少子化に歯止めをかけるために何をなすべきか。政府が導入しようとしている方法は本質を外しているのではないか。違和感が拭えない。


 少子化対策を話し合う政府の作業部会「少子化危機突破タスクフォース」は、7日の会合で、若い世代の女性向けに妊娠、出産の知識や適齢期情報を盛り込んだ「女性手帳」(仮称)の導入を議論した。


 女性手帳は「妊娠や出産の適齢期を知らない人が多い」との指摘を踏まえて検討されたもので、内閣府は2014年度からの導入を検討している。


 政府は晩婚・晩産化を少子化の原因の一つととらえており、女性手帳を導入することは、事実上、政府が早い時期の結婚、出産を促すことを意味する。


 結婚や出産をいつするのかしないのかは、個人が決めること。これに国が介入するのはおかしい。女性に限定するのも変だ。案の定、元少子化担当相の野党議員からは異論が相次いだ。


 ネット上でも「大きなお世話」だと女性手帳を批判する声が噴出している。


 「産婦人科を増やし、待機児童の問題を解消し、教育費の支援が優先されるべきではないか」


 「家族のあり方の多様性とか男性の積極的な子育て参加とか社会構造から変えていかないと子どもは増えない」 

 

 「育児にどれだけコストがかかるか知識があるからこそ産みたい人も産めない」


 現実に即したまっとうな指摘ばかりである。

 

 

 


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 総務省によると、4月1日現在の人口推計は、15歳未満の子どもが前年比15万人減の1649万人。32年連続の減少である。総人口に占める割合も12・9%で過去最低を更新した。


 2012年版高齢社会白書によると、60年には子どもは791万人と現在の半分以下、総人口に占める割合は9・1%と推計する。逆に75歳以上が26・9%で、子どもの約3倍に達する超高齢化社会となる。


 女性が生涯に産む子どもの推定人数を示す合計特殊出生率は、11年が前年と同じ1・39にとどまり、人口を維持する2・07まではまだまだ。


 合計特殊出生率が上昇傾向にある欧州の国々は事実婚などを認め、出産・子育てと仕事が両立できるような施策がとられている。多様なライフスタイルの流れはこれからも止まらないだろう。政府がやるべきことは、待機児童の解消や教育費の支援、職場復帰や男性の子育てなどの施策をもっと充実することである。

 

 

 


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 女性と出産をめぐっては07年1月、第1次安倍内閣で厚生労働相を務めていた柳沢伯夫氏が女性を産む機械に例え、批判を浴びた。女性手帳につながるような女性観や憲法改正草案に示される古い家族観が自民党に横たわっているのではないか。


 安倍晋三首相が提唱する「3年間の育児休業」も、育児は女性、という古い観念にしばられる危うさがある。正確な医学的知識は大事だが、上から目線で生き方を指図すれば反発を招くだけである。

 

 

 

 

 


沖縄タイムス 2013年5月12日 10時25分






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■育児休業3年 現実見据え効果的対策を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 社会の実情にそぐわない「机上のプラン」というのは、言い過ぎだろうか。安倍晋三首相が打ち出した成長戦略の中で、女性の活力を経済に生かす方策として掲げた「育児休業3年」のことだ。

 


 「3年間抱っこし放題」で、職場復帰も後押しするという。積極的な企業には助成金を出し、職場復帰に向けて大学や専門学校で学び直すことも支援する。

 


 首相は「女性の活躍は成長戦略の中核だ」と指摘した。的を射た主張である。この点に異存はない。

 


 育休3年は出産や育児を理由にした女性の離職を防ぎ、積極的な社会参加を促すのが狙いという。本当に実現できるなら、これほど素晴らしいことはない。

 


 だが、実態はどうか。(過剰)競争社会がもたらした経済情勢の変化で35歳未満の労働者に占める非正規社員の割合は3割前後で推移し、若い社員を使い捨てにする「ブラック企業」の存在も問題化している。社会的な格差の拡大は深刻だ。

 


 「それができれば苦労はしない」と嘆く声が労使双方から聞こえてきそうだ。

 


 育休は1992年の育児休業法施行で制度化され、現在は最長1歳6カ月まで認められている。その休みが倍になれば、いいことずくめのようにも思える。

 


 しかし、現実は厳しい。3年間もブランクがあると、知識や技能を以前のように取り戻すのが容易ではない。企業の負担が増え、女性採用を敬遠することも考えられる。そうなれば本末転倒だろう。

 


 契約社員など有期雇用者も2005年の法改正で育休制度の対象となったが、1年以上の雇用実績や継続見込みが前提となる。関係者からは「育休を取りやすい正社員との格差が広がるだけではないか」との不満もくすぶる。

 


 女性の育児負担軽減についても懐疑的な見方が多い。厚生労働省の11年度調査によると、育休の取得率は女性の約90%に対し、男性は3%にも満たない。

 


 現状では母親の育休が延びるだけで、父親がさらに育児から遠ざかってしまうのではないか。女性からは「『家事と育児は女性の仕事』という考えが強まってしまうのでは」との懸念も出ている。

 


 結果として、育休延長が女性の社会進出を妨げ、逆効果になる恐れさえ否定できない。

 


 本当に必要なのは、働く女性の切実な要望を的確にとらえるとともに、男女を問わず働く人たちにとって、子育てをしやすい労働環境を着実に整えていくことではないか。

 


 情報技術(IT)の発達で事務のIT化が急速に進み、勤務体系も多様化している。在宅勤務や勤務時間の選択が可能な職場や職種は、そうした仕組みを積極的に活用することを考えてもいい。

 


 これなら母親の職場復帰や父親の育児もスムーズにできる。企業にとってもメリットがあるはずだ。男性が育休を取りやすい職場の環境と条件を整備していくことも重要な政策課題と位置付けたい。

 

 

 

 

 =2013/05/08付 西日本新聞朝刊=