※この記事はネタバレを含みます※

 

●あらすじ

推理作家として難事件を解決してきた香月史郎は、心に傷を負った女性、城塚翡翠と出逢う。彼女は霊媒として死者の言葉を伝えることができる。しかしそこに証拠能力はなく、香月は霊視と論理の力を組み合わせながら、事件に立ち向かう。一方、巷では連続殺人鬼が人々を脅かしていた。証拠を残さない殺人鬼を追い詰められるのは、翡翠の力のみ。だが殺人鬼の魔手は密かに彼女へと迫っていた――。

 

 

 

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●『 medium  霊媒探偵 城塚翡翠 』の内容(※ネタバレ注意)

 

第一話

推理小説作家の香月史郎のもとに、大学の写真サークルの後輩であった倉持結花に連絡が来る。

彼女は友達の小林舞依と一緒に、以前占い師に占ってもらったのだが、そこでよくないものが憑いていると言われたという。彼女はその言葉を大変気にしており、とある霊媒師のもとを訪れたいが、詐欺などの可能性もあり赴く勇気がなく、香月史郎に付き添いを頼んだのだ。

霊媒師の名前は城塚翡翠と言い、翡翠色の瞳、人形のような顔立ち、華奢な体つきをしていた。口調も非常に淡々としており、どこか人間離れした人物だった。彼女は倉持の職業を見事言い当てたり、倉持の身体にオーラで触れたりなど、芸なものを披露し、ある程度の信用を得た。そして後日、倉持結花の自宅を訪れ、そこで霊媒を行うという形になり、この場は解散された。

後日、香月史郎が待ち合わせ場所に向かうと、複数人の男性に絡まれている城塚翡翠を見つけた。しかし、彼女の雰囲気とは先日と異なり、おどおどと頼りなく、見ているこちらの庇護欲を掻き立てるかのような対応していた。説得力を出すためにミステリアスな雰囲気で対応することを、友人であり使用人の千和埼真に助言されているとのことだった。

待ち合わせの時間になっても、一向に倉持結花が訪れないことを不審に思った香月と城塚は、彼女の自宅まで赴く。自宅の鍵が開いており、中に入ることができた。するとそこには、変わり果てた姿で倉持結花が倒れていた。

香月史郎は以前、自身の推理小説の模倣をする犯罪者の逮捕を手伝ったことがある。そのため、警察とある程度つながりを持っており、特に鐘場警部とは頻繁にやり取りをしていた。

当初、香月と城塚が容疑者として挙げられていたがアリバイもあり、すぐに容疑者からは外された。香月と城塚は、倉持結花の無念を晴らすべく、再び彼女の自宅を訪れ、霊媒を行うことにした。

城塚曰く、霊魂は死後その場に残留するが、自身と波長が合うような人物でなければ霊媒を行えず、また、意識は死んだ直後のものであり、大体が支離滅裂な怨嗟の声だという。それでも、手がかりを掴む可能性に賭け、共鳴を行った。案の定、倉持結花の魂を感じ取った城塚翡翠からは悲鳴や絶望の声が多く発せられた。しかし香月は、その言葉の中で「どうして」という言葉を聞き取った。彼は本来、霊やオーラというものを信じていなかったが、このことがきっかけで彼女の力を信用することとなる。

不自然に床に割られたグラスや、「どうして」という言葉などから香月は理論立てて推理していき、犯人は彼女の友人だった小林舞依であると暫定した。結果、彼女は捕まり、倉持結花の殺人事件は解決へと繋がったのであった。

 

鶴岡文樹は女性を縛り上げ、監禁していた。そしてその女性に刃物を突き立てる。

叫び声をあげる女性に対し、痛いのか痛くないのかという質問をする。

彼と女性を結びつける接点はなく、鶴岡文樹は確実に証拠を残さない。

彼は鼻歌まじりで女性の死体を洗い流した。

 

 

第二話

黒越篤が、頭から血を流して倒れていた。それを見た城塚翡翠は、香月史郎にこう言伝する。

犯人は別所さんです、と。

黒越篤はベテラン怪奇推理作家であり、香月史郎とも親しい間柄であった。彼が別荘としている水鏡荘には幽霊が出現すると噂されており、黒魔術を行っていた魔女の住処という噂もある、不気味な別荘だった。黒越の家族は鏡の中に幽霊を見たと発言したおり、現在では黒越を除いた利用者はいない状態であった。彼主催のバーベキューに参加するべく、香月史郎は水鏡荘を訪れた。バーベキューを体験したことがないため、是非参加したいと言い付いてきた、霊媒師の城塚翡翠を連れて。

