毎日新聞2015年6月12日大阪3面【クローズアップ2015朝日弘行・大久保歩両記者】『軽減税率』に関する記事を読んで思うところがあり本稿となった。該記事の引用はしないので原文を参照いただきたい。
初めに私の手許にある貝塚啓明・東京大学名誉教授(元財政制度等審議会会長)の著書『日本の財政金融』(有斐閣、1991年7月10日初版第一刷)から引用する。
「通常の租税過程においては、税制改正、あるいは税制改革は、大蔵省(財務省)主税局によって準備される。この準備において税制調査会は税制改正、あるいは税制改革における色々な見方を吟味し、租税政策に影響を及ぼす利益団体間の調整者として行動する。税制調査会の30人以上のメンバーは、色々な職業の人々から成立している。すなわち、財政専門家、ジャーナリスト、大蔵省(財務省)や自治省(総務省)の官僚であった人々、市町村長、労働組合代表者、中小企業代表者、農業代表者などである。税制調査会の正式のメンバーには、政府の官僚はいないが、政府はその答申に大きな影響力をもっている。なぜならば、税制調査会は主税局によって準備されたデータや分析に基本的に依存し、そのメンバーの幾人かは政府との関係が深いからである。よく知られているいるように、日本の官僚機構は、その部局の活動範囲の維持を正統化し、その政策の方向を自分の意図に沿わせるためにその部局によって設立された各種の委員会を活用しているのが常である。主税局は、税制調査会のメンバーが幅広い意見をもつことをおそれてはいないが、税制調査会が他の政府の委員会の例外であるとはいえない」
さらに貝塚教授は「・・(政府税制調査会の)租税政策に対する影響力は、政治の世界における自由民主党の長期にわたる優越的地位のために最近低下してきた。すなわち、自由民主党の税制調査会(党税調)が利害関係者間の対立を調停するのにより大きな影響力をもってきたのである。税制の細部の変化が利害団体の利益に時には決定的に影響をもちうるので、税制改正、あるいは税制改革の細部の仕上げに特に自由民主党の影響力が増加している」と述べている。
そして、現連立政権の公明党税制調査会がある。この自公与党税制調査会会長に抵抗する省庁の官僚は極めて少なかろう。
そのうえで、私の軽減税率導入の考えを若干述べたい。
現在、国の長期有利子負債がGDPの倍以上あるという事実をしても、「入りを図りても、出を制す」ことができなかった時々の政権と財政当局に責任があると言えることではないか。その中で、トマ・ピケティ教授ならず米国FRB調査や国際機関調査での所得や資産格差が生じている。日本においてアベノミクスのQQEで株高になり株取引で利益を得た人々もいよう。が、一般庶民で株取引に参加している人々の割合がどの程度だろうか。私もそうだが普通の庶民の暮らしの支えはささやかな給与所得と抑制された年金である。
ならば、軽減税率導入の理論を述べるまでもなく、租税の政治過程の最後に、財務省の最終案がそれが当初案だとしても、国民が政府を信頼するに至る過程を重んじ軽減税率の適用を講じることが、国民が税金や社会保険料としての自らのお金を信頼しうる政府に預けることになる。地方庁とて同じことだ。
なぜなら、再度強調するが国の長期有利子負債の現在額はGDPの倍以上ありとても消費税率10%ですむものでないことは自明であるからだ。20%にしてもそれはおそらく難しいだろう。繰り返すが、もし国民に新しい租税の制度設計を示すならば、今この段階で購入頻度が高い生活必需品の税率を低く抑えることで、日々の生活への配意する軽減税率の導入を国民に示すべきである。
かつて恩師の故坂本忠次・岡山大学名誉教授と講読した神野直彦・東京大学名誉教授(税制調査会会長代理)の著作『財政学』(有斐閣、2007年4月25日改訂版第1刷)に次の一節がある。
「・・租税の『公正』を求める努力にカナール(Nicolas F.Cannard)は、『旧税は良税なり、新税は悪税なり』という皮肉な『カナールの法則』を唱えている。つまり、不公正だと思われる旧税を、より公正に改正しようとしても、国民は負担感をかえって強める結果になると警告している。
それは不公正な租税であっても、制度的に定着している租税のほうが租税抵抗が少ないことをも意味している。そのため公正を求めるという努力を棚上げにするという誘惑が、現実の税制改革では働く結果となる」。
最後に、友人の上岡美保子・就実大学特任教授(元日本貿易振興機構ジェトロ・ストックホルム事務所長)が参考にメールをしてくれたスウェーデンの付加価値税の表を紹介しておきたい。
<了>
スウェーデン【付加価値税(日本の消費税にあたるもの)】
税 率 対 象
原則25% 一般的な物品の販売・サービスの利用すべて
12% (軽減税率) 食料品、レストランでの飲食、ホテル宿泊料金 等
6% (軽減税率) 書籍、新聞、旅客公共交通料金、映画や博物館の入場料 等
0% (免除) ガス・水道・電気、医療、教育、社会サービス、等
注)各国の税財政の体系は異なるのであくまでスウェーデンの例示である。