by 元村有希子




 高校に出前授業に出かけた研究者がため息まじりに話してくれた。

 「科学技術が役に立っていると思う人?」と生徒に聞いたら、しばらくして半分ぐらい手が挙がった。「科学技術が環境を壊していると思う人?」と聞いたら、間髪入れず全員の手が挙がったという。「若者は科学技術より環境を大切に思っているんですね」

 事実、公害は科学技術を支える企業活動が生んだ。しかし科学技術は環境問題の解決にも貢献するはずだ。それをすんなり受け入れられないのは、大人たちの言動にどこかウソっぽさを感じ取っているのではないか。

 高校生でない私でも納得いかないことは多い。省エネを叫びながら、消費電力の多い大型テレビほどエコポイントがつくのはなぜか。ためたポイントでガソリンが買えるのは変だ。化石燃料使用を減らせと言いつつ、高速道路料金を1000円にしてドライブを奨励するのはどうなの?

 大人たちは「健全な経済があってこそ、環境問題の解決に投資できるのだ」と説明するだろう。政府や企業はその行為が地球に少々負荷を与えるとしても、経済発展への努力を怠るわけにはいかないのだと。しかしその「環境か経済か」の二者択一の考え方が、かつて公害や環境破壊を引き起こしてきた。

 それでも大人たちは喜々として遠出し、まだ使えるテレビを処分して新品を買い、企業はエコポイントの交換対象に自社製品を加えてもらおうと懸命だ。

 自分が得すればいい。企業や日本の景気が上向けばそれでいい。高校生が迷いなく挙げた手は、こういう価値観を大人はまだ変えないのかと問いかけている。(科学環境部)

 

毎日新聞 2009年6月27日 東京朝刊