メッセにてリクエストがありましたので、初音ミクさんを描かせて頂きました(*^▽^*)
よく見るポージングをイメージしました。
色は気が向いたら塗りたいと思います……取り合えず下絵です

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前のポーズを書き直してみました。とりあえず死んでいた目をなんとかww
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↓ついでに書いていたら、輪郭ミスって子供になってしまった。。。顎を尖らせないと、子供っぽくなるんだなあと思いました。
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ポージングの練習(^∇^)
色塗り、背景はテキトー(*´Д`)=з
バランスが悪い気が……でも、人間らしい動きの練習になりました。
どっちの絵がいいかなぁ……下のほうが微妙だけど表情がいいかな?
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「あれ? その猫怪我をしていますね」
 シスターは利亜の腕に抱かれている黒猫に気がついた。
「そうなんです。俺たちこの猫をここで看てもらうためにきたんです」
 春は黒猫を見ながら言った。
「お願いします。私達これから学校なので」
 利亜は不安そうな声で言う。
 シスターは利亜の言葉を聞くと優しく微笑んだ。
「わかりました。こちらで手当しておきますね」
 利亜の顔がパッと明るくなる。
「ありがとうございます」
利亜はそう言うと黒猫をそっとシスターに手渡した。
 
 キーンコーンカーンコーン……

「ん?」
 劉勇は聞き耳を立てた。
「あれ?」
 少し遅れて春も反応する。
「春! もう八時三〇分だぞ!」
 劉勇は慌てて言った。
「あー! ヤバイ、どうしよう。俺、もし今日遅刻すると大変な目に合う! てか、『もし』じゃない! 遅刻確定だよ!」
 春は焦りの声を出したあと青ざめて思考を停止したロボットのように立っている。
 利亜はそんな事に気を止める様子もなく深々とシスターに頭を下げていた。
「春、利亜、とりあえず今は早く学校に向かうぞ」
 劉勇はそういうと二人の手をとった。
 シスターに軽く会釈をし、三人は学校へ向かう。

「そんなに早く走れないよ~」
 利亜はゆっくりとした口調で言いながら、前を走る春と劉勇の後について行く。
「昔はお前のが速かっただろ!」
 春は走りながら後ろを向く。
「そういう春は一番遅かったよな」
 劉勇は思い出すように言った。
「それは小学校の時の話だよ~」
 利亜は息を切らしながら言う。
「その胸が邪魔なんじゃないか?」
 春は利亜の女子高生の平均よりはふくよかなそれの揺れを見ながら何気なく言う。
「おい」
 劉勇は横を走る春に軽くチョップを入れた。
「しゅんく~ん。それはセクハラってやつだよ~」
 利亜は疲れた様子で制服の上からでも確かなそれを揺らしながら言った。
「確かに邪魔かもな」
 今度は劉勇が言った。そう言った劉勇の顔はほんのり赤くなっている。
「ゆゆちゃんエロ~い」
 春は利亜の真似をした。
「おい」
 再び劉勇は春にチョップをお見舞した。

