※この記事はネタバレを含みます※

 

●あらすじ

超情報化対策として、人造の脳葉<電子葉>の移植が義務化された2081年の日本・京都。

情報庁で働く官僚の御野・連レル(オノ・ツレル)は、情報素子のコードのなかに

恩師であり現在は行方不明の研究者、道終・常イチ(ミチオ・ジョウイチ)が残した暗号を発見する。

その”啓示”に誘われた先で待っていたのは、ひとりの少女だった。

道終の真意もわからぬまま、御野は「すべてを知る」ため彼女と行動をともにする。

それは、世界が変わる4日間の始まりだった―――。

 

 

 

 

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●『 know 』の世界観

舞台は、<電子葉>の存在が当たり前になった社会の京都。

<電子葉>というのは人造の脳葉であり、言ってしまえばインターネットのようなものなのだが、それが脳にあることで、見たり聞いたりしたことを即座に調べることができる。

そのため情報提示にラグがなく、「元から知っている」と「調べて知る」に大差がない。

 

それに伴い、情報庁という行政機関が設立されている。

 

また、<電子葉>で得られる情報には、情報格…クラスによって異なる。

最底辺の地位である「クラス0」では、情報が得られない。情報が守られない状況になる。

すなわち、オープンソース。文字通り丸裸にされる。

対して「クラス4」は、情報を扱う専門家に付与される権限。

「クラス5」は、情報庁の上級職員や審議官に付与される権限。

「クラス6」は、内閣総理大臣と各省大臣に付与される権限クラスである。

 

そして、<電子葉>には「啓示装置」が搭載されている。

啓示装置から伸びる神経を直接モニタし、それに介入することができる。

つまり五感を用いて、見えているものや聞こえている音をデータとして取得できる。

見えていないものや聞こえていない音を現実のように作り出すことも可能である。

 

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●『 know 』の内容(※ネタバレ注意)

know は全6編から構成されている。副題は以下の通りである。

  • Ⅰ.birth
  • Ⅱ.child
  • Ⅲ.adult
  • Ⅳ.aged
  • Ⅴ.death
  • epilogue
 

主人公の御野・連レルは、情報庁の官僚として働いている。

過去に道御・常イチという先生と出会うことで、彼は多くのことを知る。

しかし、道御・常イチは手紙とソースコードを残し、何の前触れもなく姿を消した。

残された手紙に従い、彼は数少ないクラス5になり、情報庁で働くこととなったのだ。

 

しかし、とある少女が登場すると、物語が一変する。

少女の名前は道御・知ル。主人公が尊敬する先生の娘である。

彼女はただの少女ではない。

<電子葉>ではなく、違法とされている<量子葉>を持つ存在。

すなわち、クラス9。

世界の全てを知る存在。

 

知ルが登場してからというもの、話が<電子葉>や情報などのサイバー的な内容から、曼荼羅や無上正覚、エデンなどの仏教・創成的な内容へと、徐々にすり替わっていく。

何故なら知ルは、人類が誰一人「知らない」世界を「知りたい」と思っていた。

その世界というのは、死後の世界。

物語の終盤で主人公がそれを理解するころには、知ルはその世界へ行く寸前であった。

そして知ルは、そのまま息を引き取った。

 

epilogueは、とある親子の会話から始まる。

親は子供に対して、まるでこれから遠足にでも行かせるかのような会話をしている。

子供は心配性な親に呆れながら、一言つぶやく。

「死んだあとのことなんて、子供でも知ってるよ」

本書はこの一文で終幕を迎える。

 

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●『 know 』を読んだ感想(※ネタバレ注意)

私はknowを読む前、本書はSF小説であると認識していた。

しかし読了後、その認識は一変した。

knowはSF小説に分類されづらい内容だと思った。

 

序盤で説明される世界観だけを知れば、SF小説のような印象を受ける。

人造の脳葉<電子葉>や、情報庁などは本当に細かく設定されており、世界観に関してはすんなりと頭に入ってきた。

また、主人公(御野・連レル)が尊敬する先生との対話や、集落での子供たちの様子など、様々な観点から切り込んでいるため、単調で飽きるということもない。専門的な単語も多く出たため多少わかりづらい部分はあったが。

中盤から終盤にかけて繰り広げられる、曼荼羅や輪廻転生、エデンなどの記述に関しても、上記のような印象を受けた。

しかしこの時点で、世界観が少し無視されているなと感じた。それに、知ルが目指していたのは「死後の世界」。情報やIT、SFには現れることがあまりないのではないかと感じた。

 

とは言っても、SF小説かどうかという点はあまり重要ではないだろう。

本書の本当の魅力を、ピックアップして3つ述べたい。

  • 世界観設定の応用の高さ
  • 情報の動きが視覚化されるシーン
  • epilogueの余韻

まず、<電子葉>や<量子葉>などの設定をよく使いこなせているなと思った。

知識量をクラスとして分けることで能力の高さの違いがわかりやすく、それに伴ったトリックなども完成されていた。

特に印象に残ったのは、物語の中盤で登場した「クラス*」だ。

国が定めた制度の裏側に存在する上位クラスという、クラス9とはまた違うベクトルのチートであり、<電子葉>を持つ者が行っている五感による<啓示>から、幻覚や”人にそう思い込ませる”ような<電子葉>の使い方をしている。

対して知ルは、それすらも上回る<電子葉>の使い方をする。

相手からのアクセスをその場で解析して処理し、逆にハッキングし返すというチートな技を使ってくる。

設定がこのように規定の範囲内で変化・展開することで、新たな発見や可能性を見出せるため、私は楽しく飽きずに見ることができた。

 

そして、情報の動きが視覚化されるシーン。

通信量が高ければ赤い色になるため、血のようだという表現がよく使用される。

そのため情報の動きや変化を、グラフなどの単純めいたものではなく、液体のような抽象的なイメージとして想像することができる。美しく禍々しい情景が目に浮かび、本書の新たな印象を受けた。

 

最後に、epilogueでのとある親子の対話。

最後の一文を読んだ後に、様々な考察をすることができる。

死後の世界はどうなっているのか。知ルはどうなったのか。知ルはどのようにして帰って来たのか。死後の世界が当たり前になった世界はどのようなものなのか。などなど。

死後の世界というものを信じてはいないが、その一文に無数のロマンを感じた。

1ページめくったあとに一文がある点も、読者を感嘆させる技法として優れていると思った。

 

本書はまさに、新しいことを、新しい世界を「知る」ことができる作品であると思う。

 

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今回レビューした図書の詳細

題名:know

著者:野崎まど

発行所:㈱早川書房

文庫名:ハヤカワ文庫

 

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