※この記事はネタバレを含みます※

 

●あらすじ

嫌煙運動は苛烈を極め、喫煙者は全国で迫害を受け始めた。男は最後の一人になるまで喫煙することを誓うのだが……。スラップスティックの傑作「最後の喫煙者」。人気のない悪役俳優の怒りをコミカルに捉えた「夜のコント」。規則に縛られたレストランのボーイの狂気を描く「冬のコント」。数学教育に革命的な叡智を見せる「『聖(セント)ジェームス病院』を歌う猫」等、疾風怒濤の全18編。

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------

 

 

●『 夜のコント・冬のコント 』の内容

 

夜のコント・冬のコントは全18編からなる短編集である。

目次の順番にあらすじを簡潔に述べていきたい。

  • 夢の検閲官
    子供が亡くなってから、悪夢しか見ることができず苦悩している母親。
    そんな母親の潜在意識の中に訪れる悪影響を及ぼすモノたちを、脳内で
    夢の検問官達が支離滅裂で、なおかつ子供の死を想起させないような
    夢の内容に変化させていくが・・・。
 
   
  • カチカチ山事件
    日本の昔話”カチカチ山”を見聞きしいる子供たち。
    子供たちの反応は様々で、捉え方の多様性と感受性の豊かさについて
    考えさせられる。
 
   
    あまり仲が良くない夫婦とその息子が、川遊びをしている。
    家族は川にいる魚を手づかみで捕まえようと模索するが、時間が経つにつれ
    異様なほど魚の数が増えており、水位も上がり始め、危険な状況になっていく。
    夫は息子に対して、近くのホテルに助けを呼ぶよう頼み、息子は走り出す。
    しかしなかなか息子は帰って来ず、水位が上がる川の中で夫婦は喧嘩を始める。
 
   
  • レトリック騒動
    言語学者によって隠喩、換喩、諷喩を用いた慣用句やことわざが
    全て自律的に存在し始めた。
    警官に取り囲まれた犯人は袋の中に入って鼠となった。(袋の鼠)
    小判を貰った人間は猫に真珠を貰った人間は豚になった。(猫に小判、豚に真珠)
    死んだ者の口がなくなって欲張りの咽喉から手が出た。
    (死人に口なし、喉から手が出るほど欲しい)
    など、様々な出来事が起こり、世界は大混乱に陥った。
 
   
  • 借金の清算
    借金取りが債務者に、借金を返済するように訴えている。
    債務者は全額ありますと言い、風呂敷の中から様々なモノを出していく。
    しかし、図書券やテレフォンカード、商品券など、どれも的外れなモノで・・。
 
   
  • 上へ行きたい
    区役所でエレベーターに乗ろうとする男。しかし、そのエレベーターに乗るには
    申請書が必要だと言われる。
    ここは階層単位社会で、下の階は貧民街で上の階は優秀な人間が多いという。
    何をするにも様々な場所でたらい回しにさせられるという皮肉を含んだ小噺。
 
   
  • 簞笥
    先祖が商人である男性と、その幼馴染で家元がお金持ちの女性が、
    男性の祖父の土蔵を見物している。
    土蔵の中には様々な芸術品やお宝が眠っていた。
    その中に、鍵のかかった箪笥があり、二人は試行錯誤して箪笥の鍵を開ける。
 
   
  • 巨人たち
    教授や衆議院議員、社長など様々な実力家が一斉に巨人症を患った。
    共通点はないものの、身体が大きく邪魔とされた経緯と天才を集めたら
    どのような会話がされるのかという興味から、全員が
    ”巨人の館”という一つの家に住むようになる。
 
   
  • 鳶八丈の権
    神具職人の彌三郎は精神の病気を患い、妻と息子を残して入院する。
    退院後、彌三郎は自分がいなかった間の妻の様子が気になり、友人の平吉
    に遠回しに妻が何をしていたかを聞き出す。平吉は口止めされていたものの、
    鳶八丈の権という男の家に通っていたと、口を滑らせてしまう。
 
   
  • 火星探検
    宇宙飛行士の男は火星探検へ飛び立つ当日、件の宇宙船に向かう電車の中
    で昔馴染みのお婆さんや小学校の先生と出会う。
    しかし、高校時代の同級生である栗原が男に対して、宇宙飛行士は俺達の金
    で火星まで行くんだなどと嫌味ばかり言う。お婆さんや先生もその嫌味に
    感化され態度が急変し、男を宇宙船まで行かせまいとする。
 
   
  • のたくり大臣
    通産大臣とその秘書官は業務に追われ、三日も寝ていない状態だ。
    会館での和室で休憩している二人は、二時間後には各大臣への報告をする
    ため、いまは寝ない方が楽だと思い、”ノンドルミラン”という売薬の錠剤を摂取
    する。しかし、二人はたちまち呂律が回らなくなり、視界もぼんやりし始め・・・。
 