 他愛のない会話だった

 それぞれが小学校の頃を懐かしみながら、 高校生になった彼らは桜並木を颯爽と走り抜ける。
 ヒラヒラと舞う桜と共に爽やかな春風が体をすり抜けて行った。

「ストーップ!」
 角を曲がれば学校と言うところで春は劉勇の手を引っ張り、静止させた。後から来る利亜も春と劉勇のところまで来ると足を止めた。
「どうしたんだよ。学校はもう目の前だぞ」
「ちょっとあれをみてみろ」
 春は曲がり角から顔を出し、学校を見る。
 門の前にはジャージを着たいかにも体育会系という男が、竹刀を持って仁王立ちしている。
「生徒指導の東堂だ」
 春は怯えるように言った。
「ああ、東堂だな」
「東堂先生だね」
 二人に気にする様子はない。
「じゃあ、行くか」
 劉勇は怯える春をよそに進もうとする。
「ちょーっと待ったー!」
「なんだよ」
「なんだよじゃねーよ! 東堂だぞ。あの東堂だぞ! あいつが遅刻検査で門の前にいる日は他の先生よりも、やっかいな罰がくるんだ。しかも悪い方で!」
「遅刻した奴の罰って遅刻五回以上のやつだろ?俺、今まで遅刻したことないし」
「あ、私も」
 劉勇と利亜は冷静に言う。
「じゃあ、行くか」
 劉勇は再び進もうとする。
「まてーい! 俺は五回以上遅刻してるんだよ!」
「御愁傷様」
 劉勇はさらっと言う。
「劉勇さんお願いしますよ。哀れな私めをお助けください」
 春は劉勇の腕にすがりつく。
「何度も遅刻していたお前が悪いんだろ」
 劉勇はすがりつく春をほどきながら言った。
「人でなし。いいよ利亜に頼むから! 利亜さーんお願いしますよー」
 春は利亜にすがりつこうとする。
「おい。どさくさにまぎれてなにしようとしてる」
 劉勇は春にチョップをいれる。
 利亜はどうやら気付いてないらしい。
「私も何度も遅刻したしゅんくんが悪いとおもう」
 利亜はためらう様子もなく言い放った。
「そんなー」
 春はがっかりしたように下を向いた。
「でも、遅刻の原因は猫さんを助けていたせいだし……そのせいで罰を受けるのは可愛いそうかも」
 その言葉に春は耳をピクリと動かす。
「そうだよな! 俺は猫を助けていたんだよな!」
「じゃあ、お前が東堂の前に行って猫を助けていたので遅れましたって言えばすむだろ」
 劉勇は正論を言うが、春は再び沈んだように下を向いた。
「できないんだ……」
「なんでだよ」
「使った……」
 春は聞き取るのもやっとな小さな声で言った。
「今なんて言った?」
「もう使っちゃったんだよ!」
 今度は大きな声で言う。
「何を使ったの?」
 利亜が尋ねる。
「この前遅刻したとき『怪我をしている猫を助けていた』って言ったんだ」
「すごーい! しゅんくんはお利口さんだね。前も猫を助けたんだ♪」
 利亜は関心と尊敬の目を春に向けた。
「で、どうだったんだ?」
 劉勇は冷やかな目を春に向けた。
「駄目だった。信じて貰えなかった」
「実際に猫を助けたのか?」
「いや、それは嘘だ」
 春はきっぱりと言う。
「しゅんくんのヒキョウモノ~」
 今度は利亜が冷たい目で春を見る。
「結局、俺が猫を助けたっていっても、東堂は信じてくれない訳だ。しかも『男に二言はない』とか言って、職業体験の名目で放課後にペットショップで猫の世話を手伝わされたんだ。だから頼むよ。友達だろ? 助けてくれよ」
 春は両手を合わせて、劉勇と利亜に頼みこんだ。
「しょうがないな」
 劉勇はダルそうに呆れた様子で言った。
「じゃあ、どうしよっか? 要は、しゅんくんが東堂先生に見つからないように学校の中に入れればいいんだよね?」
 利亜は腕組みをして、人差し指を頬にあてて考えるポーズをとる。
「俺にいい考えがあるんですが……」
 春は申し訳なさそうに小さく右手を挙げたあと作戦を言い出した。なぜか敬語だ。
「おとり作戦と言うのはどうでしょうか? まず誰かが東堂に何かしらの理由を言って門をくぐる。そして東堂を突破して、東堂が再び遅刻検査を始めたら、突破した奴は後ろで何かしら東堂の気を引けるようなアクションをとる。すると、東堂はそっちに気を取られる。そのすきに残りの二人は門をくぐる。この作戦はどうですか?」
 春は申し訳なさそうに作戦を述べる。
「その作戦だと誰かが犠牲になると言うことだな」
 劉勇は冷静に言う。
「しゅんくん囮いっちゃう?」
 利亜は悪気もなく、ウィンクをした。
「あのー。利亜さん? それだと目的が破綻するのですが……。できれば劉勇さんか利亜さんのどちらかが囮になっていただきたいのですが。そして、誠に勝手ながら囮は劉勇さんにやっていただきたいのですが?」
「なんで俺なんだよ」
「成績優秀な劉勇さまなら東堂をより楽に突破できるかと」
「まて、成績なら俺より利亜の方が優秀だぞ」
「え!? マジ?」
 春は敬語を忘れて素に戻る。そして、利亜に尋ねる。
「お前、俺より成績良かったの?」
「少なくとも、順位を下から数えたほうが早いしゅんくんよりはいいかな♪」
「俺、いまサラッと悪口言われた気が。そしてものすごく裏切られた感があるんだけど」
 春の精神的ダメージが蓄積された。その様子を見ながら劉勇は言う。
「利亜の方が俺よりも成績はいいしピュア感が溢れでているから、東堂突破は楽だと思うが」
「ピュア感?」
 利亜は何を言われたのか分からないという様子で首をかしげた。
「いや、利亜は止めた方が言いと思う」
「なんでだよ」
「ちょっと聴いてろ」
 春はそういうと、利亜に質問する。
「利亜、東堂をどうやって言いくるめるつもりだ?」
「すいません。猫さんを助けていたから遅れました。あと、後ろにいる二人も猫さんを助けていたので通してあげて下さい」
 利亜は率直に答えた。
「な?」
 春は劉勇の目を見る。劉勇は静かに首を縦に動かした。
「わかった俺が行こう」
 劉勇は今まさに自分が兵士となって、戦禍のデッドラインを越えるかのように言った。
「む~。何かバカにされている気がする。私できるもん。私が囮役やるもん」
 春と劉勇の雰囲気を読み取ったのか、利亜はむきになって言いだした。
「無理するなって。その純粋さが利亜の良いところなんだから」
春は利亜をなだめようとする。しかし、かえってそれが利亜に火をつけた。
「私、絶対やるもん!」
 こうなった利亜を落ち着かせるのは面倒な事だというのは春も劉勇も知っていた。
「分かった。分かった。囮役は利亜に任せるよ。ただ、俺たち二人が後ろにいることは東堂には言うなよ。絶対だぞ」
春は利亜に念を押す。
「なんで?」
 即答だった。人間、本当に理解が追いつかないときは、即座に疑問の言葉が出てくるものである。
「……」
「……」
 春と劉勇は沈黙し、首を時計の秒針のようにカチカチと動かし、お互いの目を見た。
「わかったよ。言わなきゃいいんだよね! も~言うわけないじゃない!」
 利亜は赤面しながら、焦るように言った。
(コイツ、ホントウニダイジョウブナノカ?)
 人間が言葉無しにお互いの気持ちを通じ合わせた瞬間だった。


第九話下編へ
第八話へ
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三人は教会の前に着いた。
 外壁は白く、とんがった三角屋根は緑色でその先端には十字架が取り付けられていた。正面から見える丸いステンドグラスは日を浴びており、教会の中ではその彩り豊かな光を浴びる事ができるのだろうと想像できる。
 教会の門は開門されており、入り口へ続く両脇には綺麗な花が沢山咲いていて、訪れる人を歓迎しているようだった。