有本、新谷、別所、そして黒越のお手伝いをしている森畑という顔立ちでバーベキューや歓談を行った。有本と新谷は水鏡荘に出てくる鏡の中の幽霊を怖がっている様子だった。その後、宅配されてきた黒越の新刊である黒書館殺人事件が皆に配られ、パーティはお開きとなった。

香月と城塚は心霊現象を見るため、人通りが多いリビングでくつろいでいた。香月らは、有本、新谷、別所はお腹を抱えて、トイレのためそれぞれリビングを通っていた様子を見かけていた。

そして夜も更け、朝の9時に黒越の遺体がお手伝いの森畑によって発見された。

城塚は犯人が別所だと判断した理由は、リビングで見かけた際に、罪悪感のような重暗い匂いを感じたためだという。香月はそれを信じ、どのようにして別所が犯人であると証明し、論理立てるかを考案した。そして、城塚は昨日見た三つの夢が関係していると踏み、それを香月に伝える。

自分は身動きの取れない場所におり、身体があるかもわからないような状況にあった。

一つ目の夢は、有本が目の前にやって来て、城塚の方に手を伸ばしたと思えば、眩暈がして何も見えなくなった。

二つ目の夢は、眩暈を感じた後、別所が城塚をしばらく見つめた後、立ち去って行った。

三つ目の夢は、新谷が城塚の方に手を伸ばし、眩暈を感じ何も見えなくなり、そして急に新谷が見えるようになった。

当初、警察は黒越と浮気関係にあったという新谷が犯人と推定し、既に身柄を拘束していた。しかし城塚の見た夢と、香月の理論立てにより新たな証拠が見つかり、結局は別所が犯人とされ身柄を拘束された。

香月は城塚が夢の中で鏡として存在していたことを想定した。そして、彼らがリビングを通って入ったトイレにはキャビネットがあり、有本と新谷は幽霊を怖がっていたため、キャビネットを開け、鏡をふさいだ。夢の中で眩暈がして何も見えなくなったというのはこれだと判断した。そして、鏡には新谷の指紋しかついておらず、別所が血と指紋をふき取ったのだということを理論立て、解決へと導いた。

 

鶴岡文樹はまた失敗していた。質問に対する答えを聞けないまま、女性が息絶えてしまった。

彼はふと、テーブルの上の資料を見やる。その中で、ひと際目を引く女性の写真に吸い寄せられた。

城塚翡翠。

彼女こそ、自身の実験に相応しい人物だと確信していた。

彼女の側にいる人間から引き離せば、その身体に刃物を突き立てることが出来る。

 

 

第三話

香月史郎は自身の推理小説のサイン会で、多くのファンにサインを書いていた。

ふと顔を上げると、そこには城塚翡翠がいた。びっくりさせたくて来たのだと、舌を出しおどけてみせた。最後の一人はセーラー服の女子高生で、サインを終えると、手紙を渡された。香月はそれがファンレターだと思ったが、彼女の口からは、意外な言葉が発せられた。

「お願いです、わたしたちの学校が巻き込まれている殺人事件を解決してください」

被害者は武中遥香と北野由里。死因は絞殺で、マフラーのような柔らかい素材で殺されたことがわかった。そして、被害者の衣服は乱れていた。地面にスカーフが落ちており、足跡も付いていたことから、絞殺に使用したものはスカーフだということがわかった。香月と城塚で犯行の流れを再現していると、ふと城塚が倒れこむ。霊魂の共鳴が行われたと感じた香月は、取り乱す彼女の言葉を注意深く聞く。城塚翡翠は、「先輩、どうして」という言葉を口にした。武中、北野は二年生であったため、犯人は三年生。そして、城塚と調和したということは、女性であると判断した香月は、服装の乱れから男性の犯行であると仮定していた警察に対し、自然に近づける存在である女学生の可能性もあると言伝を残した。

香月に依頼した藤間菜月は、北野由里と親しくしており、同じ写真部に所属していた。香月と城塚、そして、学生からの不信感を生まないため蛯名という若い警官を連れ、当学校を訪れた。

香月らは当初、写真部唯一の三年生である蓮見を疑ったが、彼女と武中の接点が見当たらなかった。

武中と北野の二人と接点がある三年生として藁科琴音があげられたが、城塚は彼女からは重暗い匂いを感じることができなかった。殺人に後ろめたさを感じないサイコキラーの可能性もあったが、証拠が見つからない以上、容疑者として警察に引き渡すこともできない。

