とても小さい南の島で
とても小さい女の子
たった2000g程で産まれた

『美人さんだね』
私をとりあげてくれた産婆さんはお鍋のススをおでこにちょこんと塗ってくれた
美人に産まれて幸せになれるように
魔法をかけてくれたのかな?


たった一ヶ月で南の島から関西へ

そこから私の複雑な人生は始まった




私の記憶はほんの小さな赤ん坊の時からある
とても天気のいい日
窓際のレースのカーテンは風になびいて揺れていて
ベビーベッドの両サイドには男性と女性がふたりずつ、私を見下ろして微笑んでいた
とても幸せな気持ちだった
あれは夢?
それでもとても満ち足りていて幸せな記憶


幼い頃、私はとでも大人しくて内気な女の子だった
人見知りであがり症
家族以外と話すのはとても苦手
いつも母の後ろに隠れていたっけ

私の母はおっとりとして世間知らずな人
父は怖くていつも酔っ払ってあまり家にいない人
そして年子で弟が2人

父は酔っ払っては母に暴力を奮っていた
いつも怖くて弟と3人で布団に潜って泣いていた
母は家を飛び出して逃げるけれど、父に捕まってまた殴られていた
本当に怖くて怖くて震えて泣いていた

1番怖かったのは
父が母を黒電話で殴って
母が頭から血を流していた時
まだ人間が死ぬという事を理解出来ない歳だったけれど、私の中で何かが壊れる程怖かった

それからしばらくして私だけ祖母に預けられた
山と川しかない田舎に私だけ
毎日毎日母の迎えを待って玄関で立っていた
帰り支度を1人でしてただひたすら待っていた
一ヶ月経っても母は迎えに来なかった
そのうちに私は諦めてしまったのか
玄関には立たなくなった

夏も終わりに近づいた頃母が迎えに来た
私は母の顔を忘れていた
あんなに待ち焦がれていた母の顔なのに
泣かずに聞かれたことに頷いて
祖母にお礼を言って手を引かれ自宅に帰った
でも、そこは元いた家ではなく
新しいアパートだった

いつの間にか父は会社を興していたらしく、そのアパートには父の会社の工員さんも何人か住んでいた
会社の寮にしたのか、父はよくそこで酒を飲んでいた
父は私をそこによく呼びつけた
汚い臭い気持ち悪いおじさんがいっぱいいて、私は行きたくなかった
酔っ払って下品に笑うおじさん達を私は好きになれなかったから
その中のおじさんが、一度だけお菓子をあげるからお部屋に取りにおいでと言って私を部屋に連れて行った
靴を脱いで部屋に上がったら、おじさんが急に私を抱っこした
私は怖くて降りようとしたけどおじさんは離してくれなかった
たまらなくなって私が泣き出すと、おじさんは

『このことは、お父さんにも、お母さんにも言ってはダメだよ』

と私に口止めをした
玄関で靴を履かせてもらって私は走って家に帰った
お菓子は貰えなかった
泣かなかったら何をするつもりだったんだろう


多分私は母に言ったんだと思う
その夜、父は、おじさんの部屋で大声を出して暴れていたから


しばらくして私は幼稚園に入園した
家の中はピリピリとして父が帰って来た日は泣きながら震えて寝ていたけれど、幼稚園は楽しかった
ゆきよちゃんというお友達が出来て
おとなしい私の代弁をしていつも守ってくれた
ゆきよちゃんは強くて明るくて、とても正義感の強い女の子
私の憧れの女の子
ゆきよちゃんのようになりたい!と私はいつしか思うようになった

小学校に上がって、ゆきよちゃんと同じクラスになって、相変らずゆきよちゃんに守られながらも楽しい学校生活を送っていた
毎日学校に行けばゆきよちゃんに会えて、お休みの日もゆきよちゃんのお家に遊びに行っていた

そんなある日、母が
『今日は学校お休みしてね』と言った
母は朝から忙しなくダンボールや袋に何かを詰めていて
『お前の机のおもちゃも、大事な物もこれに入れなさい』と大きなダンボールを渡された
私はわけもわからず入るだけダンボールに入れた
教科書はランドセルに閉まらない程母が入れていた

母が大きな緑色のワンボックスカーにダンボールや袋を運んでいて
『お前達も早く乗りなさい』
と急かされて車に乗り込むと
『今からおばあちゃん家に行くから』
『新幹線に乗るから駅で待ってなさい』
と言って母は駅に私達を降ろして車で何処かに行ってしまった
何時間待っても母は来なくて私達は駅でわんわん泣いていた
暗くなってからようやく母が来て
新幹線に乗って祖母の街にやってきた



着いたのは夜中で、駅には街頭が一つしかなくとても怖くて
『大阪帰る!』
と母に泣いて訴えた
でも母は
『今日からおばあちゃんの家にしばらく住むから』
と言って聞いてはもらえなかった

祖母の家に着いてその日は夜中だったのですぐに寝ることになったけれど、私はなかなか寝付けなかった
トイレに行ってリビングの前を通ると母と祖母の話し声がして
『父の会社が倒産』『離婚』したと話していたのが聞こえた
意味は分からなかったけれど、もう元の家に戻れないという事はなんとなくわかった


そしてここから、私の辛い小学生時代が始まる