教師と生徒、上司と部下。「女は寝てネタを取れ」と言われた編集者が感じた性暴力の構造
「児童に性的暴行、小学校教師が『両思いになり交際していた』 被害者は『消えて欲しい』と怒り」(本記事の次に転載)
記事は、2022年2月に逮捕された被告人男性が都内の小学校に勤務しており、担任だったかつての教え子に性加害をした公判のリポートでした。そこで被告人男性から「両思いで交際していたからレイプではない」という発言が出たというのです。
大手進学塾、大手芸能事務所、学校……そのような場所での性暴力のニュースが後を絶ちません。すべての場所に共通するのは、子どもたちが夢を持って成長しうる場所であるということ、指導者と子どもたちとの間に「絶対的なパワーバランス」がある場所だということ。さらに加害本人に加害している認識が低いと思われることなどが挙げられます。
しかし、絶対的なパワーバランス下での性行為の強要は明らかに性暴力です。新入社員のときに週刊誌の編集部に配属となり、もしかしたら性暴力の被害に遭っていたかもしれないという実体験から、絶対的なパワーバランス下で生じやすい性暴力の構造とその罪深さを改めて振り返ります。
■内申点や弟のこともちらつかせ
弁護士ドットコムニュースの記事によれば、40代の小学校教諭が逮捕されたのは2022年2月。勤務していた小学校の校長からの相談を受け、教諭の自宅を捜索したところ、女児の写真や動画が保存されたスマートフォンが見つかり、児童買春・児童ポルノ禁止法違反で逮捕起訴されました。
2023年9月に逮捕された中学の校長も女児の写真や動画を所持していましたが、のちの性加害容疑での再逮捕も含めて共通しています。
40代の小学校教諭は、さらに押収されたパソコンからみつかった写真や動画から10代の女性へ性的暴行を加えようとしていたこと裏付けられ、準強姦未遂罪(注:2017年の刑法改正前の罪名)でも起訴されました。公判の内容は詳しく記事に報じられていますが、被告人は「担任教師」「小学校の教諭」という立場を最大限に利用し、内申点や弟のことまでちらつかせて女性を服従させていたというのです。
■駆け出し編集者が遭遇したこと
このような「パワーバランス」の下での性行為の強要は性暴力です。 NOを言える状況にあるか。そしてそのNOを大切にされる環境にあるか。性暴力か否かはそれが大きな目安となるのではないでしょうか。
わかりやすい事例を挙げてみましょう。当時、筆者は23歳で、週刊誌の編集部に配属されて1年足らずの駆け出し編集者でした。
休暇をとる上司から、自分の代わりにジャーナリストのA氏との打ち合わせに行ってほしいと依頼を受けました。A氏は元大手メディアの記者で、当時週刊誌や新聞などにも寄稿していました。日本中が注目するニュースの寄稿もあり、是非お話をしてみたいと感じました。上司はその経験を積むためにも提案をしてくれたのだろうと思いました。
A氏の事務所は、都内のマンションの一室でした。ダイニングテーブルで資料を広げ、企画について打ち合わせをします。滞りなく打ち合わせが終わり、ほっとしているところで「ちょっと一杯やろう」と誘っていただきました。これは仕事の話を伺ういいチャンスです。あの記事はどうやって書いたのか聞いてもいいのだろうかなどと考え、緊張と期待とが高まります。ファイルなど大量の資料があり、それを持ち歩くのは心配だなと考え、事務所に置かせていただいて後で取りに戻ることにしました。
向かったのはチェーンの居酒屋。ビールで乾杯をしたあとに「日本酒にしよう」とA氏がぬる燗を頼みました。幸い日本酒は私も大好きです。先方もそのようで、グビグビ飲み、どんどん私にお酒を注ぎます。緊張がまだ残る中、A氏は私のお猪口にお酒を注いで「もっと飲め」と口にしたあと、こう続けたのです。
「君は新人だから教えてあげるよ。いいか、女性の記者は寝てネタを取るんだ。○○新聞の××もそうやってエースになった。それくらいでないといい記者になれないんだ」
■もしや、自分を性的対象として見ているのだろうか
凍り付きました。もともとお酒は弱くはない方ですが、酔いがさっと醒めていくような感じがしました。この人は、筆者に「枕営業をしてネタを取れ」と「教えて」いるのでしょうか。これが酔っ払った同期のセリフなら、ふざけんな! と怒鳴るところです。しかし相手は初対面、しかも名のあるジャーナリスト。さらに筆者は上司の代理で打ち合わせに来た身です。
筆者はようやく小さな声で「それがいい記者なら、私はいい記者にならなくていいです……」と言いました。しかし彼は「そんなんじゃだめだ」と、具体的な媒体名や記者の方々の名前を挙げました。
「もしかしたら、A氏は自分を性的対象として見ているのだろうか」という恐怖で、背中には汗をびっしょりかいていました。