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「三人でここに来るの久しぶりだね」
 利亜は嬉しそうに言った。
「昔はよくここで遊んでたよな。そーいや、誰かさんはここが悪の秘密結社だとかいう設定で遊んでたっけ」
 春は後方にいる劉勇を細目で見た。
「昔のことだろ」
 劉勇(ゆゆ)は斜め下を向き、ボソッと小声を出した。
「それで、私が悪を組織する魔女でしたっけ?」
 三人の前方から大人の女性の声が聞こえてきた。女性は門の横の方から出てきた。
 服装は黒と白の修道服で片手には銀色のジョウロを持っており、花に水やりをしていたという所だ。
「シスターさんだ♪」
 利亜は嬉しそうに言った。
「どうも、久しぶりです」
 春と劉勇は小さく礼をした。
「久しぶりですね。あなたたちがここへ来るのは小学校のとき以来かしら。あの頃は本当に賑やかでしたね。懐かしいわ。でも小学校卒業したらめっきり顔を出さなくなって……。シスターさんは寂しかったんだぞ」
 修道服に身を包んだ女性は頬を膨らませて腰の横の所に手を当てた。
「だって、改装工事中だったんだもん」
 利亜は残念そうに言った。
「そうですよ。俺たち卒業後、ここに遊びに来たら工事中で。しかもそれからずっと工事中だったじゃないですか」
 春は利亜に続けた。
 シスターは首をかしげた。
「ん~、ん~」
 シスターは腕組みをして目を瞑り、何かを思いだすように唸った。
「ん~。あ!!そうでしたね。忘れてました」
シスターは思い出したように答えた。
(あれだけ長く続いていた工事を忘れるものか? しかも自分の教会なのに)
 春は心の中で思った。
「ところでシスター、なんの改装工事をしていたんですか? 見たところ変わった様子はないんですけど。」
 劉勇は教会全体を眺めるようにして言った。
「それはですね。神父様いわく、男の夢と希望に満ちたロマンだそうですよ」
 それを聞いたとたんに劉勇は春と利亜の後方から前へ踊り出た。
「それってまさか」
 劉勇はゴクリと生唾を飲む。
「フフフ。気がつきましたか?」
 シスターは不適な笑みを浮かべる。
「おのれ魔女め、ついに禁忌にまで手を染めたというのか」
 劉勇は固く右手の拳を握りしめ震わせた。
「劉勇さ~ん。お~い劉勇さ~ん。」
 春は右手を筒状にして口元へ持って行き、呆れた目をしながら劉勇へ呼びかけた。
 しかし、劉勇にその声は届かない。
「おい利亜、あいつどーするよ?」
 春は隣にいた利亜に助けを求める感じで声をかけた。
 しかし、利亜にその声は届かない。利亜はシスターと劉勇のやりとりをまるで映画のラストシーンを見るかのように食い入るように見詰めていた。その表情の横からはワクワクと言う文字が浮かんで来そうな勢いだ。
「そう言えばお前もだったか」
 春は顔面を片手で覆い、ため息をついた。
 そんな春の様子はお構いなしに、劉勇とシスターの話しはすすむ。
「それはこの時代にあってはならないものだ。なんとしても阻止しなければ」
「ほう。その言いようだと、貴様は私が何をしようとしているのか察しているようだな」
 シスターは右手にもった鉄でできた銀色のジョウロを左手で撫でながら妖艶な笑みを浮かべた。
(シスターさ~ん。これ以上、劉勇を刺激しないでくださ~い)
 春は心の中で思った。劉勇は正義の味方モードになると何かとめんどくさいのだ。
「魔女め! 表向きは改装工事と言っておきながら、その実はある儀式の準備のための大がかりな術式を教会に組み込んでいるのは明白だ」
劉勇は言葉に力を込める。
 そして、いい放つ。
「そう、お前の目的は」
 劉勇は一度言葉を区切り、次の言葉に更なる力を込めるべく、息を吸う。そして溜め込んだ力を一気に放出するかのようにことばを放とうとする。
「変形ロボット~♪」
 劉勇より先に利亜は左手の拳を天に突き上げて、おっとりした口調で言った。
「おい!なんでそこで国民的猫型ロボット風なセリフになるんだよ!」
 春は思わずツッコミを入れるが、誰も聞いていない。
 劉勇は自分がバシッと決めてやるために溜め込んだ力が利亜のおっとり口調のせいで一気に漏れていくのをこらえていた。
「違う!」
 劉勇は力が漏れそうになるのをこらえて、残りの力をこの否定の言葉にのせた。
 なぜか全否定的な言い方をされた利亜は一瞬キョトンとしていた。しかし、利亜にも譲れないものがあるとゆうのかその否定にあらがおうとする。
「教会がガシャンガシャン、シャキーンて変形してロボットになるんだよ! 変形ロボットこそ男のロマン!これ以上の男のロマンがあるとでも言の? ゆゆちゃん!」
 利亜は自信たっぷりに劉勇に言葉をぶつける。
 その様子は、ドラマ限定の『異議有り!』というセリフをビシッと決める弁護士のようだ。
「利亜さーん、あなた女の子ですよー。なんで自信たっぷりに男のロマン語ってんですかー」
 春はとっさにツッコミをいれるが、誰も聞く耳を持とうとはしない。
「なんか俺、切なくなってきた……」
 春はボソッと小声を漏らし、なぜか戦意喪失した。
「果てしなき魔王『アザトース』の召喚」
 劉勇は右拳を震わせて、言葉にするのも恐れ多いとでも言うかのように苦しそうに言葉を放った。
「『ありがとうございます』の召喚?」
 利亜は首を傾げて復唱した。
「ちがーう!」
 今度は春が否定した。先ほどまで戦意喪失していたが、こんなボケを聞いたらそんなことは関係ない。
春は続ける
「なんだよ! ありがとうございますの召喚って! めちゃくちゃ世界中のみんながハッピーになれそうな召喚じゃん! その召喚を止めに入ろうとする正義の味方の方がもはや悪者? みたいな。ア・ザ・ト・ー・ス! クトゥルフ神話に出てくる邪神の総師!」
 春に元気が戻った。
「そうなのだよ。宇宙の彼方、窮極の混沌の中心において冒涜的な言辞を吐き散らし沸きかえる魔王、時空の支配者なのだよ」
 劉勇が正義の味方モードで補足説明を入れた。
「おお~!」
 利亜の目は輝き、利亜の中のワクワク度数は更に上がった。
「私はそのクトフフ神話に変形ロボット以上の男のロマンを感じたよ!」
(ん? なんか違うくない?)
 春は心のなかで思う。
 利亜は変形ロボット以上のロマンを突きつけられ、敗北感に浸るよりかは一層、劉勇とシスターのやりとりに興味津々になっていた。
「アザースの召喚♪ アザースの召喚♪」
利亜は体を軽く上下に動かし小声でリズミカルに呟いている。
(ん? ん!? やっぱ違うよね! なんだよアザースって! ありがとうございますを体育会系の部員が言った感じになってんじゃん!)
 春は心の中でツッコミをいれたが、もはや言葉にはださなかった。
「フフフ……気づいていたとはな。私は邪神を使いこの世界を征服するのだ!」
 シスターは魔女っぽい口調? で言った。
(わ~。あの人言っちゃったよ。聖職者なのに世界征服とか言っちゃったよ! シスターが絶対に言わないような言葉一位のような言葉を言っちゃったよ!)
 春は心の中で思うがやはり口にはしなかった。
 シスターと劉勇の間には謎の緊張感が漂っていた。隣にいる利亜もその緊迫した雰囲気に飲み込まれている。
 とそのとき、
「にゃーん」
 利亜の腕に抱かれた黒猫が「僕もまぜて」と言うかのように一声鳴いた。
「ハックション!」
 黒猫の一声に答えるかのように劉勇はくしゃみを始めた。先ほどまでの緊迫感は一瞬のうちに吹き飛んだ。
「俺、やっぱり猫は無理」
 正義の味方モードが終了した劉勇はくしゃみをしながら言った。
「さっきから随分と猫の近くにいたぞ?」
 春は不思議がって聞いた。
「おそらく、感情がアレルギーを上回っていた」
「またそれかよ」
 春は呆れたように言った。
「アザース♪アザース♪」
 春の横にいる利亜は相変わらず、体を上下させてリズミカルに小声を出していた。
「おい」
 春は優しく利亜の頭にポンと手を置いた。
第九話へ
第七話下編
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 春と利亜は2階建てのボロアパートの前に着いた。
 「相変わらずボロいな」
 春はアパートの上の方に掲げられている『メゾン伊東』の看板をみながら言った。
「ダメだよ。ゆゆちゃんの家を悪く言ったら」
「じゃあ利亜、このアパートがボロいかボロくないかと言ったらどっちだ?」
 利亜は春の質問に困ったような表情をしたあと、
「壊れそう」
 と小さい声で言った。
 このアパートは確かにボロいのだ。築三〇年は軽く越えていそうな外観。白かったであろう壁は黒くすすけて、アパートの側面の壁一面には、植物の弦がはびこり、甲子園球場を彷彿とさせる。
 相馬劉勇(そうま ゆゆ)の部屋はこのアパート二階の三つある部屋の一番奥にある。
 春と利亜は劉勇の部屋に行くべく、アパート脇の階段を上る。階段はところどころ錆び付いていて一段上がる度にギシギシときしんだ。
「この階段落ちないよな?」
「落ちることは……ないと思うよ……」
 利亜は自分に言い聞かせるように、不安そうに答えた。春は、このアパートは建築基準法に違反しているのではないのかとさえ思った。
 春と利亜が階段の上の方まで上ると、階段から一番近い部屋のドアがこちら側に開き、通路をふさいだ。木で出来た古いドアだ。
 すると、部屋の中から学生服を着たツインテールの金髪で小柄な少女が出てきた。その髪は日にあたりキラキラと輝いている。
 少女は左手でドアを閉めるとこちらを向いた。その瞳はビー玉のようにキレイで透き通るような水色だった。
 春は目の前に現れた美少女の吸い込まれるような瞳に、軽くみとれていた。
 しかし、その容姿とはうらはらに、何故か骨折した人のように右腕は包帯でグルグル巻きにされ、それを首から回した包帯で釣ってあった。
 少女は、春たちの足元に目をやると、か細い小さな声で
「その階段、落ちる」
 と、無表情で言った。
(その包帯……って、ヤッパリおちるんかーい! どう見ても落ちましたよね! 冷静にしてるけど絶対に落ちたよねそれ!)
 春は心の中で叫んだ。後ろでは黒猫が春の叫びに答えるように、にゃーと鳴いた。
「忠告ありがとう」
 春はそう言うと階段を上り終え、後ろにいた利亜も上り終えた。
 少女は小さく頷くと、顔色一つ変えずに階段を降りて行った。
「さっきの女の子、お人形さんみたいで可愛かったね♪」
 利亜は嬉しそうに言った。
「さっきの子、俺らと同じ制服着てたよな。お前、見たことある?」
「私はないよ。もしかして新入生かもよ♪」
「だよな。あんなに目立ちそうなのに、見たことないなんてありえないよな」
 俺は疑問も持たずに答えた。
「お友達になりたいな~♪」
 利亜は嬉しそうにそう言うと、黒猫もにゃーと鳴いた。
 春と利亜は劉勇の部屋の前に着いた。
「ゆゆちゃんいるかな~」
「まだいると思うぞ」
「それじゃ、いつものやろうか♪」
 利亜は笑顔で春を見た。
「そうだな」
 春は頷くと、利亜と顔を見合わせる。そして、2人は呼吸を合わせる。
「ぴーんぽーん」
 春と利亜は同時に木造のボロいドアに向かって声を出した。その声に驚いたのか、利亜の腕の中にいた黒猫はビクッと毛を逆立てた。
「ゆゆちゃーん。来たよ~♪」
 利亜はのんびりとした口調で家主を呼んだ。
 すると、部屋の中から足音が聞こえてきて、木造のドアがギーっと言う音を出しながらこちら側に開いた。
 中からは、茶髪に軽くウェーブのかかった春よりも少し背が高い少年が出てきた。どうやら、今まさに学校に行くつもりだったらしく、しっかりと制服を着て、左手には学生鞄を持っていた。この少年が、相馬劉勇である。
「ハックシュン!」
 劉勇はドアを開けるなり、くしゃみをした。
 そして、
「ちゃん付で呼ぶなって言ってるだろ」
 と、ウンザリしたように呆れた声で言った。
「だって女の子みたいな名前じゃん♪」
 利亜はサラッとなれた様子で答えた。
「ゆゆが男の名前で何が悪い!」
 突然、劉勇は少し大きめの声で主張し出した。
「いや、悪くないが、その言動はアウトだろ」
 すかさず春はボソッと一人言のように斜め下を見ながら言った。その声に反応して、劉勇は春の方を向いた。
「なんだ、春も居たのか」
 劉勇は感情のこもっていない声で言った。
「なんだとはなんだ。俺がいちゃ悪いのかよ」
 春は、失礼しちゃうな、というような態度を示した。
「べつに。ただ、なんとなくな」
 劉勇は頭を掻きながら答えた。
「ねー、ねー、ゆゆちゃんこれ見て♪」
 利亜は抱えた黒猫を劉勇に付きだす感じで見せた。
「にゃーん」
 黒猫は一声鳴いた。
「ダッ! バッ! ネ、ネ、ネコッ!」
 劉勇は黒猫を見たとたんに、驚いたような声を出し、猫から離れるようにして、とっさに玄関から部屋の中へ後ずさりした。
「あれ~。靴を履いたまま部屋に逃げるなんて、劉勇(ゆゆ)は猫が恐いのかな~」
 春はからかうように言った。
「可愛い猫さんだよ♪」
「ハックション!」
 劉勇はくしゃみをしたあと、
「違う! 俺は猫アレルギーなんだよ。猫が近くにいるだけで鳥肌が立って全身が痒くなるんだ」
 劉勇はアレルギーのためか、涙目で言った。
「お~」
 利亜は納得したように声をだした。
「ん~。それじゃあ、ここで猫さんの手当てはできないね」
「その猫、怪我をしているのか?」
 劉勇は聞き返した。
「うん。右手がイタイ、イタイなの」
「本当にゴメンな」
 劉勇は申し訳なさそうに言った。
「アレルギーぐらい我慢しろよ」
「お前はアレルギーの恐さをしらなすぎ」
「だって、なった事ねーもん」
「猫の毛が部屋にあるだけで俺がどれ程辛い思いをするか」
 劉勇は目をつぶり、何かを思い出すように言った。
「じゃ~猫さんどうしようか?」
 利亜は困った顔をして春を見た。
「どうして、そこで俺を見る」
「だって、何とかしてくれそうなんだもん♪」
 利亜は笑顔を見せた。その笑顔を見せられると本当に何とかしてあげたいと思ってしまう。
「俺にいい考えがある」
 部屋の奥から春と利亜のやりとりを見ていた劉勇が言った。
「ゆゆちゃんどうするの?」
 利亜は興味の目を劉勇に向ける。
「シスターの所へ連れていく」
「あ~。その手があったね。私、あの教会好き♪」
「確かにあそこならちょうどいいな。ここからそんなに離れてないし」
「じゃー。行こ~♪」
 三人は近くの教会を目指す事にした。

