【北京・工藤哲】中国の著名な人権活動家で、国家政権転覆扇動罪で服役していた胡佳(こ・か)氏(37)が26日未明、刑期の満了に伴い出所し、北京市内の自宅に戻った。だが、自宅付近では警官らが通行人に目を光らせており、外部との接触が制限される可能性もある。中国共産党創建90周年の記念日(7月1日)を控え、中国当局は今月22日に保釈した芸術家、艾未未(がい・みみ=アイ・ウェイウェイ)氏を事実上の軟禁状態に置き続けており、監視の手を緩めていない。

 

 胡氏は中国のエイズ患者の実態をインターネット上で公開した活動で知られる。妻の曽金燕(そう・きんえん)さん(27)が簡易ブログのツイッター上で「午前2時半に家に戻ってきた」と出所を明らかにした。胡氏は香港メディアの電話取材に「家族には申し訳ないが活動は続けていきたい」と語った。曽さんは胡氏の出所前、毎日新聞の電話取材に「とてもうれしいが、(出所後の活動が制限されるのではという)悲しい気持ちもある」と心中を吐露した。

 

 北京市東部の胡氏の自宅があるマンション一帯では26日、地元警察車両が頻繁に行き交っていた。マンションの敷地内にはカメラを手にした私服警官が配置され、住民は警察の動きに目をやりながら押し黙っていた。門では警備員が「何の用だ。今日は中に入れない」などと人の出入りを制限していた。

 

 胡氏は07年12月に拘束され、
(1)ネット上で公表した文章の内容
(2)外国メディアの取材を受けたこと
 --などが国家政権転覆扇動罪に当たるとして08年4月に懲役3年6月の実刑判決を受け、服役した。だが、国外では人権擁護活動が評価され、08年12月に欧州連合(EU)欧州議会の「サハロフ賞」を受賞したほか、ノーベル平和賞の候補にも名前が挙がった。

 

 妻の曽さんも夫が中国当局から受けた体験をブログで公開し、米誌「タイム」が発表した07年版「世界で最も影響力のある100人」に胡錦濤国家主席とともに選ばれている。曽さんは最近、外部との連絡が一時取れなくなることがあり、中国当局による行動の制限が続いているとみられる。

 

 中国当局は今年2月以降、中東・北アフリカ諸国で広がる民主化運動が自国に波及することを警戒し、人権活動家への締め付けを強化している。国際人権保護団体「アムネスティ・インターナショナル」によると、少なくとも130人の人権活動家が拘束されたり、自宅軟禁状態などに置かれているという。

 

 




毎日新聞 2011年6月26日 21時01分(最終更新 6月27日 0時36分)