それから「もう一軒行くぞ」と近くのバーに行きます。断ればいいのでしょうが、断れる空気ではなかったのです。もはや何を飲んだのかは覚えていませんが、「お前は疲れてるな」と肩をもまれて、思わず鳥肌が立ったのを強烈に覚えています。
どうにかして逃げなければならない。しかし、資料はA氏の事務所に置いたままです。行くしかない。でも絶対危ない。緊張が走ります。
■「お前は疲れているんだから泊まっていけ」
そしてすっかり酔っ払ったA氏と事務所に戻り、資料を持って帰ろうとすると「お前は疲れているんだから泊まっていけ」と言われました。
「お気遣いありがとうございます。でも家はそんなに遠くありませんから帰ります」と靴を履こうとします。すると、「人の厚意をなんだと思ってるんだ! あの企画がどうなってもいいのか!」と怒鳴られたのです。
いま、もしそう言われた後輩がいたら、「企画なんてどうなってもいいから自分の身の安全を最優先にして」と伝えることでしょう。しかし立場が上の人から「上司の企画がどうなってもいいのか」と言われて、強引に帰ることができる人は少ないのではないでしょうか。
当時は携帯電話もガラケーで、LINEどころか携帯メールもない時代。誰かにSOSを出すにも、その手段がありません。どうすればいい、どうしたらいい。考えている間に、A氏が布団を敷きました。
どうすればいい。
どうしたらいい。
お酒をたくさん飲んでいたけれど、酔うどころか、頭の中でそんな思いがグルグル回っていました。
■「お母さん、私」
とにかくもう少し飲みませんかと焼酎をコップに注ぎ、自宅から通っているので帰りがあまりに遅いと親が心配する、自宅に電話をかけさせてほしいと頼みました。そして、休みをとっている上司の携帯にかけ、つながりますようにと祈りながらコールの音を聞きました。
「あれ、どうしたの、何か問題あった?」
その声を聞いてどれだけホッとしたことでしょう。
「お母さん、私」と言うと、上司は「え?」と戸惑います。
”今日上司の代わりに夕方打ち合わせに来たのだけど、実はまだそこにいるの。わたしが疲れているから泊まっていけとおっしゃるんだよ。だから帰らなくても心配しないで”
そのような内容を、母に伝えるような口調で言うと、「え、まだ○○さんのところにいるの? 泊まる? ちょっと待って」と、私からのメッセージの意味を理解してくれたのがわかりました。
これで大丈夫。なにかあったら、きっと上司がなんとかしてくれる。
それで冷静になり、もはやお酒を飲ませて寝かせるしかないと決意。親にお酒に強い身体に産んでくれてありがとうと感謝しながら、お酌をしまくる作戦に出ました。そしてA氏が寝てしまったところで、急ぎ事務所を後にしたのです。
■もし、これで泊まっていたら「同意」だろうか
当然ながらこの出来事は上司にも編集長にも報告して、以降彼と接触することは一度もありませんでした。
しかし、もしこれで私が泊まっていたら、そこでなにかがあったら。どのように「同意はなかった」と説明できたのでしょうか。むしろ「仕事が欲しい新人が枕営業をした」と言われることすらあるのではないでしょうか。
もちろん、上司と部下であっても、パワーバランスがあっても、恋愛関係になることもあるでしょう。
恋のドキドキハラハラをすべて否定するつもりはありません。しかし、「絶対的なパワーバランス」をちらつかせた関係性は、「対等」でしょうか。そこにNOと言える環境は存在するのでしょうか。
大人の筆者でもそうなのです。いわんや子どもたちなら、NOと言えないことはもちろん、酔わせて逃げようとか、ヘルプの電話をかけようとすることすらできないことが多いのではないでしょうか。
性的同意とは相手のNOを大切にすること。
2017年に、オランダの小学高学年がコンドームをつける授業の記事を作成したことがあります。コンドーム装着実習の動画もあり、最初は驚きましたが、「性行為の技術」を教えるものではなく、まず幼児期、4~5歳くらいに「NO」の尊重を学ぶのだそうです。相手や自分の気持ちを尊重することから学び、自分の身体で誰かが勝手にプライベートパーツに触ることに対し「NO」と言っていいのだ、自分の身体を大切にしていいのだと学びます。そうして段階を経て、性行為による妊娠や感染症のことを学び、愛について学ぶ。つまり、性行為はけっして恥ずかしいものではなく、素晴らしい愛の確認になるということと同時に、そのリスクを知ることができるのです。コンドームの使用方法も、感染症の予防に重要なことの仕組みを学ぶものだったのです。
このように「相手のNO」を大切にし、性行為のことをリスクも含めて段階を経て学んでいくことを「包括的性教育」と言います。
