らせ、この状況につけこもうと動いていることを。
「みんなが辛い」状況下では、孤立していればいるほど、助けを求めたり、声を上げたりすることができない。「辛いよね」「コロナ怖いよね」という話を誰かとすることもできずにいる人たちがいる。そうした人たちに、「苦しい」と言ってもらうためには、私たちが現状を知り、想像し、声をかけ、いつでも待っている、具体的に力になるという姿勢を見せなければならない。そうした人たちのことを想像し、生活を保障することが政府や行政の責任であるはずだ。 今の日本社会は、そんな社会にはなっていない。だから、変えていかなければならない。
仁藤夢乃 一般社団法人Colabo代表・社会活動家
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