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「いやー、待たせたな。悪ぃ悪ぃ。」などと、ロックが悪びれる様子もなくそんなセリフを言う。
コウもそれを分かってか、「ははは、気にしても仕方ないからね。」と笑う。
二人共再会を心から喜んでいる様だ。先程の会話通り、二人が秘密の花園で別れてから、まだそんなに日は経っていなかったが、随分久しぶりに再会した様な気がしていたのだろう。
「コウはあの後どうしてたんだ?俺はあの後すぐにブリティンへ行ってたけど。」
「へー、ブリティンで何してたの?」
「そりゃ護衛の仕事探しさ。で、ブリティンからスカラブレイへ護衛して欲しいって依頼をこなした後、今度は向こうで今の客を拾ったってワケ。最初はここまでの依頼だったんだけど、気に入られたみたいでさ、追加発注を受けてたんだよ。」
「そっかー、護衛の仕事は大変だね。いやー、僕の方はあれから随分道に迷ってさ。ユーの近くまで行って――」
ロックとコウは、お互いの情報交換を兼ねた四方山話を始めた。

「――でさ、昨日ユー方面の治安が良くなったって聞いたからよ。こりゃオーク追討でも行われたか?と思ったが、どうやら違っててさ。」
落胆した様子を再現するロック。
「そうなんだ?僕はちょうどユーの近くにあるガードポストで親切な人に泊めてもらったら、そこが悪い人達の拠点だったみたいで…。カバンの中身をいくつか盗られちゃってたんだよ。」
コウが後ろ頭を掻きながら恥ずかしげに言うと、ロックは見慣れた呆れ顔になる。
「おいおい。お前よく無事だったな。それ、噂のネオ・CFギルドとかいう連中だろ?まあでも、誰かが叩き潰したらしいな、あの辺の拠点を。ま、お陰で俺の護衛稼業も再開できたって訳だけど。」
その話にコウはポンッと相槌を打った。
「ああ、じゃあ今回の仕事はユーの近くへ?」
「まあな。コウはシェイムっていうダンジョンを知ってるか?」
「えー、っと。名前だけなら…。」
コウが少し照れながら言うと、ロックは「分かってた」と言う代わりに少しニヤリとして数度頷き、話を続ける。
「まあダンジョンには行かないけどな。そこへ向かう道中の山道脇に坑道が有るんだよ。で、今の客は鉱石の採掘屋でさ、行くまでにオーク砦近くを通るから、オーク共から守って欲しいってのが追加発注された依頼なのさ。」
鉱石採掘を専門の生業とする者は意外と多い。鍛冶職人に細工職人、更には大工からも仕事を受注する事が出来て、しかも一度に大量の鉱石を必要とされるから食いっぱぐれる事が無いのだ。鍛冶職人が兼職する事も有るが、その多くは修行を兼ねた駆け出しの職人で、店を構えて商売をしている者が兼職する例は稀だった。
というのも、採掘業は競争が激しく、業者同士の場所争いが発展して喧嘩になる事もしばしば有り、店を構えるまでになった職人は、早々に本業へ専念し、材料は採掘屋から調達、という流れになるのが普通だったからである。
今回ロックに護衛を頼んでいる階下の男も、職人と馴染みになっているのだろう。受注した鉱石を掘る為に、目的地となる坑道へ行こうとしているのだった。
「じゃあその人が採掘している間は暇そうだねぇ。」
「ああ、そういう時は寝袋を敷いて、休憩がてら矢でも作ってるんだよ。」
そう言いながらロックが弓矢を作る道具を取り出して見せた。