捜査が難航しているうちに、三つ目の事件が起きてしまった。被害者は、藤間菜月だった。

事情聴取の際、藤間菜月含む写真部の部員たちと、城塚翡翠はとても親しい間柄になっていた。そのため、城塚は藤間菜月の死をとても悲しみ、自分と香月の力で犯人を捜すと心に決めた。

北野由里の殺害現場には奇妙な跡が残っており、これがカメラのレンズであることがわかった。そこから、写真部の三年生である蓮見は本体とレンズが繋がっているネオ一眼カメラを使用していること。また、レンズキャップにはストラップをつけており、地面に落とすことはありえないとされ、容疑者候補から外された。そして、被害者たちと繋がりのあった藁科琴音は、写真屋の娘であるということが判明した。

藁科琴音の自宅に赴き、事情聴取と称して指紋を採取する。その指紋は藤間菜月についていたものと一致し、犯人は藁科琴音だと発覚した。

しかし、藁科琴音は姿を消していた。警察に訝しまれていることに気づき、最後の殺人を犯すつもりだと察した香月らと警察は、急いで彼女を捜索した。だが、誰がターゲットになっているのかがわからない。城塚はパニックを起こしていたが藤間菜月の霊魂と共鳴し、次のターゲットは写真部員である吉原だと言う。彼女の居場所を探り、間一髪のところで藁科琴音は拘束された。ベンチに座っていた女性の電話が中々終わらず、その場所を使えなかったことが功を奏した。城塚は学校に訪れた際、吉原の背後に姉の霊を感じており、霊が電話を長引かせたのかもしれないと香月は思った。

 

 

最終話

香月は、鐘場警部と共に世間を震撼させている連続殺人事件についての資料を見ていた。犯人は一切証拠を残さず、被害者の女性の共通点もなく、事件は難航していた。香月と城塚は死体遺棄現場を訪れたが、殺害現場ではないことと、死後から数日経過していることから、城塚は何も感じ取れなかった。

その後、城塚からの要望もあり、サービスエリアで夕食を済ますことにした。そして帰りにソフトクリームを購入し、城塚は香月の過去について尋ねた。会ったときから、香月に大切な人を亡くしたような匂いを感じ取っており、ずっと気になっていたという。

香月は彼女に自身の過去を伝えた。年の離れた義理の姉がいたが、強盗殺人によって目の前で殺されたという過去だった。そして香月は、今回の事件に巻き込まれることを懸念し、城塚に本件には関わらないようにと伝えた。確かに、城塚は自分に妨げようのない死を感じているということを口にしていた。

しかし、城塚は先生の力になりたいと言う。自分の荒唐無稽な能力を信じた先生を信じたいと。

香月と城塚は見つめあい、そして抱きしめ、キスをした。

香月は、近くに自身の別荘があることを伝え、そこで泊っていかないかと城塚に伝える。

千和埼真は実家に帰っており一週間ほどおらず、家を空けても大丈夫だという。

彼らは別荘へ赴く。香月が城塚の耳や首筋に愛撫していると、城塚はあることに気が付く。

香月は城塚が気づいたことを察知し、匂いや共鳴によって気づいたのか?と問いかける。

連続殺人事件の犯人は、香月史郎その人であった。

城塚は絶望した顔で彼を見やり、恐怖に震えた声をあげる。

香月は彼女を縛り、ナイフを構えながら距離を詰めた。

彼は城塚に、死んだ姉の降霊を行ってほしいと訴える。

唸り声をあげ、芋虫のようにのたまっていた城塚は、何も答えない。

すると、香月は奇妙な声を耳にした。それは、城塚の笑い声だった。

城塚は笑いながら、拘束を解かなければお姉さんの降霊はできないと訴える。

香月は、仕方なく手の拘束を解いた。しかし、城塚はなおも笑い続けている。

「できるわけがないでしょう、降霊なんて…ずっと信じていらしたんです?」

「わたしが、ほんものの霊媒だって、ずっと信じていらしたんですか?」

 

倉持結花と香月史郎の職業を言い当てたのは、観察眼と室内の盗聴によるもの。

オーラによって倉持結花に触れたのは、奇術…いわゆるマジックによるもの。

小林舞依が犯人だとわかったのは、用意されていたアイスコーヒーと、室内の状況から。

別所幸介が犯人だとわかったのは、黒書館殺人事件の書籍を抱えながらリビングを通っていたから。

藁科琴音が犯人だとわかったのは、スカーフが落ちていたから。

 

