今、ちょっと気になっていることがある。それは、主にリトープスに対する微量灌水の手段としての「腰水」と「シリンジ」の問題だ。ご存じのように現在、私はこの二つを使い分けていて、冬場や脱皮時期には腰水を、夏の高温期にはシリンジをしている。この内、夏場のシリンジに関しては広く行われているし、理屈としても納得がいく。要するにこれは、自生地での降雨や霧による結露を再現している手法だからだ。特に、夏場の高温対策が必要な我が国においては、植物体そのものを冷却する上で有効な手段だと感じている。一方、これに対して(いきなり大前提的な話で恐縮だが)腰水とはそもそも何なのだろうか。というのは、降雨であれ霧であれ、野生の状態で「植物体は濡れることなく土壌の深部だけに水分が供給される」などという現象が起きることは考えにくいからだ。特に、メセンの自生地のような乾燥地帯にあっては尚更のことである。もちろん「ちょっとだけ水分を与えたい」という目的自体は理解できるのだが、この方法には自然界では起こり得ない不自然さが伴ってはいないだろうか。
ところで、このページから読み始めた新読者の方で「脱皮時期のリトープスに灌水なんかしたら二重脱皮しちゃうよ。この人、バカなんじゃないの?」と思った方がおられるかもしれないので(笑)念のため改めて説明しておくが、リトープスは脱皮中でも「ある程度(微量)の灌水」は必要なのである。もちろん鉢内がダクダクになってしまうような大量灌水はNGだが、新旧の葉が完全に入れ替わるまでずーっと断水を続けていたら、新葉がまともに成長できなくなっておかしなことになるのだ。したがって、ちゃんと育てられている人の多くは、腰水をしたりチョロッと軽く灌水したりしている。ここで問題にしているのは、その腰水は微量灌水の方法としてはどうなのか、ということだ。
で、気になって調べてみたら、(少数派だろうと思うのだが)脱皮時期の微量灌水としてシリンジをしている栽培者もいることが判明した。更には、冬場を通しての灌水手段として(といっても晴天の日の朝などに)シリンジをしている人もいるらしい。ちなみに、寒い時期のシリンジはいかがなものかと思ったので更に調べてみると、(海外サイトの情報なので怪しいかもしれないが)どうも自生地ではむしろ秋から冬にかけての方が霧の発生が多いという情報も…。というわけで(またしても怪しげな根拠に基づく個人的見解だが)もしかしたら、リトープスに対する微量灌水は全てシリンジでまかなってもいいのではないか。というか、それがむしろ生態的にも自然なことなのではないか。それに、腰水は作業的にも面倒くさいから(←ダメなおっさんだなあ)本当にシリンジで済むのならありがたい。でも、やっぱり脱皮時期にやるのは何となく不安だよなあ…。そこで、ちょっとした比較実験をしてみることにした。うちの麗虹玉はよく増えて現在2鉢ある。万が一に備えてのことで麗虹玉には大変申し訳ないが、この内の片方を実験台にして、脱皮中の微量灌水をシリンジでやってみるのだ。特に麗虹玉は水分過剰になると(我が家では)身割れしやすい種類なので、そのような場合には明白な異変が現れるはずである。それでもし二重脱皮などをするようであれば、やはりこの時期のシリンジはアウト(=脱皮中のデリケートなリトープスに水なんかかけちゃダメ!)という結論になるだろう。でも、改めてここでちょっと考えていただきたい。我が国においても、脱皮時期に完全断水すれば生育に支障をきたす。だから自生地でも、わずかな水分供給は受けていることだろう。したがって、給水量がよほど多くない限り、球体が濡れたことくらいで異常脱皮につながるとは考えにくいと思う。ここで念のために言っておくが、自生地での霧による結露は夜から朝にかけて発生し、乾燥地帯の強烈な太陽が昇れば消え失せてしまう。なので、ネットでよく見かける「脱皮中の乾いた自生地リトープス」の写真は、この問題提起に対する反証にはならない。なぜなら、これらの写真は昼間に撮影されているからだ。
いうまでもなく、南アフリカと我が国の気候は大きく異なっている。夏は湿度が高い上に熱帯夜もあるし、晴天時間(=積算日照量)も大幅に少ない。なので、それらに対処しようとして様々な「特殊な」栽培方法が編み出されてきた。遮光・断水して夏季休眠させることや脱皮中の完全断水などはその典型例だが、それらが必ずしもうまくいっていないことは、あまたのリトープスたちの尊い犠牲によって実証されつつある(冥福)。だからこそ、この際だから栽培の常識を片っ端から疑ってみようと思っているのだ。話を元に戻すが、脱皮中に水分が多すぎると異常脱皮する原因はといえば、当該時期の自生地にはほとんど降水がないからだろう。ところが、脱皮中の完全断水を推奨している人々は、「脱皮が終了したら灌水を始めて新葉を育てろ」とも言う。いやいや、自生地の状況で考えれば、(霧は発生しないものとして)「雨雲が」リトープスの脱皮が終わりかけた頃合いを判断してタイミングよく雨を降らさない限り(苦笑)、そんなことは不可能だ。したがって、脱皮中や脱皮後に水分供給があるとするならば、それは間違いなく霧による結露か微量の雨によるものだろう。それに、我が国のこととはいえ、この季節はまだそれほど温度も湿度も高くはない。球体が濡れて少々の水が根元に流れた程度で異常脱皮したりするとは、ちょっと考えにくいとも思う。というわけで、この実験は試してみる価値があると思うので、結果は追って報告する。麗虹玉の脱皮に異変が生じなければ、私は腰水を完全にやめて微量灌水はシリンジ一本にすることになるだろう。