【課題】1年後
【本文枚数】13枚
【人物】
浦飯 靱負(19)大学生
浦飯 榮(41)靱負の母
浦飯 帯刀(たてわき)(42)靱負の父
浦飯 巴(17)靱負の妹
榊 匡臣(19)靱負の友人
草場 瑞恵(47)霊能者
 
 
〈墓守〉
 
 
○浦飯家・靱負の自室内
ベッドの上でまどろむ浦飯靱負(19)。開け放たれた窓からは入道雲の浮かぶ空が見える。さんざめく蝉の声。靱負の瞼が再び落ちていく。階段を登って来た浦飯榮(41)がドアを開け、寝ている靱負を見つける。
榮「靱負。……やだ、この子寝てるわ。今日は墓参りだって言ったのに……。仕方ない。置いて行くか」
 
○浦飯家・吹き抜けの階段(夕)
3階まで一直線に伸びる階段を、1階の階段口から見上げている靱負。空間は橙色に染まっている。
3階付近の1段には、男の首が乗っている。男の顔は赤黒く腫れ、穴という穴から泡立った血が溢れ出している。
ゆっくりと階段を登り始める靱負。その視線は、途切れることなく男の首に注がれている。
震える手で手摺を掴み、男の首を跨ごうと苦心する靱負。男の流血が、靱負の足先に触れる。驚いた靱負が、階段を踏み外し、仰向けに落ちて行く。
 
○A大学・中庭
ベンチに並んで座る靱負と榊匡臣(19)。靱負に覇気はなく、目の下には濃いくまが浮かんでいる。
榊「靱負がそんなオカルトチックなこと言い出すなんて、珍しいな」
靱負「昨夜なんか、近所の交差点にある柳の木で首吊ってやがんの。ぶら下がったまま俺に何か言ってんだけど、もう俺怖くてさ」
榊「その男、まじで見覚えないの?」
靱負「皆目見当つかねーっつーの。夢見んの怖くておちおち寝てらんねーし、参ったわ」
榊「……お前さ、嫌がるかんもしんないけど、岸上にそういう類で頼りになる先生がいるんだ。今から行ってみるか?」
 
○店舗・外観
扉には“フラワーアレンジメント教室”の文字。榊の後から、緊張気味に店に入る靱負。生徒たちに指導していた草場瑞恵(47)が榊と靱負に気づく。瑞恵に会釈する榊。落ち着かない様子で、店内を見回している靱負。

○同・応接室
ソファーにそっと腰を下ろす瑞恵。コーヒーカップを置こうとする靱負。猫の鳴き声に脇を見ると、靱負の尻の辺り猫が蹲っている。
靱負「(小声で)っ!……いつのまにっ」
瑞恵「榊くんから、電話で事情は聞いたわ」
靱負「こういう経験は初めてで……。俺、何かに憑かれてるんでしょうか?」
瑞恵「うーん。じゃあ少し見させて貰うわね」
靱負をじっと見つめる瑞恵。息を飲んで待つ靱負と、心配そうな榊。
瑞恵「あなたの御親族で、自殺なさった方がいるわね。おそらく縊死。若い方よ。夢に出てくる人はその男性」
靱負「まじっすか。そんな人、俺知らない」
榊「けど、先生、こいつの夢に何でわざわざ?」
瑞恵「近親からの墓参りがなくなった寂しさを、浦飯くんを通じて親族に訴えてるのね」
額を搔き、困った様子の靱負。
瑞恵「あなたは墓守の宿命を持ってる。無理のない範囲で、その務めを果たしてみて」
 
○浦飯家・仏間
座布団に正座し、俯いている靱負。向かい合って座す浦飯帯刀(42)は、腕組みし、神妙な面持ち。
榮が古いアルバムを手に、仏間へ入って来る。帯刀にアルバムを渡す榮。
帯刀、アルバムを捲っていた手を止め、一枚のモノクロ集合写真が載ったページを靱負に見せる。
帯刀「この中に、夢の男は居るか?」
差し出されたアルバムを見た靱負の表情に怯えが走る。靱負、写真の中の学生服を着た青年を指さし、
靱負「この人だ……。間違いないよ」
戸惑った様子で、僅かに唇を震わす榮。帯刀、眉間の皺を深くし、
帯刀「これはな、父さんの従兄弟の優作だよ。高校生の時に亡くなった。自殺だった」
無言で帯刀を見つめる靱負。
帯刀「うちの店に、優作の母親である万里子叔母さんが来てた時に、ちょうど知らせが入ってな。家の鴨居で優作が……」
言葉を詰まらせ、膝元を擦る帯刀。榮、痛みを堪えるように目を瞑る。
帯刀「ショックで叔母さんはおかしくなってしまってな……。今も生きてるが、もう誰のことも覚えてないよ。息子のことも……」
靱負「優作さんの父親や兄弟は?」
帯刀「父親は優作が亡くなる前に色々あって……。とにかくもうこの世にはいない」
榮「優作さんには確かお姉さんがいたわよね?」
帯刀「美佐子ちゃんは、女手一つで子供二人抱えて、頑張ってるよ。きっと毎日が必死で、墓参りに行く余裕は、今はないだろう」
靱負「父さん。この人の墓がある場所は?」
帯刀「奈良の大和郡山ってとこだ」
靱負「俺、ご家族に代わって墓参りに行くよ。夏休みに連れてってくんないかな?」
真剣な表情の靱負に微笑みかける榮。靱負を見据え、頷く帯刀。
 
○浦飯家・吹き抜けの階段(朝)
2階踊り場に射し込む朝の光。
T・1年後
ドアをノックする靱負。
靱負「巴、開けるぞ~」
ドアを開け、室内を覗き込む靱負。
ベッドに伏している浦飯巴(17)。
巴「う~……。こんな朝早くに何よ~」
靱負「今日は墓参りだろうが。母ちゃんも父さんも、とっくに準備始めてんぞ」
 
○浦飯家・巴の部屋(朝)
靱負、カーテンを勢いよく開けると、眩しげな顔で、のそりと起き出す巴を尻目に、仏間へ続く襖に手を掛ける。
 
○浦飯家・仏間(朝)
立ち上る線香の煙。仏壇の前で正座し、合掌した靱負が、祖父母の遺影に向い、
靱負「今から墓へ行くからね。めっちゃ旨い団子持ってくから、期待して待ってて」