たしかに電力不足は企業にとって大変だ。一般家庭でも暑い夏をどう乗り切るか、熱中症は大丈夫かと心配になる。しかし、マイナス面ばかり考えるとますます不安やいら立ちが募る。節電しなければならないからこそできることも考えたい。

 

 OECD(経済協力開発機構)が5月に発表した「より良い暮らし指標」では教育、収入、安全、雇用などの分野で日本は参加34カ国の上位を占めたが、生活に満足を感じている人は40%に過ぎず、34カ国の平均(59%)をかなり下回った。客観的には暮らしやすいはずなのに、日本人が幸せを感じないのはなぜか。指数の中で日本が極端に低いのは「ワーク・ライフ・バランス」である。毎日の生活のうち日本人が食事や睡眠、家族や友人と過ごしたり趣味に使う時間はメキシコの次に少ない。

 

 ここ数年の雇用問題は失業率や非正規雇用の増加ばかり注目されるが、多くの正規雇用の男性社員が長時間労働をしている構図は変わらない。正社員の女性は結婚して第1子の出産を機に多くが辞め、子育てが一段落してからパートなどで再び働くようになる。保育所不足とともに、出産や子育てがキャリアロスとなり正規社員で働き続けることが難しい雇用環境が原因と指摘される。

 

 OECDのデータには日本の育児や保育に対する公共支出は加盟国の中で下から4番目、出生率は下から5番目というものもある。男性が家事に参加する時間に至っては最下位だ。非婚や晩婚が増え、少子化が進み、人々が幸せを感じない--。それは私たちの働き方や暮らし方に問題があり、以前から指摘されながら改善できずにきたことなのである。

 

 この夏、消費電力のピークを平準化するため平日休み・土日出勤を導入したメーカーがいくつもある。早朝勤務など電力消費量の多い時間帯を避けることも模索されている。オンラインを活用すれば自宅勤務も増やせるはずだ。節電を迫られているからこそのチャンスである。男性はこの機会に育児休業を積極的に利用してはどうか。社内の規則や雰囲気が変わるのを待つよりも、自らの行動が職場を変え得ることを考えよう。

 

 男女ともにパート勤務化が進んでいるオランダでは、毎週水曜日は午前中で学校が終わるため仕事を休んで子どもと過ごす両親が多いという。フルタイム労働との間で賃金や社会保障などの差別がないため、そうした勤務が選ばれているのだ。政府は節電を呼びかけるが、日本人が働き方を変えられるよう雇用改革にも取り組むべきだ。

 

 仕事だけでなく恋愛や子育てを楽しもう。節電で街やビルは暗いが、明るく生きることはできる。

 

 


毎日新聞 2011年7月18日 2時31分