「劉勇、もっとこっちこいよ」
「これ以上は近づけない。これ以上近づくと……ハックション!」
「ゆゆちゃんおもしろいね~♪」
 利亜と春を先頭に、三人は教会を目指し、なんの変てつもないコンクリートの道を歩いている。猫アレルギーの劉勇は、先頭を歩く2人から3メートルほど距離をとり歩いていた。
 端からみれば劉勇(ゆゆ)だけ、別行動を取っているように見える。むしろ、一緒に登校しているとは誰も思わないだろう。
「ところで劉勇、お前猫アレルギーだったっけ?」
 春は後ろを歩く劉勇のそばまで行き尋ねた。
「昔、お前らと一緒にいた頃は無かったんだが、中学になった頃から猫がダメになったんだ」
「お前なんか猫にイタズラでもしたんじゃねーの? そのバチがあたったとか?」
「ゆゆちゃんはそんな事しないよ♪」
 利亜は後ろを向いて歩きながら答えた。
「なんで利亜が答えるんだよ」
「だって、正義をこよなく愛するゆゆちゃんがそんな事する訳ないじゃん。春くんだって覚えてるでしょ? よく小学校のころ三人で」
「ストーップ! その話は今考えると痛いから止めてくれ!」
 劉勇は利亜が言いかけた事を止めさせるため、三メートル後方から声を出した。劉勇は顔を赤くし恥ずかしそうにしている。
「ははーん。あれか。お前よく所構わず『正義を冒涜する奴は私が許さん!』とか言ってポーズきめてたっけ。確かにそんな正義のヒーロー様が猫にイタズラなんてする訳ないよな」
 春は当時の劉勇を思いだし、ニヤつきながら言った。
「もう止めてくれ。俺への精神ダメージは予想以上だ」
 劉勇はガックリしながら言った。
「やっぱり、ゆゆちゃんはおもしろいね~♪」
 利亜は笑顔で言った。
 話をしているうちに利亜が先頭で、春と劉勇が後からついて行くという陣形になった。

