カウンターの前に回り出た彼は、ロビーを見渡した。
ただここからだと、死角になる場所がいくつもある。
もし今、ここに誰か入ってきてるとしたら
一目で見えるトコに、つっ立ってるバカはいない。
なんで、人が隠れていそうなトコを見ないと
意味はないんだよな、などとわかりきったことを
自分に言い聞かせる。
でも・・・・・ それが怖いんですけど。
彼としては、もう早く家に帰りたいし
とりあえず細部には目をつぶり、ザッと建物内を
見て回ろう、それでナニもなければヨシとしよう
それで一応、責任は果たしたということで。
帰った後のことは、ナニかあったら警備会社サン
よろしくお願いします。
そう決めた彼は、頼むから見つかるようなトコに
誰もいないでくれよ、と強く願いながら見回り始めた。
販売用のバッグの陰とか、インフォメーションボード
の裏側とか、カフェコーナーのイス、テーブル
大型モニター、本棚、カーテン、などなど
ほんの子供が、かくれんぼで隠れていそうなトコだけ
重点的に見て回った。
お客さんのバックを預かってるロッカーとか
修理用のクラブや工具がある作業ブースとか
暗くて人が隠れてそうなトコは、もちろんスルー。
そんなかんじで、大体のトコ回ったかな
もういいよな、さあ帰ろう
と、事務室に向かいかけたそのとき
彼の背後で
ピロリロ ピロリロ ピロリロ
でた、でた、またでた
トイレ、間違いない、トイレ、男子トイレ
しかも・・・・・ 今度は物音付き
絶対他の音もした!!
これは、 イ ・ カ ・ ン。
彼は、ダッシュで事務室に。
ハイ、即行ドア閉めカギかけました。
次することは、電話です。警備会社ですか警察ですか。
どうしましょう、ホント誰かいるんでしょうか。
ワカリマセン!!
ナンでとりあえず、警備会社にしときましょ。
「もしもし、契約してる○○ですけど、トイレでね、ナンか
物音がするんですけどね」
「営業終わってて一人なもんでね、できたら一緒に見て
もらえないかなあ、なんて思ってるんですけど、ハハハ」
心臓バックバクなのに、なぜか余裕あるふりの電話。
彼って・・・・・バカでしょ。
10分もかからず駆け付けてくれた警備会社の二人と
いよいよ、問題のトイレへ。
彼は、一番後ろから ”手ブラ” でついてきました。
クラブ持っていこうとしたら、怒られたそうで。
やっぱ・・・・・バカ。
トイレのドアをそっと押し開け、電気のスイッチをいれ
警備会社の二人が中に入っていきました。
副支配人はトイレのドアを押え、外側で待機。
誰もいません。
中の二人は、いよいよ個室へ。
まず手前、覗き込み、中に入り、そんで、ナンもなし。
そして、奥。
まず一人中に入り、そして次の一人も。
どうしたのかな。
そう思ってると、後から入った人が出てきて手招きを。
副支配人は、おもわず唾を飲み込みトイレの中へ。
外の人が体をかわして、ドアの内側へ入れてくれました。
中の人が指をさしています。
その先には。
この出来事から、もう1ヶ月近く経ってます。
それでも副支配人は、練習に来る人来る人
みんなに恐怖の一夜のハナシを、しまくっています。
初めの頃は、イヤ~、ほんとビックリしたよ、程度の話し
だったのが、それがだんだん大げさになってきて
この頃だと、どんだけサスペンスやねん、っていうぐらい
身振り手振りをまじえ、そんときの実際の立ち位置まで
示しながらの熱演です。
まあ、つまりは、なんてこたあナイ、ただの
置き忘れですよ、携帯の。
その日、練習に来てたお客さんが
練習場から帰って、風呂入って、ビール飲みながら
メールチェックしようとしたら、携帯が見当たらない。
家のどこだろう、っていうんで奥さんの携帯借りて
鳴らしてみたのが1回目のコール。
ありゃ、家にはナイぞ、車かな。
着替えてマンション1Fの駐車場まで降りて、車の
中で鳴らしたのが2回目のコール。
車にもナイ、こりゃ困った。
部屋に戻って、奥さんに相談。
誰か出るかもしんないから、もう一回鳴らしてみたら
ということで3回目のコール。
結局誰も出なかったんだけど、チョッとあとから
奥さんの携帯に、自分の番号が表示されて
かけてきたのが、副支配人だったということで。
練習終わりに、ウ○コしたくなって、和式なんで
ポケットに入れてた携帯を、タンクの上に置いた。
お腹はスッキリ、携帯はスッカリ。
そんで副支配人には、スッタリな夜。 Yoo~
くだらね。
ちなみに副支配人の、ゴルフの腕前は
楽勝シングルで、とっても上手です。
練習場のコンペでも、プライベートでも
遠慮というものを知らない、バカな彼は
数々の恨みをかっています。
今、馴染み客のあいだでは
いかにも恐ろしげな着信音でもって
副支配人に
刺激的な夜を
プレゼント
するなんて計画が
進みつつあるらしい、です。