どう見ても態度が良いとは言えない作業員とどう見ても動きが良いとは言えないガードマンの怠惰な働きは、きっとこの暑さのせい、という事にしておこう。
車輪にアスファルトの石が土星の輪のようにびっしりとへばりついたベビーカーのその上で、さっきまでは感じる事のなかった細かな振動に気づいているのかいないのか、見ようによっては訝しげな顔でそれでも時おりニコニコと笑いかけてくるこの子の思考が大人になる頃に、僕は胸を張ってこのくそ素晴らしき世界を彼らの手に引き継ぐことができるのだろうか。
深い土の中より生まれ出たものの再び土に帰る事もできずに敷き詰められた黒い石の上で音を絶った蝉の骸を、すれ違いざま踏み潰さないよう器用にインステップで側溝の網に向けて蹴り込む僕を、讃える人はいないがしかし、非難できうるものもそうそういないだろう。
いつもは右に曲がるT字路を今日は左に曲がり、見慣れない町並みを抜け文字通り狭き裏門をくぐり駒場東大のキャンパスへと入ると、生い茂った木々がさりげなくそれでいて濃厚に吐き出すオキシジェンとそれを吸い込みはしゃぎ踊る柔らかな風が、つかの間渋谷の裏にいるということを忘れさせてくれる。
あの駒場寮があったその場所には似つかわしくない近代的な建物群が立ち並んでいて、首根っこを掴まれ無理矢理時の流れを見せつけられたようなちょっと悲しい気持ちにもなるのだが、残念ながらどうひいき目に見てもこっち方が素晴らしく出来が良いのだからなす術がない。
古びた体育館とかつてまぐろ丼の美味しかった学食があった建物の間をゆっくりと進んでいくと、ふと嫁が何かを感じ取ったらしくはたと歩みを止め、常人には見えざる物の存在を僕に囁く。
僕はそうかもねとくすくす笑いながら別段特別なことでもないよと、入ってきたよりもさらに狭き門から、山手通り沿いの懐かしい町並みに戻った。
つづくかも