殺しが静かにやって来る | アッシュのブログ

殺しが静かにやって来る

「殺しが静かにやって来る」(The Great Silence)
1968年イタリア映画
監督:セルジオ・コルブッチ
出演:ジャン・ルイ・トランティニアン、クラウス・キンスキー


異色のマカロニ・ウエスタンです。
主人公はセリフ全くなし。
ヒロインは黒人女性。
舞台は西部の荒野ではなく、ロッキー山脈ふもとのユタ州スノーヒルの雪の中。


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オープニングからしてこれですから。
馬は進んでいるはずなのに一向に近寄ってこない。
この曖昧な距離感と不安定なフレーミングが、いかにもイタリア映画らしいところでもあります。
映像テクニックで観客に不吉な予感を与えます。


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エンニオ・モリコーネの寂寥感あふれる音楽とともにこんなシーンが頻発ですよ。

で、ヒーローが無口。

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こんな方ですが、子供の頃に受けた傷が原因で声を出せないという設定です。
声は出ないけど銃を抜かせたら滅法早い凄腕。
余談ですが、ジャン・ルイ・トランティニアンはフランス系なので、イタリア語や英語の発音に難があったんじゃないかとも思います。役の設定と主演男優のどちらが先にあったのでしょうね。

それはともかく、このヒーローが声を出さない物静かな男だから、名前で呼ばれることなく"Silence"とか"Mute"とか呼ばれます。英語吹き替えの話ですけどね。

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サイレンスが使うのが、このモーゼルの拳銃。
リボルバー式拳銃やライフルが多い西部劇にあっては珍しい選択です。
しかも木製のケースに入れて持ち歩いているとか、ディティールにこだわって描かれているのが印象的です。


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さて、その異色の主人公を完全に食ってしまうのが、このクラウス・キンスキー。
彼は、西部の山賊など賞金のかかったならず者を殺して賞金を稼いで暮らすバウンティ・ハンターのロコです。
本来は山に隠れている山賊が、大雪のために山にいられなくなってふもとに降りてきたところを片っ端から倒している最中。
しかし、その「山賊」は、もともとは地元の貧民であり、貧困と飢餓のために山賊と化した人たちです。
彼らを狩って村でぬくぬくと暮らすハンターたち。

ロコの銃の凄腕ぶりもさることながら、それ以上に心に残るのはその鬼気迫る非情ぶり。
「生活のため」とうそぶきながら平然と人を殺すんですけど、彼が悪魔的な動機から楽しみとして人を殺していることは明白です。言葉では語られないけれど、映像がロコの内面を物語ります。

ロコが賞金目当てにヒロインの旦那を撃ち殺したことが発端となり、サイレンスとロコは闘うことになってゆきます。
かたやロコにはバウンティ・ハンターの仲間も大勢いるのに対し、サイレンスはたったひとり。味方はヒロインのみ。
白人ガンマン大勢 VS 障害者の主人公&黒人のヒロイン
いくら60年代イタリア映画とはいえども、強烈な構図です。

賞金稼ぎにとらわれた人々を救出するために、そしてヒロインの夫の仇討ちのために、傷つきながらもロコとの対決に向かうサイレンス。


この映画、最後までクラウス・キンスキーがいいんですよ。
無表情のようでいて、複雑な表情で。
これはきっとマカロニ・ウエスタンの歴史に残る名演技でしょう。
娘のナスターシャ・キンスキーもいろいろとイイんですけど、親父もイイですよ。