私はこの数年間、著書や講演を通じて「仕事も大切であるが自分の生活も大切にしよう」というワーク・ライフ・バランスの必要性を説いてきた。
ある講演が終わって「私は仕事は定時に終え早く家に帰りたいのですが職場はみなすぐには帰らないため帰りにくい雰囲気なのです。どうしたらいいでしょうか」という質問があった。私は「帰りにくくて帰れないなら帰らなければいいでしょう。早く帰ってやりたいことがあるなら早く帰ればいいでしょう。それはあなた自身が決めることで、私が決めることではありません」と答えた。
自分は何者であるか、どんな仕事や生活をしたいのか、どんな人生を目指すのかということは、自分でよく考え実践すべきで、自分の生き方の基本は例えば会社に入った時、30歳になった時、課長になった時など節目節目に自ら棚卸しすべきだろう。そうすることが自分や周りの人、そして社会を正しく理解し自分が幸せになることにつながると思う。
人は会社や他人のために生きているのではなく、自分のために生きている。人は一人一人自分の人生の主人公なのだ。その席を決して他人に譲ってはならない。そのためにはそれなりの「決意と覚悟」が必要で、節目の時期に自分の棚卸しをして自分の生き方を確認する必要がある。
自分を大切にすること、つまり自分自身が幸せになることを目指し努力すべきだと思う。
さて、私は昨年4月から毎週、このコラムを書いてきて今回が最後になる。およそ「経済観測」とは無関係の内容ばかりで読者の方々にはずいぶん違和感を与えてきたようで申し訳ない気持ちである。長い間我慢し、読んでいただいた方々に感謝の気持ちをお伝えし筆を置きたい。
毎日新聞 2011年6月25日 東京朝刊