彼女は一つ一つの事件に詳しく理論立てをして、どのようにして犯人を突き止めたのかを伝えた。

城塚翡翠は、現場の状況などからたった数秒で犯人までを突き止めていた。

そして、霊媒の力を香月に信じ込ませるために、霊媒と称して彼に推理を促し、解決まで導いていた。

おどおどして、ふわふわして、おっとりしていた性格や行為は、すべて演技。

そして、城塚は香月が何故このような実験を行っているのかをも推理していた。

 

倉持結花の死体を見たとき、悲しみではなく、驚愕と憤りの表情が見て取れた。

まるで、獲物を取られてしまったかのような表情だったという。

そして、強盗に襲われた香月の姉は、ナイフで刺されていた。そこを香月が助けようとナイフを抜き、失血死で死んでしまった。姉は痛みで苦しんで死んでいったのか。自分の行いを正当化するために、このような実験を行っているという推理だった。

もしくは、ナイフで刺された義理の姉を見て性的興奮を覚えたのか…。

 

彼女はトリックを用いて香月史郎のスマホを既に奪っており、彼に画面を見せた。

画面上では鐘場警部と着信状態にあり、既に五十分以上が経過していた。

気が付けば、香月史郎は、複数の警察官に拘束されていた。

彼女は霊媒探偵 城塚翡翠。

香月史郎…鶴岡文樹のような社会の敵を排除するのが彼女の仕事だ。

 

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●『 medium  霊媒探偵 城塚翡翠 』を読んだ感想(※ネタバレ注意)

 

霊魂や感情の匂いを感じ取り、犯人を判明することができる城塚翡翠と、その犯人がどのようにして罪を犯したのかという理論や証拠を発見することができる香月史郎。

第一話から第三話までは、特殊なバディによる一風変わった短編推理小説といった趣であった。どれだけ証拠を残さないようにしても、霊媒や匂いによりすぐに犯人がわかってしまう。犯罪者から見ると全くもって最悪だろう。

 

しかし、様々な推理小説を読んでいると、犯人というものはある程度は目途がついてしまうものだ。もしくは、ネタバレなどをして先に犯人を把握してから小説を読んでいる人もいるかもしれない。

そのため、犯人が最初からわかっている推理小説というのはもの珍しかったが、読んでいて変な印象は受けなかった。どのようにして犯人が被害者を殺害したのかという観点に特化した推理小説として、なかなか楽しめた。

 

しかし、第一話も第二話も第三話も、いずれも少し引っかかる部分が残り、物語がひと段落していた。最後まで読むと、その引っかかった部分が何だったのか判明していく過程は心地よいものだった。まず、タイトルの霊媒探偵という部分も、第一話から第三話の物語だけ見ると、違和感がある部分だといえる。城塚翡翠は霊媒師であり、探偵ではない。探偵のように見えるのはむしろ香月史郎の方だ。

あらすじや、途中で挟まる鶴岡文樹による連続殺人事件の描写から、鶴岡文樹=香月史郎ということは薄々気づいていたが、城塚翡翠がインチキ霊媒師だったということは、正直驚いた。タイトルから霊媒という言葉をインプットさせ、作中で様々なトリックを披露していたことから、本当に彼女が霊媒師であると思い込んでしまった。また、香月史郎が主人公のような感じで物語が進むので、最終話で彼女が今までの推理について説明するシーンでは、彼女の方が悪者のような印象を抱いてしまうのが不思議だ。個人的には、おどおどした城塚翡翠よりも、最終話で見せてくれた余裕綽々とした態度の城塚翡翠の方が好ましい。あの性格で事件を解決していく彼女の姿を見てみたいと思った。

 

あらすじでは省いたが、最終話での城塚翡翠の推理はとても重厚で長く、読み応えがあった。しかし、読者の目線では推理しきれないようなものが多く、それこそ本当にその事件現場にいなければわからないようなものであった。だが、それを数秒で把握することができる彼女は、霊媒の力が嘘でも、それだけで立派な能力といえる。

香月史郎は最後、本当に城塚翡翠に霊媒能力がないのか疑問を抱いていたが、それは読者のあずかり知るところではない。しかし、彼女が香月史郎のことをどう思っていたのかは、エピローグで知ることができる。是非実際に本書を読み、城塚翡翠と香月史郎の関係とその行く末を楽しんでほしい。

 

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●今回レビューした図書の詳細

題名:medium  霊媒探偵 城塚翡翠

著者:相沢沙呼

発行所:講談社

 

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