「わぁ~」

 突然、先頭を歩く利亜は歩道の角を曲がるなり足を止め、感嘆の声をもらした。
 まばたきも忘れている瞳はキラキラと輝き、目の前のものに心を奪われていた。
「利亜どうしたんだよ?」
 春は不思議がって聞いたが、利亜は春の問いかけにしばらく答えなかった。
 というよりかは、目の前のものに圧倒され声が耳に入っていない様子だ。
「春風の 花を散らすと見る夢は 覚めても胸の さわぐなりけり」
 利亜はその場で、声を漏らすように短歌を呼んだ。
「お前何言ってんだ?」
 春は首をかしげた。
「はぁ。お前にはわからないかなぁ」
 隣にいた劉勇は呆れた声で言った。
「来て」
 利亜は目の前から目線を変えずに、春と劉勇を呼んだ。
「おお~」
「なかなか」
 利亜へ近づいた春と劉勇も声をもらした。
 何の変哲もない道路を曲がったとたんに、2人の視野の全てが桜色に染まった。
 道に沿うように桜並木が続き、足元には薄い桃色の絨毯(じゅうたん)が敷かれ、もとの石畳はその存在を消していた。
 そしてこの時点でも、花びらは風に吹かれて散り、濃いピンクと薄いピンクのその両面を幾重にも見せながら足元の絨毯を桜で敷き詰めていた。
 三人の周りは優しいピンク色に包まれた。

$小説

「お前大丈夫なのか?」
 春は隣にいる劉勇に向かって言った。
「ん? 何が?」
 ……にゃ~ん
「あー! ハックシュン! ハックシュン! ハックシュン!」
 劉勇は大きなクシャミを連発した。
「なんでさっきまで大丈夫だったんだよ」
不思議そうに春は言う。
「おそらく、感情がアレルギーを上回っていた。でも、気づいたとたん……ハックション!」
「あーあ。せっかくのいい雰囲気が台無しだな」
 春は呆れたように言った。
「ゆゆちゃん大丈夫?」
 利亜は心配して劉勇に近づいた。
「あー! それ以上ちかずくなー!」
 劉勇はとっさに逃げて、三メートルほどの距離を取る。
「あ、そっか♪」
 利亜の胸のところには猫が抱かれている。
「ごめんね」
 利亜は謝罪の言葉を述べた。
 春は目を細めて劉勇を見ながら
「お前、なんか情けないな」
 と、つぶやくように小さい声で言った。
「うるさい。しょうがないだろ」
 劉勇は三メートル後方から怒鳴った。そんな二人のやり取りを見て利亜は笑った。
「にゃーん」
 利亜の腕に抱かれた黒猫は、散って行く花びらが目の前を通るたびに、傷ついていないほうの前足を動かしていた。
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 超能力推進法案が施行されてから8年
 人々も超能力の存在を認め、一部の人間ではあるが超能力を操れるようになってきた中、物語はある一軒家から始まる。
 午前七時三〇分
 ある家庭のリビングは、炊き立てのご飯と、焼き魚の皮が焼けた芳ばしい香りで包まれており、味噌汁の煮立つ音と、フライパンから聞こえる音が、いっそう食欲をそそってくる。
 庭へ続く少し開けた窓からは朝日が差し込み、暖かいような、少し肌寒さを感じさせる春風がカーテンを揺らしていた。
 そんな中、テレビはあるニュースを報道していた。
『昨夜八時一七分、超能力反対派グループ六名によるバスジャック事件が発生しました。人質に取られたのは乗客一四名であり、犯人は超能力推進法案の撤廃と研究機関の廃止を要求した模様です。しかし、八時五〇分に現場に駆けつけたナンバーズのメンバー一名により、事件は終息。犯人六名は逮捕。乗客も無事に救出された模様です。その後の調べで、犯人グループの名前は「innocence」であることが判明。政府は組織の集団テロ行為として、組織解体に全力を尽くすことを表明しました。次のニュースです……』
 真剣な声でニュースキャスターの女性が報道をしている中、テレビの画面には犯人の顔が映し出されていた。
「よくやるよなー。超能力のどこが気に入らないんだか」
 そう呟いた少年は、四人がけのテーブルの椅子の一つに座り、テレビを見ながら朝食をとっている。
 少年の名前は 宇宙町春(そらまちしゅん)身長は一六七センチ、髪の色は黒でギリギリ校則に引っかからない程度の長さ。歳は一六で今日から高校二年生である。体格は標準と言ったところ。現在は学校のブレザーを着ており、登校間近である。
「しゅんー。早くご飯食べちゃいなさい。そろそろ出る時間でしょ」
 台所の方から春(しゅん)の母親 宇宙町静香(そらまちしずか)の声が聞こえてきた。
「わかったよ。今食べ終わるー」
 春はそう言うと、茶碗の中に残ったご飯を口の中に頬張り、味噌汁で胃袋へと流し込んだ。
 そして、ごちそうさまを言うと洗面所へ行き歯磨きと、軽く身だしなみを整え始めた。
 身だしなみを整えていると、
「そういえば、あんた今日、能力開発の日じゃない?」
 静香の声が再び台所の方から聞こえてきた。
「そうだよ」
 春は髪を整えながら答えた。
「どんな能力かしらねぇ。お母さん的には、マッサージが上手くなる能力を希望なんだけど。お父さんも最近腰が痛いみたいだし」
 春はため息をついた。
「やだよ。そんなしょーもない能力。便利や使える能力は第一だけど、やっぱりカッコ良くなくちゃ」
「指圧師カッコイイじゃない」
 静香はからかうように言った。
「もういいよ。んじゃ、行ってきます」
 春はそう言うと、洗面所から玄関へ向かい、靴を履いて家の扉を開けた。
「いってらっしゃーい」
 後から静香の陽気な声が聞こえてきた。