包括的性教育というと、性交など性のしくみだけを教えるものと思っている方も多いのですが、オランダの例でわかるように、実際には、人と人が安心・安全に関係性を築くために大切なこととは何かを伝える教育です。身体のことだけでなく、「どんな相手とも対等な関係を築くためのコミュニケーションの仕方」や、「自分と相手の心と体を尊重することの大切さ」を重視しています。
日本ではそのような教育が行われておらず、国連で人権侵害にあたると警告を受けています。
絶対的なパワーバランスの下で性的関係を強要する状況や、相手の「NO」を聞かず「YES」だけをもぎ取る、もしくはYESもNOも聞かない状況での性行為に対し、「両思いで同意の上で性交した」などと言うことは、決して許されないこと。
「両想いだったから」と言った元教師や、「帰ります」と言ったのに泊まって行けと怒鳴ったA氏が包括的性教育を学んでいたら。絶対的なパワーバランスの下であっても、相手のNOを尊重することが重要だと身に染みていたら。このようなことはしなかったのではないでしょうか。そして、このような行為や主張がまかり通る世の中は、もう終わりにしなくてはいけないと強く思うのです。
文・FRaUweb 新町真弓
FRaU編集部
11/12(日) 7:04配信
現代ビジネス
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児童に性的暴行、小学校教師が「両思いになり交際していた」 被害者は「消えて欲しい」と怒り
学校教師や塾講師による、教え子への盗撮や性暴力のニュースは後を絶たない。
勤務していた小学校で、担任を受け持っていたクラスの女子児童に対してその着替えを盗撮したほか、担任だったかつての教え子(当時10代)へ性的暴行を加えようとした男の公判が現在、東京地裁(今井理裁判長)で続いている。
■「レイプなんてしていません。交際していました」
昨年(2022)2月に逮捕された際、被告人のK(逮捕当時46)は、都内の小学校で教師をしていた。
その前年、被告人が勤務していた校⻑から「体を触られた児童がいる」と相談を受けた警視庁が、被告人の自宅を捜索したところ、女児の写真や動画が保存されたスマートフォンが見つかり、児童買春・児童ポルノ禁止法違反で逮捕起訴された。
警視庁は捜査の過程で被告人の自宅からパソコンを押収し解析。新たな写真や動画から、10代女性Aさんに対して性的暴行を加えようとしていたことが裏付けられ、準強姦未遂罪でも起訴。児童ポルノ禁止法違反と併合して審理が進められることとなった。「準強姦未遂罪」は2017年の刑法改正前の罪名であり、この事件は、2017年よりも前に起こった事件だ。公訴時効が1カ月に迫る中での逮捕だった。
東京地裁では今年(2023年)7月から、Aさんに対する準強姦未遂事件についての審理が続いていた。
罪状認否で被告人は「私はAさんをレイプなんてしていません。当時Aさんとは交際をしていました」と否認。弁護人も「抗拒不能に乗じて無理やりAさんの意志に反して性行為をしようとしたことはない」と無罪を主張した。
だが証人尋問でAさんが明かした被害の実態は、到底“交際”とは思えぬ内容だった。被告人は教師という立場に乗じ、内申点やAさんの弟の存在を持ち出し、Aさんを長期にわたり服従させていたのだ。
■5年生になり、性的接触を求めるように
Aさんの証言によれば、被告人はAさんが小学3年生のころに小学校に赴任した。その頃から「怒鳴ったりするので怖い先生だと思っていた」という。そして5年生になり、被告人がAさんのクラスの担任を受け持つことになってから、性的接触を求められるようになった。
被告人はクラス内で席替えがあっても、Aさんの席を変えることはなかった。Aさんは被告人の膝の上に乗せられ、体を触られるようになったという。
「気持ち悪いな、嫌だなと思っていました。嫌だと思ってからは、自分から乗りに行くことはなかったんですが、必ず『おいで』って呼ばれるんで……断ることはできなかった。お父さん、お母さんにも心配かけたくなかったので相談できなかった」(Aさんの証言)
これはAさんの思い込みではない。別の期日に証人出廷した元同級生も「常に膝の上にいる感じ。席も常に先生の近くだった」と証言している。そんな日々が続く5年生の後期、他の生徒がいない教室で、被告人からキスを求められるようになったとAさんは振り返った。証言台の前で証言するAさんの周囲には衝立が立てられ、その姿は傍聴席には見えず、声だけが法廷に小さく響く。
「移動の授業の際に、忘れ物をしたとか、トイレとか言って抜け出してくれ……と言われて、戻ると先生だけ教室にいて、こう……抱きしめられる感じで……。『早く戻らなくちゃ』と言うとキスされました」
先生がファーストキスの相手となったことは「とても嫌でした」と言うAさんに、その後も被告人は同様の行為を続けたという。
