【課題】別れ
【本文枚数】十枚
【人物】
水沢琴子(18)バスケットボール部部員
依田舞(18)バスケットボール部キャプテン
本並光(16)琴子の後輩部員
武士沢郁美(38)バスケットボール部顧問
審判
部員A
部員B
女生徒

〈誰が為に〉

○泉遥高校・体育館内
審判の笛が館内に響き渡る。
審判の声「前半終了! ハーフタイム」
椅子から立ち上がった武士沢郁美(38)の前に、素早く集まる部員達の眼差しは強い。部員達のTシャツの背には、“明翔高校 限りなき挑戦”の文字。
郁美「後半が勝負や。ベスト4の壁を越えたいなら、全て出し切れ。泣いても笑っても、今シーズンが最後のチャンスや」
T試合後半 終了まで残り1分
電光掲示板には、明翔38ー45葛葉。
明翔ベンチでは立ち上がった部員達が、
部員A「残り1分です! まだ勝てる!」
部員B「打った! 入れ! ……ああ」
茫然とベンチに座る水沢琴子(18)が、天井の水銀灯を見上げる。周囲の歓声が遠退き、視界がぶれる。
上空から見た試合の様子と、瞬きすらしない琴子の顔が交互に映し出される。
琴子の肩を、本並光(16)が強く掴む。光を見上げる琴子。汗に濡れたユニフォーム姿で、嗚咽しながら琴子の肩を支えに立っている光。光の目線は途切れることなく試合を追っている。
明翔6番の選手が、ルーズボールを追って、明翔ベンチに突進してくる。ボールを空中で掬い、味方へパスした後、パイプ椅子に突っ込む6番。6番は味方のベンチに目もくれず、壁を突いて態勢を立て直すと、またすぐに走り出す。つられて立ち上がる琴子。その眼差しには生気が戻っている。
電光掲示板には、残り時間3秒の表示。明翔5番が、コート半ばでドリブルを止め、ゴールに向かって渾身の遠投をする。
ボールがぶつかった衝撃に、ゴール板がスローモーションで揺れる。床で弾むボール。鳴り響くブザー音。一瞬の静寂の後、相手ベンチから湧き上がる歓声。

○泉遥高校・体育館外観(夕)
帰り支度を整える明翔の部員達の間から、啜り泣きが聞こえる。その傍らで、花壇のコスモスが風に揺れている。
光が依田舞(18)に抱きつき、号泣しつつ、
光「もっと先輩らと一緒に戦いたいです! 私が不甲斐ないからっ……すみません! これで終わりなんて……絶対に嫌です」
舞「本並は後輩やのに、レギュラーとして本当によくやってくれた。明日からは本並がキャプテンやろ? 泣くのは今日で最後や」
縋る光の頭を撫でながら、光の肩越しに苦笑を送る舞。笑い返す琴子。
鞄を襷掛けにし、立ち上がった琴子の前には舞がいる。舞、深く腰を折り、琴子に礼をする。琴子、動揺しながら、
琴子「……何!? 舞、何してんの?」
周りの部員達、琴子と舞に視線を向ける。
舞「今まで本当にありがとう。琴子らがおったから、ここまでやってこれた。4強の悲願、叶えられんで……ごめん」
琴子「……十分やで。レギュラーの皆はようやってくれた。いい景色、一杯見せてもらったもん。……本当に、感謝してます」
頷く周りの部員達。琴子を見つめ、唇を震わす舞。
琴子「キャプテン、お疲れ様でした」
琴子、深くお辞儀し、顔を上げると、堪え切れない様子で涙を零している舞。琴子、目に涙を滲ませながらも、笑顔で舞を強く抱き締める。
琴子「鬼のキャプテンを最後に泣かせれたし、私もバスケやってきた甲斐、あったな」
近付いてきた明翔7番が、舞の手から4番のユニフォームを奪い、舞の頭に被せる。周りの部員達の顔は、汗と涙に汚れているが、晴れやか。

○明翔高校・体育館内
壇上には、“明翔高校卒業”の横断幕。拍手に包まれ、体育館から退場していく卒業生達。琴子、出口を出た所で脇に逸れ、振り向くと、体育館を見渡す。満足気に微笑んだ後、深く一礼する琴子。琴子に気付いた女生徒が近付き、
女生徒「琴子~。今日でお別れなんて寂しいよ。……って、あんた全く寂しそうじゃないし!」
琴子「ははっ」
女生徒「もう! 琴子は寂しくないの?」
琴子「ううん。私も寂しいよ。だけど、涙も、ついでに汗も、もう十分この体育館に染み込んでるから。涸れ果てちゃって出ないわ」

○明翔高校・バスケットボール部部室前
郁美と向かい合う卒業生部員達。
郁美「目標を達成するには、何が必要や?」
琴子「練習……。行動です!」
郁美「そうや。努力し続ける才能を失うな」
部員達「はい! ありがとうございました!」
郁美、眉間に皺を寄せ、部員達を見渡し、
郁美「……解散!」
風に煽られ、翻る横断幕の映像。横断幕には、“限りなき挑戦”の文字。