BAR CINEMA 第14回〜THE STING〜 | 銀座BAR EVITA.のブログ

銀座BAR EVITA.のブログ

ようこそ EVITA.へ! 

誰かと語る、グラスと共に。自分と語る酒と共に。

ここでは当店のホームページで書ききれないことを語ったり近況報告などをさせていただきます。

第14回 ゴードン ロンドン ドライジン

詐欺の小道具にふさわしいジュニパーベリーの香り


フッカー:What are you doing ?

ゴンドーフ: Always drink gin with a mark kid, he can’t

tell if you cut it.

(字幕 : 酔ったふりで油断させる。)



ゴードンドライジンは1769年、アレクサンダー・ゴードンによってロンドンに設立されたジンの蒸溜所。写真は47.3度

BAR CINEMA 、6年ぶりの新作は1973年に公開された名画「The Sting」です。(日本公開は1974年)。
Stingとは「刺すこと、刺し傷」などの意味ですが、辞書の最後には「詐欺」という訳も出てきます。
この映画は、ニューヨークのギャングのボス、ロネガン
(ロバート・ショウ)の金をだまし取ったことで、親代わりともいえる相棒を殺された若き詐欺師ジョニー・フッカー(ロバート・レッドフォード)が、伝説的な詐欺師ヘンリー・ゴンドーフ(ポール・ニューマン)の力を借りて
、ロネガンに復習するための大掛かりな詐欺を企てるという物語。第46回アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞などを受賞し、大ヒットしました。
主題歌の「ジ・エンターテイナー」(The Entertainer)は
、スコット・ジョブリンの名曲で、映画を見たことはない人でも、この曲を耳にされたことはあるのではないかと思います。

映画の舞台は1936年のシカゴです。当時の流行を反映させたものかどうか、私にはわかりませんが、フッカーが着用しているメチャクチャ太く、そしてズボンのベルトまで遠く届かないネクタイが目を引きます(笑)。芋洗坂係長か!それでもレッドフォードはかっこいいのですが…。

さて、フッカーに協力することになったゴンドーフは、
ロネガンを騙すためのステップとして、ロネガンがニューヨークからシカゴに移動する列車に乗る際に必ず参加するというポーカーゲームに加わります。

その準備の際にゴンドーフが言ったセリフが前述の英語です。

ロネガンを油断させ、かつ怒らせるために、ゴンドーフはジンをローションのように顔になでつけ、ジンで口をすすぎ、水を入れたジンのボトルを片手に、泥酔している振りをします。

この時に使った酒がゴードン ロンドン ドライジン(GORDON LONDON DRY GIN 、以下ゴードン)です。
このジンの創業はなんと1769年。古い!そのころ日本は江戸時代です。
輸入元のホームページによると、『1858年に世界で初めて“ジントニック”を産んだブランド』といわれているそうです。

蒸溜所はロンドン。ジュニパーベリー、グローブ、レモン果皮、コリアンダーなどなど、香味植物(ボタニカル
)の香りをつけて、なんともいえない爽やかな風味を生み出しています。爽やかですが、アルコール度数は40度
、ないし47.3度と高いので要注意です。

つまり、酔うにも、酔った振りをして敵をだますにもピッタリなお酒なのです。
ジュニパーベリーを主体とする、特徴的なボタニカルによる香りは、ウォッカやラムよりも相手に分かりやすく
、効果があるでしょう。
またジンをストレートで飲むのは、ウイスキーでそうするよりもインパクトがありますね。近年、ジンはストレートよりもカクテルベースとして親しまれているように思いますので、今この映画を見ると、なおさらそう思うかもしれません。

さらにマニアックな話になりますが、このゴードンは2回蒸留して造られます。
一方、同じぐらい有名なタンカレー ロンドン ドライジン(以下タンカレー)は4回蒸留です。この違い、わかりますか?
蒸留すればするほど味わいはクリアになります。ゴードンもタンカレーも味わいは極めてドライなのですが、ドライの質が違うのです。
先輩バーテンダーたちはカクテルベースとして、よくゴードンを使用なさっていました。やはりジンの王様です
当店ではジントニックにはタンカレーを、ジンフィズにはゴードンを使用しています。
なぜかと申しますと、ジンフィズを作る場合、ボタニカルがしっかり乗った甘みとレモンの酸味を合わせて、乳酸菌飲料のような仕上がりを目指しているからです。
ジントニックの場合は喉越しを意識して作っています。そのため、最後にプレーンソーダを足してトニックウォーターの甘みを少し抑えています。

◆やはりアメリカにはバーボン。そして詐欺師にはエズラ・ブルックス

エズラ・ブルックス、1966年にアメリカ合衆国から『ケンタッキー州でもっとも優れた小さな蒸溜所』と称えられたバーボンの名門。

列車内でのポーカーはイカサマの応酬の末、ゴンドーフが企み通り大勝します。
ロネガンはこの勝負がイカサマだったことをフッカーに教えられ、怒りに震えながら復讐を誓います。
一方、ゴンドーフはさらに大きな詐欺をしかけるために仲間を呼び集め、ニセの賭博場(馬券売り場)を作り、
ロネガンを待ち受けます。

このニセの賭博場がふるっていて、本格的なバーカウンターが設置されています。そこにはハードリカーのボトルがずらりと並べられています。
このカウンターでフッカーの親友で詐欺仲間のエリー・キッド(ジャック・キーホー)がバーボンウイスキーのエズラ・ブルックス(EZRA BROOKS)を飲んでいました。
このウイスキーはバーボン蒸留の旧家・メドレー家によって1950年代に生産開始されましたがイマイチ売れず
、1960年代に人気を博していたジャック・ダニエルの対抗馬として改めて売り出したそうです。しかし、その後、この蒸溜所は吸収合併を繰り返すことに…。

エズラ・ブルックスを調べてみて興味が湧いてきたので
、ジャックダニエルと飲み比べてみました。その感想を
まとめます。

◇色
ほぼ一緒(笑)、薄めの琥珀色
◇香り
エズラ・ブルックス:土がついた木の香り、コショウ、
セメダイン
ジャック・ダニエル:温かみを感じる木の香り、エステル
◇アタック
エズラ・ブルックス:強めだが、しだいにドライパパイヤ、マンゴー
ジャック・ダニエル:優しい、メープル
♢フィニッシュ
エズラ・ブルックス:複雑な木の香り、炭、少しドライマンゴー
ジャック・ダニエル:一貫して木の香り(白木)

エズラ・ブルックスは男っぽいですね。ただ、それだけではない。どこかに女性的で繊細で複雑な部分を持ち合わせている。ジャック・ダニエルのほうがシンプルで、
万人受けするかもしれません。

そういう意味では、エズラ・ブルックスは親友フッカー
をかばい、助けるエリー・キッドにふさわしいバーボンなのかも、と思ってしまいます。深読みですかね…。