■中学受験前には「嫌がる素振りを見せると内申点を下げる」
「『好き?と言ったら、好きと言って』と言われるのでそのようにしていました。好きって言わなきゃいけないと思っていたんで、好きって言い返してました。怖くて、何されるか分からなくて……。最初の方は『ちょっとやめてください』って言う頻度も多かったんですが、もう、どんなに抵抗してもやられてしまうので……」
こう語りながらAさんは声を詰まらせる。検察側の冒頭陳述によれば、被告人はその後行為をエスカレートさせ、Aさんが6年生の頃には下半身を触らせたり口淫をさせるといった行為を繰り返し、それを撮影していたほか、Aさんが小学校6年生の1月、宿泊を伴う行事の際、被告人から部屋に呼び出されると全裸になるよう命じられ、下半身を押し付けられたともいう。
さらにAさんが中学受験することを報告すると被告人は「キスを嫌がる素振りを見せると内申点を下げる」とAさんに告げたのだそうだ。
卒業してからも被告人とは縁を切れなかった。“誘い”を断ると、被告人は「弟がどうなってもいいのか」と言ってきたこともあるという。Aさんの卒業後、被告人はAさんの弟のクラス担任を受け持っていたからだ。被告人は小学校にAさんを呼び出し性的虐待やその撮影を続けた。そしてAさんが中学2年生の頃、準強姦未遂事件の被害に遭う。
だがAさんは、中学1年の頃にも、被告人による同様の行為があったと証言した。被告人は当時の様子を撮影しており、その撮影データを示しながら検察官が尋ねるとAさんは「この時は痛くて泣いていました。私の記憶では(挿入しようとする行為は)ありました。(拒否する態度を見せても)終わることはなかった」と述べている。
■〈Aの大切なもの、たくさん奪ってしまったね〉
こうした関係は、被告人の求めにより続けていた交換日記がAさんの母に見つかったことで終わりを迎えた。だが、その後も被告人はAさんにLINEを送っている。こんな文面もあったという。
〈やっぱりたくさん傷つけたからか〉〈Aの大切なもの、たくさん奪ってしまったね〉
ところが、当時こんなLINEをした当の被告人は、9月の被告人質問で驚きの証言を繰り出した。まず被告人が言うには、Aさんとは“6年生になる前に両思いになり、交際していた”のだという。
「その頃、彼女から好意を抱いてもらっていると感じるようになりました。なんとなくそばにいることが増え、笑顔が増えた……。彼女は僕に先生としてより、男性として好意を示してくれたので、とても嬉しく感じました。今考えるととても問題だと思いますが、当時は舞い上がり『好きだ』と答えました」(被告人質問での証言)
つまり、当時30代の教師と、小学5年生の教え子の女児が真剣に交際していた……という言い分だ。さらに性的接触についても「挿入はしていない」と繰り返していた。「つねに彼女が拒否していた。嫌われることはしたくない。嫌われるようなことは一切していません」と、Aさんを尊重していたと被告人は言う。
起訴事実についても、性暴力ではないと強調。「逮捕時に強姦だと言われて、挿入したこともないし、無理矢理したこともない。とてもおかしいし、何が起きているかわからない!」と、背中を丸めて車椅子に座る弱々しい姿とは裏腹に、はっきりとした大きな声で語っていた。
動画の中には、被告人からの行為により泣いているAさんが映っていたようだが「彼女は泣くことがよくあった。このときも私の行為が嫌で、とかではなく悩み事で泣いていた」とAさんの心中を被告人なりに解釈していた。
かつて送ったLINEについても〈傷つけた〉〈大切なものを奪った〉とは書いているが「嫌がることをしたとは書いていません」と、再び被告人なりの意味合いを説明。
あくまでも被告人としてはAさんを“交際相手”として尊重していたという主張に終始していたが、最後に裁判長が聞いた。
裁判長「あなたとしてはAさんが小学校6年生になる直前から交際していたんですよね。周りの同僚や、Aさんの親に交際を伝えたことはありますか?」
被告人「ないです」
裁判長「なぜ?」
被告人「一般的に見て、好ましくないことと分かっていたからです」
裁判長「なぜ好ましくないんでしょうか?」
被告人「彼女に与える、精神的、肉体的影響……」
7月の証人尋問でAさんは「先生に似た体格の人を見ると怖くなります」と、今も恐怖が続いていると明かしていた。また男性との交際についても「怖いので、うまく……相手とそういうこと、できなかったということありました」と、泣いている様子で語り、最後にこう言った。
「もう二度と会いたくない。消えてほしい。許せない」
次回の公判では論告弁論が行われる見込みだ。
10/8(日) 9:48配信
弁護士ドットコムニュース
弁護士ドットコムニュース編集部