第8話 競馬の先生 その1
毎日のように顔を出してたあの頃。
自分の中では、もうお客さんというよりはオーナの気持ちだった。
飲み代以外に一銭もお金は出してないんだけどね。
客足が途絶えると、どうやってお客さんを呼ぶかということをテーマに話が始まる。
逆に忙しくなると、自ら「自分の世界」に入っていく。
「自分の世界」とは、当時はまっていた競馬予想。
週初は週末のレースを回顧し、週中には週末のレースに想いを馳せ、週末には気合入れて予想する。
端っこに座った、その場所にあまり似つかわしくない若い客は、いつも競馬情報誌や、新聞を食い入るように眺めてみていた。
「いいのほっといて?」
よく他のお客さんがさきにそう聞いてた。
さ「ああ、さとうさん、いっつもじゃけー」
僕は聞こえてるんだけど、集中してるふりをして無視してた。
ある日、広島の夜には欠かせない筋の方から声がかかった。
その人は、さきが昔勤めてたクラブ時代からのお客さんで「よーさん」と呼ばれてた。
言われなければ普通のガタイのでかい御兄さんだ。
よ「失礼ですが、いつも何をみられてるんですか?」
「あ、すみません。気になりましたか。競馬好きなもんで、勉強してるんですよ」
よ「競馬ですか。なら、今週の予想を教えてくださいよ。」
週末は有馬記念。
有馬記念は1年の最後のGIレースで、オールスター戦って感じのお祭り。
しかも、平成の怪物「オグリキャップ」の引退レース。
「いやー、全然自信ないんですけどね、、、ただ、私が買うのはオグリです。」
よ「ええ?オグリ?もうだめじゃろ。ありゃー。」
そう、その頃は全盛期のオグリの走りが見えなくなっていた。
まあ、だから引退を決めたのだろうけどね。
「いや、来ます。八百長はないんでしょうが、JRAはオグリに最後の花道を贈るはずです。あれだけ活躍した馬です。最後は飾らしてやりたい。ていうか、やって欲しい。いや、ダメならダメだったでいいんです。僕自身たくさんあの馬から勇気をもらったので。。。」
涙、流さんばかりに目をうるうるさせて、熱く語っていた。
よ「そうか、そこまでいうんならオニイサンにのって見ようかの。」
「いやー、あくまで私の予想ですから・・・」
よ「よし、決めた。明日はオグリ一本でいこう。」
「いや、あのーーーー」
・・・既に聞く耳持たず。
翌日、
ファンファーレとともに、有馬記念のゲートは開かれた。
僕にはまったく聞こえてなかったけど・・・
なぜなら。。。
つづく