 午前七時五〇分
 玄関を出ると、外は少し肌寒く、電線に止まったスズメは朝日に照らされながらチュンチュンと鳴いていた。
「ん~っ」
 春は深呼吸をするように大きく息を吸った。肺に冷たい空気が流れ込んでくる。
 冷たい空気は新鮮さを感じさせてくれた。清々しい朝だ。
 春は朝日が照らしたコンクリートの道を学校に向かうため歩き出した。
 春の高校は家から徒歩で三〇分かかり、生徒は八時三〇分迄には校門をくぐらなくてはいけない。それを過ぎてしまうと、遅刻扱いにされてしまい、常習犯ともなると何かしらの罰が課せられるのだ。
 現在は七時五〇分であるため、だいたい八時二〇分には校門をくぐることができる。よって、春はいつもこの時間を目安に家を出るのがベストである。
 しかし、遅れることもよくあるため、この時間に家を出るのは目標とも言って良いかもしれない。
 本日ベストな時間に家を出ることができた春(しゅん)は調子がいいのである。自然と足取りも軽くなる。
 車の通りも少ない住宅街の道を歩き、小さな交差点をわたると、七メートルほど先の右側沿いに、いかにも昭和と言うような木造2階建ての建物が見えた。建物の名前は『アイズヤ』と言う駄菓子屋で春が昔からお世話になっているお店である。さすがに今の時間はまだ閉まっており、店の入り口は、木の板でふさがれていた。
 と、その店の前に一人の少女が入口の方を向きしゃがんでいるのが見えた。
 春と同じ高校の制服を着ており、自然な茶色のロングストレートの髪は日の光りを得て、艶やかに輝いていた。
「にゃん♪にゃん♪にゃー♪」
 少女はしゃがみながら、上半身を揺らし、高く可愛らしい声を出していた。揺れに合わせて、綺麗なストレートの髪も1本1本に空間ができ、キラキラと揺れていた。
「よう、利亜」
 春は少女に近寄り、背後から声をかけた。
「にゃん?」
 少女は疑問口調の猫声を出したあと、しゃがんだまま後ろを振り向き、背後に立っている春を見上げた。
「しゅんくんおはよー♪今日は時間に間に合ったんだね」
 少女は春に笑顔を向けた。その笑顔はテレビのお天気お姉さんみたいに爽やかな笑顔だった。
 彼女の名前は刀利利亜(とうり りあ)。春と同じ高校の今日から同じ高校2年生である。
 茶色のロングストレートの髪で、フロント右サイド、およそこめかみを通るところの髪を、顎と同じぐらいの高さのところで赤いリボンで止めている。
 全体的に青を感じさせるブレザーを着ており、しゃがんでいるせいで、純白のニーソックスと青と水色のチェックの入ったプリーツスカートから見える絶対領域と言われる聖域は普段よりも強調されていた。
 そこから覗かせる艶やかで健康美溢れる白い太ももは男ならつい目を運んでしまう。
そして、こちらを振り向いているその体制だと、制服の上からでも分かる確かな胸の膨らみも主張しだし、何とも言えない。
 春は目のやり場に困ってしまった。おまけに、偶然ではあるが自然な上目遣いときた。
「しゅんくん?」
 利亜は疑問口調で名前を呼んだ。そして、春の目線に気づいたのか、顔を赤らめて両手で自分を抱くようなポーズを取った。
「いや、ゴメン!そんなつもりじゃ!ついつい」
 春は焦りながら何かを撤回している。所詮、春も漢なのである。
「むぅ~」
 利亜は顔を赤らめたまま、唸り声をあげた。
「ところで、利亜はなんで猫の鳴き真似をしていたんだ?」
 春は話題を反らす為にも、疑問に思ったことを尋ねた。
「うんとね」
 そう言うと、利亜は目線を駄菓子屋の入口に向けた。そこには、右の前足に怪我を負った黒猫がいた。
 傷口は開いており、見るからに痛々しい。黒猫はその痛々しい傷口を背骨を丸めて舌で舐めていた。
「しゅんくんを待っていたら、ここに猫さんが来たの」
 利亜はしゃがみながら猫を見て言った。