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白髪交じりの長髪を、ロックと同じ様に後ろで束ねている。旅人に流行の髪型なのだろうか。
さて、ロックがコウのベッドに歩み寄ると、コウもベッドの上で半身を起こした。
そしてお互い改めて「やあ。」「よう。」と右手を挙げて一言で挨拶を終えた。
「いや、何かもう十年以上も会ってなかった気がするよ。色々有りすぎて。」
コウが嬉しそうに言うと、ロックは「そいつは奇遇だな、俺もだよ。」と笑いながら答える。
「いやー、ここの前で倒れてたお前を見つけた時は、一瞬肝が冷えたぜ。たまたまモンスターやらが居なかったみたいだから良かったものの、近寄ってみれば寝息を立ててるんだからなぁ。あれには拍子抜けした。」
改めて、呆れたという顔をコウに見せると、「え?ここの」と言い掛けて急に黙った。「ん?」とロックが不審に思っていると、コウは
「ああ、急に眠くなっちゃったんだよ。あー、よく寝たよく寝た。うーん。」と、取ってつけたような言い繕いと、伸びの動きでごまかそうとする。
「んー、まあ、それは良かった。ベッドまで運んでやった甲斐があったな。でも、その割には大分うなされてたぞ。でもコウがそう言うんなら、まあいいや。」
ロックがそこまで言った所で、後ろからわざとらしい咳払いが聞こえてきた。ロックが振り返ると、先程まで話し込んでいた相手が、口ひげをいじっている。それを見たロックが思わず「あ」と声を上げた。
「そうだった。コウ、すまないが今護衛の商談中だったんだ。悪いけどもう少し休んでてくれ。」
「おー、傭兵上がりと噂のロックさんは売れっ子だねー。じゃあちょっと外に出てるよ。」
そう言うと、コウはベッドから下りる。
「あ、階段が有るのか、じゃあ上で待ってるよ。」
コウが言いながら階段へ歩いて行こうとすると、階段の前で話していたもう1組と目が合った。
2人はコウをじっと見ていたが、「すみません、ちょっと通ります。」とコウが断りを入れると、片方の男が「ああ、どうぞ。」と道を開けたので、コウも「どうも。」と礼を言って横切り、そしてトントンと階段を上がっていく。
そんなコウを見送ってから、再び商談の席に着くロックだった。
「申し訳なかった。話の続きと行こう。」と頭を下げるロック。
相手が真剣な表情で、「今の彼は、護衛の仕事に加わりますか?」と尋ねた。
するとロックはすかさず「いや、あいつは単なる知り合いだ。今回の仕事には無関係だから心配ない。」と答える。それを聞いて相手の男は少し表情を和らげた。
「では、今回の価格について、君が話している間に考えたんですが、前払いで1000gp、無事到着したら追加で500gpでどうでしょうか。」
「………。」
金額を聞いて一瞬ニヤけたロックはすぐに難しそうな顔を作り、しばし腕を組んで考えていたが、
「了解した。じゃあ商談は成立という事で。」
そう言って手を差し出す。相手の男も安堵の表情でそれに応じ、二人は握手した。
その隣で話していた二人は、ロックらの商談成立を拍手で祝った。

上の階、と言うより屋上では下の拍手など聞こえない様子で、コウが考え込んでいた。
「一体どういう事だろう。ここはシターカの拠点じゃない、というより何処?それに、僕がここの前で倒れてたっていうのは…。」
もう会武爺の仕業以外あり得ない、とコウが結論付けたその時、ロックが階段を上がってきた。

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「いや、それはまだ分からんゾイ。単にCFギルドと敵対しておるだけで、オヌシの味方とは限らぬ。敵の敵は味方などという話をする者も居るが、全てがそうとは言えぬ。半分マヤカシじゃと思え。」
コウは、会武爺の言葉に少し反感を抱いた。ネオ・CFギルドの敵は当然自分の味方になるはずだ、としか思えなかったからだ。コウが憮然としているのを見た会武爺は、一つ咳払いをして話しだした。
「では分かりやすい例を挙げてやろうかの。オヌシも知っておるオークマスクを被った男も、ガードに斬られるまでオヌシらを追い回した賊さえも、今はその反CFギルド連合に加盟しておるギルドの一員じゃでな。じゃがオヌシはこやつらを味方と思えるか?」
オークを嫌うコウの脳裏には、自らをしつこく追い回したあの賊よりも、あのオーク男が蘇る。
「いくら反CFギルド連合に加盟していても、あんな忌まわしい、人間の敵と言うべき奴らを味方とは思いたくないです!なるほど、会武爺が言う事の意味はよく分かりました。」
コウにはこの説明で合点がいった様だ。彼の言葉に大きく頷く会武爺。
「ウム。じゃが。どんな相手とて、連携を取ってCFギルドの拠点を叩くべき時も有るじゃろう、よっく覚えておくがええ。…そうじゃ。反CFギルド連合に加盟しておるギルドの場所を地図に書き足してやろう。役立てるがよい。」
会武爺がコウのカバンに手をかざすと、中から地図がひょいと飛び出した。そして空中でババッと広げられると、地図に新たなピンがいくつか現れた。
「さあ、これで良い。もしこやつらと共闘する時は、背後にも気を配るようにせよ。中には人格者もおるが、そうでない者もおるでな。」
地図は空中で再び丸められ、コウのカバンに戻った。
「ありがとうございます。」
コウが頭を深く下げて礼を言うと、会武爺は再び空中へ。いつもの高笑いを残しつつ闇に消えていった。

コウはどこか分からないベッドの上で静かに目が覚めた。石造りの天井が有る建物の中だ。どこかのガードポストだろうか。寝たまま右を向くともう1つベッドが置かれている。一方、反対側はすぐ壁だった。
すると足元の方から複数人の話し声が聞こえてきた。
「そうですね、ではこの価格でお願い出来ますか?」
「いや、スカラブレイへ行くのはまだ止めた方が良い。まだ戦闘中かもしれない。」
「うーん、いや、その価格は少し厳しいな。護衛は危険な仕事だからな。」
「そうは言うが、もうかれこれ数時間が経つんだ。これ以上待ったら先方に申し訳ない。」
どうやら2組4人の男達が何か話しているようだ。1組はテーブルを挟んでおり、もう1組は立ち話をしている。が、コウはその会話を雑多な話し声としか識別出来ていなかった。
と、少し体を起こしたコウは、テーブルの向こうに座っている男を見て驚いた。
「ロック!ロックじゃないか!こんな所で何してるの?」
その声にロックもコウに気付いた様子で、「お!良かった、気が付いたか!」と声を上げ、笑顔を見せた。
「申し訳ない、ちょいとだけ失敬。」
そしてロックが対面の男に謝って席を立つと、相手もコウの方に振り返り、「ああ、彼が起きたのか。どうぞ。」と言ってニコリと笑顔を作る。
その顔には深いシワが刻まれ、日に焼けた黒い肌と対象的な、真っ白で立派な口ひげを生やしていた。

