※この記事はネタバレを含み"ません"※

 

●あらすじ

この小説は、あなたの想像を超える。結末は、絶対に誰にも言わないでください。「突然のメッセージで驚かれたことと思います。失礼をお許しください」――送信した相手は、かつての恋人。SNSでの邂逅から始まったぎこちないやりとりは、徐々に変容を見せ始め……。ジェットコースターのように先の読めない展開、その先に待ち受ける驚愕のラスト。前代未聞の面白さで話題沸騰、覆面作家によるデビュー作!

 

 

 

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●『 ルビンの壺が割れた 』の内容(※ネタバレはありません)

 

本作は書簡体小説であり、本文は全てフェイスブックのメッセージで成り立っている。

ある日、水谷一馬は大学の頃付き合っていたがトラブルで消息不明となっていた女性、結城美帆子(旧姓:田代)のフェイスブックアカウントを見つける。
水谷一馬と田代美帆子は大学時代演劇サークルに所属しており、結婚の準備段階にまで関係は進んでいたものの、美帆子が会食をバックレ、そのまま音信不通となってしまったのである。

一馬は、何故美帆子が突然姿を消したのか。その理由について尋ねるためにコンタクトを図るが、ファーストコンタクトでそのような話をするのはどうかと思ったのか、大学時代の思い出話などを踏まえたメッセージを送信していく。
美帆子はそのメッセージに対して、時間を空けて返信をする。そして、お互いのフェイスブックでの交流が始まる。

最初は大学時代の昔話や、お互いが何故お互いを好きになったのかという話などをやり取りしていた。美帆子は演技力がとても高く、一馬は部長として尊敬の念を抱いており、一方の美帆子も、一馬の演出の腕を尊敬しており、お互いに特に目立った交流もないまま、好意だけが存在しているような間柄であった。
そして演劇メンバーと海へ出かけたときに、交流の機会があり、そのまま付き合うことになったのだ。

すると次第に、お互いが気になっていたことについて話がシフトしていく。
一馬は、何故会食をバックレて音信不通になったのかという理由について。
美帆子は、何故婚約者がいるのに私と付き合うことにしたのかということについてだった。
そう、一馬には婚約者がいたのだ。
その婚約者の名前は優子と言う。

一馬は幼い頃に両親を亡くしており、親戚の叔父に引き取られることになったのだが、そこに居たのが優子であり、叔父の妻の連れ子という存在であった。つまり、血の繋がっていない兄妹という関係だ。
一馬が大学に行くために家を離れることになったとき、優子は断固として一馬に着いていくことを望んだ。叔父は、優子が一馬のことを愛していることを知っていたので、優子を婚約者にしてほしいと一馬にお願いする。
一馬は優子のことは嫌いではなかったし、引き取ってくれた叔父に感謝の気持ちもあったので無下にはできず、婚約者として娶ることを承諾した。
しかし、優子にとあるトラブルが発生し、二人の仲は悪くなり、更に以前から気になっていた美帆子と良い関係を結ぶこともできたため、離婚を決意したのである。

そして、ついに一馬は美帆子が何故会食をバックレたのかについて言及する。
美帆子にも仲の良い男の友人である高尾がおり、
美帆子が高尾とホテルに入っていくのを見たという声を、他の演劇部員から聞いていた。そのため、一馬は高尾に乗り換えたのではないか。会食のバックレも、高尾が影響していると思っていた。
すると美帆子はとうとう、あの頃の真実を語り始めたのであった。

 

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●『 ルビンの壺が割れた 』を読んだ感想(※ネタバレはありません)

 

これは何とも不思議な小説だ。以前取り上げた『恋に至る病』とはまた違ったベクトルの「どんでん返し」。いや、どんでん返しという言葉自体この小説に合っているのかどうかすらわからない。最初は桃色の絵具で描かれていた絵画が、読んでいくにつれて様々な色で塗り変わっていく。『ルビンの壺が割れた』はそのような小説だ。

本作は書簡体小説と呼ばれる、物語が登場人物の手紙として書かれている小説である。そのような形式の小説は様々な書籍で見てきたが、『ルビンの壺が割れた』に関して述べると、私は最初のページを見た瞬間から江戸川乱歩の『人間椅子』を想起した。
『人間椅子』は男性からの一方的な手紙であるし、『ルビンの壺が割れた』は手紙ではなくフェイスブックを用いているので、全く別口のものではあるが、根本的に近い部分があるように思う。

また、本作はネタバレをしてから読んでもあまり楽しめないのではないだろうか。『ルビンの壺が割れた』は読んでいくにつれて塗り変わっていく物語を楽しむものであって、最初から塗り変わった物語を見ては、塗り変わっていく様子を楽しむことができない。本作は過程を楽しむ小説である。

私が購入した書籍にはカバーが付いており、ネタバレ禁止!という注意書きや、鳥肌が立った!といった読了者の感想がびっちり書かれており、何とも俗世的な施しが成されてある。
最後にどんでん返しがあります等といったという煽り文句は、それを見て購入する人もいるので、良いとも悪いとも言えない。かく言う私も、ネタバレ禁止!の注意書きを見て面白そうだなと思って購入したのだ。

いや、今回はそういった話をしたいわけではないのでこれについての言及は置いておく。 

そのカバー内の読了者の感想の中に「もう一度読みたい」といった内容の文章があった。
私も二周目を楽しみたいと思ってもう一度読んだのだが、初見で塗り変わった物語が更に塗り変わったので、これにも不思議な感覚を覚えた。
しかし二周目はただ上書きされるだけではなく、最初に抱いた感情が上書きされているので二度美味しい。初見時は真っ白なキャンバスが塗り変わる過程を楽しむ物語だとすれば、二周目は既に完成されている絵画を別の絵画に書き換える様子を楽しむ物語だ。
また、様々な伏線もあり、それを二周目でそういうことだったのかとわかる様子も楽しい。やはりどんなものでも伏線回収というのは面白いものである。

本作の感想レビューを上げるに至って、ネタバレありの内容紹介をするかどうか考えたが、今回はネタバレありの内容紹介は避けることとする。
ブックカバーがネタバレ禁止を訴えているからという理由もあるが、先程も述べたように『ルビンの壺が割れた』はネタバレをしてから読むと魅力が半減されてしまう。
この世の作品の中にはネタバレをしてから見ることによって作品に深みが出るものもあるが、本作に限ってそれはないと言っていい。むしろ、ネタバレをしないで読む方が確実に深みが出るので、もし本文を読んで内容を気になった方がいれば、ネタバレをする前に『ルビンの壺が割れた』を読了することを強くオススメする。
本作はページ数も少なく、一日で読めるくらいの量なので、読書が苦手な方でも楽しめると思う。

 

 

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