 刀利利亜。彼女はいつも俺をこの駄菓子屋の前で待っていてくれる。といっても、俺と利亜は特別な関係ではない。
 小学校の頃、俺と利亜の小学校には集団登校と言うものがあった。俺達の学区は八時にこの駄菓子屋の前に集合することになっていた。
 当時、小学校から遠く離れたこの学区には俺と利亜と相馬劉勇(そうま ゆゆ)の三人しかいなく、三人が揃った時点で小学校へ向かっていたのだ。
 中学生になり、劉勇とは別の中学になった俺は、集団登校は無くなったものだと思っていたが、中学の一番初めの登校中に、駄菓子屋の前で、さも当たり前のように待っている利亜を見つけた。
 どうやら彼女は集団登校を続けるつもりらしかった。
 俺と利亜の2人だけの集団登校がそこから始まった。
 と言っても、中学後半から寝坊が多くなった俺は、学校にギリギリで行くようになり、八時の駄菓子屋前の集合に遅れるようになった。当然、利亜は時間になるとお構い無く学校へ向かう。
 実際、寝坊したこともあったが、本当は利亜と二人だけの登校と言うのが恥ずかしく感じて、時間をずらすこともあった。
 まあ、変な意識をしていたのは俺だけみたいで、利亜はただの集団登校の延長だと思っているようだった。
 高校生になった俺は、そんな気恥ずかしさもなくなり、時間に間に合うようであれば一緒に学校へ通っている。
「しゅんくん。痛い、痛いの猫さんをどうしようか?」
 利亜は何かしらの回答を期待するような目で春を見た。
「どうするって言っても、これから学校だしな」
 春は困ったような表情で、自分の頬を右手の人指し指でかるく掻きながら傷口を舐めている猫を見た。
 すると、春はあることに気が付いた。
「その猫、首輪してるだろ。つまり、飼い猫だよな。傷つきながらもここまで歩いてきたんなら、なんとか飼い主の家まで歩いて」
「しゅんくん!」
 春が言葉を言い終える前に利亜は言葉をかぶせながら立ち上がり春を見た。
「可哀想な猫さんなんだよ! 私は放って置けないよ!このままじゃ猫さん家に帰れなくなって……! 猫さんの飼い主も可哀想になって! 今日の降水確率もあまり良くないし! それを放って置いた私たちも自責の念から立ち直れなくて! それに……」
 利亜は次から次へと早口言葉のように言って、春に詰め寄った。童顔な利亜の表情は険しくなり、顔色もうっすら紅潮していた。
「わかったよ。わかった。悪い悪い」
 春は詰め寄る利亜の肩を抑え、興奮気味の利亜を制止させながら、普段はおとなしいやつなのに、こういうことになると暑苦しいな。と心の中で思った。
「俺にいい考えがある。」
 利亜の肩を抑えながら春は言った。
「ふぇ?」
 春の言葉を聞いた途端に利亜の様子はいつも通りになり、首を傾げて頭の上に『?』
を浮かべた。
 春は利亜の肩に押し付けている手をどけて、利亜の顔を右手でビシッと指差した。
 指差された利亜は一瞬、ビクッと体を震わせた。
「まずはその猫を手当てできる場所を確保しなければならない!」
「うん、うん。」
 利亜は目を輝かせながら大きく頷く。
「その場所が何処にあるかわかるかね? 利亜一等兵!」
「分からないであります大佐殿!」
 春の突然の振りに利亜は慣れたように対応し、きおつけをして敬礼した。
 春はその様子を見て、両腕をくみ、満足気に頷くと言葉を続けた。
「我々の次なる目的地を、我が旧友のアジトとする。」
 その言葉を聞いたとたんに利亜の表情は一気に明るくなった。
「あ~! ゆゆちゃんの家に行くんだね♪」
「その通り」
 春は利亜に笑顔を向けて言った。
 すると、利亜は次の言葉を述べた。
「そうと決まれば作戦を実行しようではないか。我々には時間が残されていないぞ。春一等兵♪」
「あ……俺の大佐役が」
 大佐役を奪われた春は残念そうに言った。
「一度、やって見たかったんだよね~♪」
 利亜は笑顔でゆったりと答えた。
 春はため息をすると、
「了解しました。利亜少佐!」
 と言って敬礼した。
「大佐は譲ってくれないんだね。しかも階級下がってるし」
 利亜がそう言うと、春は笑った。それに釣られて利亜も笑った。
 二人は駄菓子屋の前で笑いあった。
「それじゃ、行くか」
 春がそう言うと、利亜は傷ついた黒猫を抱きかかえるべく黒猫に手を伸ばした。
 黒猫は人に馴れているようで、利亜が手を伸ばすと傷口を舐めるのを止め、おとなしくその手を受け入れた。
「お利口な猫さんですね~♪」
 利亜はそういうと、猫を抱きかかえて立ち上がり、猫の頭をクリクリと指で優しく撫でた。
「にゃ~ん」
 猫は目をつぶり、くすぐったそうに甘えるような声で鳴いた。
俺は利亜の手に猫が収まるのを確認すると劉勇(ゆゆ)の家に向かい歩きだした。利亜もそのあとに続いた。
 劉勇(ゆゆ)は中学校は違ったものの、高校は俺達と同じ高校へ通っている。
 入学式の時、利亜が劉勇(ゆゆ)を見つけたとたんに、大喜びで劉勇(ゆゆ)の近くに駆け寄ったのを俺は覚えている。それは、さながら子供が初めて遊園地や動物園に連れて行ってもらったときの、入口ゲートまで走り出すそれに似ていた。
 現在、劉勇は独り暮らしをしており、高校近くのアパートに住んでいる。
 よって、通学の途中にある劉勇のアパートは猫の手当てをするのにはちょうどいいと言うことで、俺はその場所を選んだのだ。
「はぁ~あ~」
 俺は歩きながら、大きなあくびをした。
 やっぱりまだ眠い。春眠曉を覚えずとは良く言ったものだな。と、俺はどうでも良いことをぼんやりと考えた。
 相変わらず俺の後ろにいる利亜は猫に向かって、にゃん♪にゃん♪と声をかけており、時折、語尾を揚げて「にゃん?」だったり、頷きながら「にゃん」と言ったりしている。
 あいつは猫語でも話しているつもりか。と俺は思った。と同時に、俺はそんな利亜の姿を見て、まるで母親が赤子をあやしているような神聖な描写のように見えた。
 何故かずっとこの光景を見ていたい。俺は利亜の姿に目を奪われていた。
 そして、俺はそんな気持ちのまま、試しに利亜が猫に何を話しているのか聞いてみることにした。
「なあ利亜、その黒猫に何を話しかけているんだ?」
 利亜は猫をみながら俺の問いに答えるため口を開いた。
「三味線の皮について♪」
「って! おーい!」
 俺の眠気は一気に覚めて、反射的に利亜に突っ込みを入れた。
「俺の穏やかな気持ちを返せー!」
 俺は自分の感情を利亜にぶつけた。
「穏やかな気持ち?」
 利亜は首をかしげながら、聞き返した。
 俺は、はっとした。そして自分の顔が熱くなるのを感じた。
 言える訳がない。俺が利亜の姿を見て、利亜はいいお母さんになるのだろうと思ったこと、そしてその姿を見ている俺の視点が……
 考えているだけで恥ずかしくなった。
「なんでもない」
 俺は焦った感じでとっさに答えた。ツッコミを入れたほうが自爆する。そんな不思議な光景である。
「にゃー」
 黒猫は一声鳴いた。
「うん。うん。なるほどね」
 利亜は、黒猫の声を聞くなり関心したように頷いた。
「おい。今その黒猫何て言ったんだ?」
 俺は黒猫の鳴き声に納得した利亜の様子が不思議になり聞いてみた。
「うんとね。今は使える猫皮が少なくなって来たから、犬の皮を使う方が多くなったんだって。だから犬の意見も採り入れることが重要みたい。そして、そもそも自分は雄猫だからその議論には見解を持ち合わせてないだって。どうやら三味線の皮は雌猫の、しかも交尾前の皮を使うみたい」
「って、三味線の話しかい!しかもさっきの一声に、そこまでの意味があったなんて、猫語ってなんて万能なの!」
 春は早口でツッコミを入れた。
「あはははは。しゅんくんはやっぱりおもしろいね」
 利亜は猫を落とさないようにして背中を丸めて笑った。
「お前が不思議ちゃんみたいな事を言うからだろ」
 春は失礼なと言うような口調で言う。
「うそだよ♪猫さんに三味線の皮の事なんて話さないよ♪」
「え?」
 やられた。あのおっとりしている利亜に一枚やられた。
 俺は多少の敗北感を背負いながらも、笑っている利亜に対して、もう一つ気になることを聞いた。
「三味線の事じゃないなら一体、何を話しかけていたんだ?」
その問いに、利亜は小さくうーんと唸ったあと
「ひみつだよ♪」
 と言って、方目をつぶり人指しゆびを唇の上に持っていった。
「どゆこと?」
 不思議がっている俺の様子を見て、利亜はしばらく笑顔を見せていた。
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~第一章~