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会武爺に一際力強い声で希望を打ち消されたコウは、先程と一転してしょげてしまった。が、すぐに思い直した様子で顔を上げた。
「残念ですが、分かりました。ではエリーゼには会武爺から伝えて下さい。仇は討ったと。」
「あい分かったが、エリスは記憶しとらんぞ。それでも良いなら伝えてやろう。」
その言葉にコウは強く頷いた。
「さて、先程の話じゃが。赤子となったソネーヨは森の中に転送されたものの、じきに野良の狼や熊に喰い殺された。中で感覚を同じぅしとるソネーヨは、生きながら、抵抗も許されぬまま、体を喰い破られた事になるのう。」
生々しく語られた内容に思わずその場面を想像して気分が悪くなったコウは、急に吐き気を催した様子で、口元を必死に両手で覆う。……どうにか堪えた様だ。
「これが命だけは助けるPROT Attackの側面よ。運が良ければ助かる、という意味においては、ソネーヨは不運じゃったのう。ひょーっひょっひょっ、嬉しかろう?コウよ。」
吐き気を催しているコウの事などお構いなしと言わんばかりの会武爺は、コウに何とも無邪気な笑顔を見せている。
「……他の3人組は、どうなったんですか?」
どうにか尋ねるコウだったが、まだ顔は青ざめている。
「うむ?他の者はまだ生きておる様じゃな。まあ誰かにでも拾われたんじゃろうて。」
そっけなく答える会武爺であったが、コウはもうそれ以上問う事はしなかった。
「ま、何にせよこれでCFギルドの拠点は事実上2つ壊滅した訳じゃが、まだまだ先は長いゾイ。」
会武爺の言葉に、コウは「あれ?」と少し違和感を覚えたが、それが何なのか分からない様子である。そうしている間に、
「コウよ、着実に進むのじゃぞ。」
ひょーっひょっ、といつもの様に会武爺が笑いながら上昇しようとした時、コウが待ったを掛けた。
「ちょっと待って下さい。爺さん、シターカを倒したのは誰なんですか?」
その問いに、会武爺が動きを止めて一瞬「何を言っておるのか?」という顔になったが、すぐに事態を把握した様子で表情を戻した。
「シターカは僕の知らない間に誰かが倒していました。死体が無いので確認はしていませんが、多分死んでいるでしょう。近所の家に貼り付けられていた紙には、その誰かを勇者と書いていました。」
その言葉を受けて、会武爺は如何にも困ったという顔を浮かべてしばしコウを見つめた。そして神妙に語り始めたのである。
「それはじゃな……、言いにくいのじゃが、反CFギルド連合の者じゃ。具体的な名は出せぬ。これはオヌシの為じゃ。じゃがな、シターカはオヌシを追い詰めて油断した。その隙を突いて背後から腕を切り落とし、建物の外へ追いやってから倒したのじゃ。死体はその者が証拠として持って行ったのじゃろう。」
聡明な読者諸君は既に気付いていると思うが、会武爺は嘘を吐いている。では何故会武爺は敢えてこの様な嘘を吐いたのだろう。彼の思惑は依然謎が多い。
さて、会武爺のかたる「真実」を聞いたコウは、結局戦果を上げられなかった事を残念には思ったが、自分が孤独な存在ではないとも思った。CFギルドに対する思いを同じくする人々が自分と同じ様に立ち上がっている、それはコウを少なからず勇気付けたのだった。
「あの怪力を誇るシターカを圧倒するなんて、凄い人が居たんですね。心強いです。味方が出来て」というコウの言葉を会武爺は容赦なく遮る。

どうも、小説著者兼ブログ管理人のFolthです。

表題の通り、本日(正確には昨日)、イビルバスターの第65、66、67、68巻の4冊を刊行しました。

しかしながら、発刊の後で製本時のミスを発見した為、急遽4冊のデータと記事を削除し、内容を訂正した上で再発刊という事態となりました。

この間は大変僅かな時間でしたが、もしこの間にアクセスされた方には、ご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳なく思っています。

すみませんでした。

 

さて、ここからはしばらく、今回発刊した分より新たに登場する人物を含めて、各種設定の拡充に注力しつつ、続刊の準備を進めたいと思います。