   
  • 「聖ジェームス病院」を歌う猫
    勉強中に寝てしまった男子学生は、テストの前日にいつも見る夢を見ていた。
    数学のテストを控えていたため、数学の内容に関する魔物や人物が登場する
    ファンタジーな夢であったが、男子学生はファンタジーが嫌いだったため、早く
    目が醒めることを望んでいた。夢の最後に「聖ジェームス病院」の曲に合わせ
    変な歌詞で歌っている猫が現れる。
    その歌詞は今回の数学のテストの範囲に通ずるものだった。
 
   
  • 冬のコント
    港町の山手にあるレストランのボーイは料理長に、客に料理や調味料の説明
    をするように命じられていた。客からもボーイからも不評であったが、料理長は
    やめることを頑なに承知しなかった。
    ある日、レストランに破局寸前の夫婦が訪れる。妻に不倫疑惑があるようで
    夫は妻に怒鳴り尋問する。ボーイは戸惑いつつ運んだ料理の説明をし始め・・・。
 
   
  • 夜のコント
    左近享吉という悪役俳優のパーティが開かれる。しかし、
    千人収容できるはずの会場には数名のコンパニオンと若手役者しかいない。
    噴火寸前の左近享吉に、ホテルのスタッフは震えながら、アコーデオンドアを
    移動させ、大盛況である隣の会場に少し譲ってほしいと頼み込む。
 
   
  • 最後の喫煙者
    嫌煙権運動が行われ始めた社会。喫煙者差別を面白くないと感じた
    ヘビースモーカーの小説家は嫌煙権運動を痛烈に叩いた。
    その時から嫌煙権運動は活発化してしまい、たばこ会社が倒産するなど
    喫煙者の数が減り始める。小説家は最後の喫煙者になってやろうとヤケになり、
    嫌煙権団の追っ手から逃げる。
 
   
  • CINEMAレベル9
    映画好きの男が、近所の地下鉄の駅ビルに映画館があることを発見する。
    しかも、その映画館が上映している映画はどれもフィルムが存在しなかったり
    生きているうちにはとても見られないような代物だった。
    切符売場の娘に尋ねると、映画館は地下九階にあるという。
    男は恐怖と興味を抱きつつ、エレベーターに乗る。
 
   
  • 傾いた世界
    マリン・シティという島が傾き始めている。文具屋の強弱文具郎は、計測器の
    傾きからそう感づいた。マリン・シティの市長や職員の妻などに訴えるも、全く
    相手にせず、それどころか頓珍漢な応答をするばかり。
    日が経つにつれ島は少しずつ傾いていき、頭痛や怪我などを訴える市民の
    数が顕著になっていく。
 
   
  • 都市盗掘団
    戦争中の爆撃により都市部で陥没した建物が多い街で、建築工事の仕事を
    しつつ盗掘団としての暗躍もしていた斎藤。彼は十メートルも陥没してしまった
    日本家屋に興味を持ち、その家族と交流を図る。
    そこで暮らしている家族は斎藤を歓迎し、娘は斎藤のことが気になっている様子。
    しかし、斎藤の同僚である椿も、日本家屋の娘を気に入っているようだった。
    斎藤と椿は他のメンバーと共に香港で盗掘の仕事に飛び立つことになる。
    そこで椿は斎藤に、爆弾を用いた危険な盗掘を提案する。
 
----------------------------------------------------------------
 
●『 夜のコント・冬のコント 』を読んだ感想(※ネタバレ注意)
 
恥ずかしながら私は、『映画 パプリカ』『心狸学・社怪学』しか筒井康隆の作品を履修していない。しかし、筒井康隆の作風を理解していると自負している。
『夜のコント・冬のコント』で最も好きな短編は、レトリック騒動だ。
著者の作品に顕著な言葉遊びを十分に披露している。未読だが、『残像に口紅を』を彷彿とさせた。
また、男性と女性の違いや人間の心理的描写の表現、社会に対するブラックユーモアが巧妙である。
最後の喫煙者や傾いた世界など、実際にそのような事柄が起こった場合の人間の行動、政府の行動などが想像に難しくないという点が、筒井康隆の作風のひとつであり、非常に優れた点であると考える。
短編集ということもあって気軽に読むことができ、なおかつ内容が深くしっかり作り込まれているため、小説初心者や筒井康隆初心者にとってとても読みやすい本であると思う。
 
----------------------------------------------------------------
 

●今回レビューした図書の詳細

題名:夜のコント・冬のコント

著者:筒井康隆

発行所:新潮社

文庫名:新潮文庫

 

----------------------------------------------------------------

 

フォローしてね…