 闇よりも深い闇
 無限とも思われる永遠の時間
 何もない
 「無」とはこのことを言うのだろうか。
 そんな中、とても小さな輝きが生まれた。それは、「無」と言う空間に「有」が生まれた瞬間だった。
 輝きはたった一つの思念を持っていた。その思念は次第に輝きを増し、完全な有物を生み出した
 誰が思ったかは分からない。性別さえ分からないその思念は願い続けた

「私のことを忘れないでいてくれますか」と

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「それでは死んで頂きましょうか」
 青年は火野に密着した状態で、静かに耳元で囁いた。拳銃は火野のこめかみに突き付けられ、引き金には火野の指と青年の指が重なり合っている。
「覚悟はできた」
 火野はかすれた声で言う。
 青年はため息をすると、最後の言葉を告げるべく口を開いた。
「僕はあなたの頭を撃ち抜きます」
 確定した結末。言葉を放った本人ですら変える事のできない運命。
 青年の指に力が加わり、火野の指を介して引き金がジリジリと押される。
 その瞬間、引き金が引かれる瞬間、火野は腰をグルリと回し、首を横に振って必至にもがき、抵抗を始めた。
 しかし、青年の力は強く拳銃は火野のこめかみから離れない。
「幻滅しました。火野さんの覚悟はどうしたんですか。不様過ぎますよ」
 笑いながら言った青年の顔には陰が落とされ、表情が確認できないぐらいにうつ向いていた。
 そして、うつ向いたまま静かに呟いた。
「死ねよ」
 バンッ! 銃声が響き渡った。
 火野の抵抗は虚しく、弾丸は火野のこめかみをぶち抜いた。
 即死と言うあっけない死で火野は倒れた。
 火野の思いは潰えた。

 午前一時四九分五四秒 火野大河 死亡

「ざけんなよおオオオ!」
 青年は咆哮した。右手は返り血で赤く染まっていた。勝利したはずの青年は怒りをあらわにしている。
 その全身は赤くなり、上を向き、顔面を血で染まった右手で押さえつけていた。
「アーッハハハ」
 青年は狂ったように耳をつんざくような声で笑いだした。研究室の中は赤く染まり、そのなかにいる青年も赤く染めあげ、青年はただ1人笑い声をあげる。
 室内を赤く染めた物……青年を赤く染めた物……
 無数に壁に取り付けられたモニターが一斉に同じタイミングで赤く光り、点滅しだしたのだ。
すべてのモニターは同じ文字を表示している。

『緊急事態発生ー生命反応停止』

 青年は笑い続ける。その姿は赤い光りに照らされて、まるで悪魔をこの場に顕現させたような不気味さを漂わせていた。
青年は笑い終えたあと、右手を顔面からどけて目の前の物に視線を向ける。先程までの興奮状態は一気に冷めていた。
 その顔は血塗られ、青いひとみはある一点のものを見据えていた。
 青年は静かに言う
「さすがですよ。僕はあなたを見くびっていました」
 青年にその言葉を言わせたもの……青年が視線を向けていたもの……
 青年の目の前にはあのカプセルがあった。しかし、カプセルは割れて中の液体は床に流れ出していた。液体は青と赤が混ざり、紫色に変わっていた。
 青年が『あれ』と呼んでいたもの。
 火野が『奏』と呼んでいた少女。
 それは液体の中で血を流し亡き者となっていた。その左胸からは大量の血が溢れ、心臓を弾丸が射ぬいていた。

午前一時4四九分五四秒 火野奏 死亡

「僕の能力を逆手にとるとはね」
 青年は立ち尽くした

 火野が引き金を引かれる寸前にしたこと。
 引き金が引かれる刹那、火野は今までの状況を分析し、高速で考えを巡らせた。それは、火野の意思と言うよりかは本能に近いもの、一瞬にして火野は取るべき行動を把握したのだ。
 (俺は銃を当てられている。そして、あいつが言うには俺の死は確定しているようだ。つまりは俺の頭は弾丸で貫かれる訳だ。俺の頭を通過した弾丸はどうなる? 通過した弾丸を奏に向けることができれば……いや、まて! あいつにはインサイトがある。俺の動きからそれを察知するのは容易だろう。だが、あいつは言っていた。確定した未来は自分でも変える事はできないと。つまり、俺の死は確定しているし、必ず弾丸は俺の頭を通過する。あいつが最後の言葉を言えば、たとえインサイトがあっても止めることはできない。あいつが言葉を放ったあと、俺は左のこめかみを奏に向ければいい。)
さらに火野は考える。
(しかし、あいつが奏の死までも予知していたら。奏を死のルートから遠ざけていたら……。 いや、大丈夫だ。あいつは始めに、俺の未来しか予知していない。つまり、俺の死から誘発して起こる奏の死は予知していないはずだ。未来予知の弱点、それは『予知していない未来への干渉』だ。)
 火野は覚悟を決めていた。そして実行した。
 必ず救うと決めた少女。守り抜くと心に誓った約束。
 
 火野の戦いは終わった

 青年は部屋を出て、病院の廊下のようなところを歩き、闇の中に消えていった。
 室内には、2人の親子の亡骸だけが残された。

      
                   序章:完
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