ジュニアが生まれてから、週末は大体散歩をする。
いやまて、生まれる前から妊婦の運動のために散歩してたな。
ま、いいや。
で、当たり前だけど、散歩というのは、正直、何も生み出さない。
でも、毎日、結構な緊張感の中で生産性を高めることに従事していると、バランスをとるためかそういう無駄でほわわわんとした時間が自分の中でとてつもなく必要とされている事に気づく。
だから僕にとっての散歩というのは、無駄な時間である必要があるのだ。
エクトプラズムが半分口から放出されている状態で、ターコイズブルーのクイニーザップを押しながら、時折何かを指差して雄叫びをあげるジュニアの後頭部をながめ、嫁と二人でとことんどうでもいい話をするのが重要だったりするのだ。
そう言う意味で、今日はとても残念だった。
事の顛末はこうだ。
僕がよく行く公園は、カフェがついている。
このカフェは公園と繋がっていて、オープンな空間があるので子供連れにはとても重宝する。であるから、休日の昼ぐらいは結構混んでいるんだけど、嫁の体内時計に従った生活をしていると、大体この混んでいる時間帯に行く事になる。
席が空いてない時は公園を一周して戻って来たり、それでも空いてない時はそのまま別の公園に行ったりするんだけど、今日は端の一席が空いていたのでそこに座る事にした。
近所に大使館とかカソリック教会とかインターナショナルなキンダーガーデンとかがあるので、外人さんの家族連れとかも多く、この日もテラスにファミリーが座っていた。
この公園はここに来るまでに長い坂道があって、ジュニアはそこを歩いてというか走って登りきってからカフェに来る事になるので、大抵の場合、疲れていておとなしいことが多い。
今日は、いつもにも増して結構な勢いでパタパタ走っていたんだけど、テンションが上がりすぎたのか、カフェについてからも雄叫びを上げていた。
僕はもともと、もの凄い短気な人間で、公共の場所で雄叫びをあげるガキとかは、ぶん殴ってもいいと思っていた方なので、そんな過去の自分に遭遇するリスクを回避するために、ジュニアのテンションが振り切れている時は、いつも肩に担いで公園に連れ出してあやす事にしている。
が、しがし、今日のジュニアはいつもより手強く、カフェを出て公園にいこうとすると激しくもがいて拒絶する有様だった。
ジュニアの雄叫びに、通路際に座っていたミニチュアダックスをつれた業界人っぽい夫婦があからさまに嫌な顔をしていたが、何かいけ好かない感じだったので、とりあえずシカトしておいた。
公園に出てからも、あんまりもがくので、面倒臭くなってリリースしたら、今度は一目散に車道にめがけて走っていく。
車道に出る寸前で後ろから抱きかかえるという、お決まりのコントを三回ほど繰り返したが、よっぽど車道に飛び出したいらしく、抱きかかえるとガン泣きしながら拒絶もがきを繰り返す。
子供というのは本当に親を成長させるもので、僕なんかもそんな状況でも全然平気になった。
どうせ嫁がいつものカレーとカフェオレを頼んでおいてくれるので、ジュニアの気が済むまでこのアホなコントに付き合ってやろうと思っていたら、今度はカフェの横の路地を見つけて、店の裏のほうへと歩いていった。
僕の頭の中では、カフェの裏は通路になっているとすっかり思い込んでいて、どうせ店のスタッフに驚いて戻ってくるものと思っていたら、しばらくたっても戻ってこない。
恐る恐る迎えに行って見て、目に入った光景に背筋が寒くなった。
実はカフェの裏は、手すりもない長い下り階段になっていて、ジュニアはその上から三段目ぐらいで、こっちを見て笑いながら下に降りて行こうとしていた。
とっさに抱きかかえ連れ戻したけれど、もうびっくりしたり安心したり反省したり、結構な精神的ダメージを食らった。MP消費した感じ。
