【課題】悲しみ
【本文枚数】四枚
【人物】 月野結衣(32)主婦
月野八尋(34)その夫
看護師
〈ありがとう、さようなら、また会おう。〉
○大倉産婦人科・診察室前
ハンカチを握り、俯いた姿勢で長椅子に座る月野結衣(32)。その前に立つ月野八尋(34)。結衣、月野に気づき顔を上げ、明るい表情を作ろうとするが、上手く笑えない。立ち上がり、足早に廊下を移動する結衣。月野、結衣の腕を掴み、引き止める。振り向いた結衣の目には涙が溜まっている。
結衣「先生が、紹介状を書くから、今すぐその病院へ行くようにって。胞状奇胎っていう異常妊娠なんだって。早く手術……」
言葉に詰まり、溢れ出した涙を隠そうと下を向く結衣。
月野「……結衣。泣いていいから」
抱き寄せようとする月野。結衣、月野の胸を震える手で弱く押す。
結衣「大丈夫。ここで泣いたりしたら、妊婦さん達がびっくりしちゃうわ。八尋、やっと授かった子なのに、本当にごめんなさい」
○急性期医療センター・病棟・個室(深夜)
結衣の個室から漏れる灯りが暗い廊下に一筋の光を射している。
ベッドの縁に座り、自身を抱き締めている結衣。扉のノック音。
看護師の声「月野さん、入るよー」
扉を開け、結衣に近づく看護師。結衣、立ち上がろうとするが、よろけて再びベッドに座る。結衣の隣に腰を下ろし、肩を抱き寄せる看護師。結衣、堪え切れず、涙を零し始める。
看護師「明日の手術、不安?」
嗚咽しながら、首を横に振る結衣。
結衣「(途切れながら)人の形にすらしてあげられなくて、まともに妊娠すらできない。この子にも、主人にも、申し訳なくて……」
看護師「胞状奇胎は原因すら分からない、誰しもがなり得るものなの。誰も悪くないのよ。自分を責めたりしないで」
力なく頷く結衣。
○全興寺・境内・地蔵尊前(朝)
とりの囀りが、時折聞こえる境内。
数体の地蔵が並ぶ前で、手を合わせる結衣と月野。
結衣「(心の声)君を妊娠できて幸せでした。もう一度、君を授かりたい。何度でも。この身が砕け散っても、君にまた必ず会いたい」
結衣、目を開け、穏やかな表情で月野を見る。笑顔で結衣の手を取る月野。
月野「そろそろ、行こうか」
【本文枚数】四枚
【人物】 月野結衣(32)主婦
月野八尋(34)その夫
看護師
〈ありがとう、さようなら、また会おう。〉
○大倉産婦人科・診察室前
ハンカチを握り、俯いた姿勢で長椅子に座る月野結衣(32)。その前に立つ月野八尋(34)。結衣、月野に気づき顔を上げ、明るい表情を作ろうとするが、上手く笑えない。立ち上がり、足早に廊下を移動する結衣。月野、結衣の腕を掴み、引き止める。振り向いた結衣の目には涙が溜まっている。
結衣「先生が、紹介状を書くから、今すぐその病院へ行くようにって。胞状奇胎っていう異常妊娠なんだって。早く手術……」
言葉に詰まり、溢れ出した涙を隠そうと下を向く結衣。
月野「……結衣。泣いていいから」
抱き寄せようとする月野。結衣、月野の胸を震える手で弱く押す。
結衣「大丈夫。ここで泣いたりしたら、妊婦さん達がびっくりしちゃうわ。八尋、やっと授かった子なのに、本当にごめんなさい」
○急性期医療センター・病棟・個室(深夜)
結衣の個室から漏れる灯りが暗い廊下に一筋の光を射している。
ベッドの縁に座り、自身を抱き締めている結衣。扉のノック音。
看護師の声「月野さん、入るよー」
扉を開け、結衣に近づく看護師。結衣、立ち上がろうとするが、よろけて再びベッドに座る。結衣の隣に腰を下ろし、肩を抱き寄せる看護師。結衣、堪え切れず、涙を零し始める。
看護師「明日の手術、不安?」
嗚咽しながら、首を横に振る結衣。
結衣「(途切れながら)人の形にすらしてあげられなくて、まともに妊娠すらできない。この子にも、主人にも、申し訳なくて……」
看護師「胞状奇胎は原因すら分からない、誰しもがなり得るものなの。誰も悪くないのよ。自分を責めたりしないで」
力なく頷く結衣。
○全興寺・境内・地蔵尊前(朝)
とりの囀りが、時折聞こえる境内。
数体の地蔵が並ぶ前で、手を合わせる結衣と月野。
結衣「(心の声)君を妊娠できて幸せでした。もう一度、君を授かりたい。何度でも。この身が砕け散っても、君にまた必ず会いたい」
結衣、目を開け、穏やかな表情で月野を見る。笑顔で結衣の手を取る月野。
月野「そろそろ、行こうか」