これがひとつ目。
それからまた、一旦公園に連れて行ったんだけど、なんか一気に素に戻っちゃったので、メシ食ってとっとと帰ろう思い、叫びながらもがくジュニアを肩に担いで店に戻ったそのとき、
目の前を走っていた外人さんファミリーの女の子の足に、さっきのいけ好かない夫婦の足元にいたミニチュアダックスが、激しく吠えながら飛びかかったのだ。
半狂乱で泣き叫ぶ外人ガール、猛抗議する外人ママ、激怒する外人パパ、なぜか逆ギレしているいけ好かない夫婦、おろおろする店員、とその奥で完全に他人事でただカレーを待ちわびているうちの嫁。
外人さんは英語で、いけ好かない夫婦は日本語で、結構な剣幕で双方の言い分を話しているんだけど、お互いに相手の言葉はわかっているらしく、受け答えが妙に噛み合っているところが、より一層の不快感を周囲に惜しげもなく提供しつづける。
いけ好かない旦那は、吠えて飛びかかったけど咬んでいないと力説するが、吠えて飛びかかった時点でアウトなので、必死に弁解すればするほど、周囲は残酷な不運ショーを見ている気分にさせられる。
外人ママは咬まれたと強硬に主張。証拠に血が出ているというが、いけ好かない旦那は飛びかかられて転んだ時の傷だと力説する。
つかどっちでもダメくね?
外人パパは、外人モラルでの父親としての役割の在り方を瞬時に嗅ぎ分け、日本語を交えながら、論理的に彼らが被害者でいけ好かない夫婦が加害者であるという立場を明確にしようとするが、いけ好かない嫁がこれに逆ギレで対応。
「わかったわ。もうめんどくさいから、警察呼びましょう、警察。」
とか言って、このシーンから見た人はどっちが加害者だかわからないというか、変な外人に絡まれてる不運な犬好きの夫婦という彼女の脳内設定を前面に出すに至り、事態は一層の混迷を迎える。
ジュニアは背後での派手な怒鳴りあいを気にも止めず、テーブルの上にある全ての物質を触ろうとして、挙げ句の果てに服の袖にカレーを付着させて嫁に怒られる。
嫁はようやく出て来たカレーを食べたいのに、ジュニアは動き回るわ、僕の機嫌は悪いわ、横では派手な言い合いをしているわで、やっぱりちょっとイラッとしている様子。
僕は、ナイフ渡すから4人で殺しあって静かになってくれないかな、なーんて事は考えずに、咬まれたんなら言い合いなんかしてないで早いとこ病院行かないと、傷口から変なウィルスとか感染したらヤバくね? とか思いながら見てました。
極めつけは、外人パパが日本語で
「ボクモ、イヌ、ダイスキダケド、Controlデキナイナラ、ツレテキチャ、ダメ」
と、至極真っ当な事を言ったのに対し、いけ好かない嫁が
「あなただって娘のコントロール出来て無いじゃない。うるさくてみんな迷惑してたのよ。」
と、収まりかけた怒りに燃料を注ぐような発言で盛り上げる。
この頃にようやく警察が到着。
外人ママが必死の日本語と身振り手振りで状況を伝えたところ、警察は他のお客さんに迷惑だからと、ご一行を公園の入り口に連れて行き、そこでなにやら話を始めた。
ようやく静かになったけど、今更ですよ。
犬好きの人間の醜さと、平和な時間のありがたさを思い知った一日でした。
犬を溺愛するのは、傍目から見るとかなり醜い。僕だけだろうか。
そんで、吠えたり咬んだりしたら、その場でシバかないと駄目。迷惑をかけた人に対する礼儀でもあるし、そもそも犬は脳が未発達なので、あとから注意したりしても全く意味をなさない。これは子供でも一緒ですね。
でも、あの逆ギレぶりを見ていると、やっぱり犬は飼い主に似るって言う事なんですかね。
ま、咬んだのがうちのジュニアじゃなくてよかったなと。
いや、どちらかというと、彼らのために。