「我が国に有益なものならば、直ちに取り入れ、我が国に害を及ぼすと判断したら即座に取り除きます」
「皇太子、頼んだぞ」
剣を抜いて皇王に宣誓し、彼らは『未知の異常な魔力』へと接近を始めたのである。
そしてアリサを追い払った王都はといえば――。
「ソフィア、きみが聖女なんじゃないのか? 守護はどうした? 反逆者アリサの追跡はどうなった?」
御前会議の場で、王子がソフィアに詰め寄っていた。現在、ソフィアは、後宮の一角に特別に贅を凝らした部屋を用意させ、自由気ままに過ごしていた。
食べる物も身につける物も、これまでとは桁違いに豪華になっている。当然、神殿で奉仕活動をすることもなく、祈りを捧げて王都を守護することもない。
「あたしぃ、できませぇん」
「なっ、なぜだ! 聖女だったら聖女の役割を果たすべきだろう? まったく、アリサはもっとまじめだったぞ」
「そんなことよりぃ……あたしたちの結婚はいつですかぁ?」
険しい顔をしていた王子だが、ソフィアが胸を押し付け体を摺り寄せ、甘ったるい声で囁いた瞬間、とろんとした目付きになった。
「国王陛下、我々の結婚を許してください」
「馬鹿者が! お前らが追放したアリサ嬢こそが、真の聖女であったのだ……」
そんなはずないあいつは偽聖女だ、と王子は喚くが、玉座でしかめっ面の父王は、ため息でそれを否定する。
「何という大失態……アリサ嬢が消えてから、我が国は魔物が跋扈し、王都の結界が消えてしまったのじゃぞ」
「ですから、その結界をソフィアが張りなおせばいいのでしょう?」
ふふ、とソフィアが妖艶に微笑む。
「結界なんて面倒なものを展開するより、みんなで魔物狩っちゃえばいいのよ。騎士団、暇でしょ?」
「ああ、ソフィア! なんて名案なんだ……」
「ふふっ」
「今すぐ、兄上に頼んで騎士団を出発させよう」
王の前であるにもかかわらず、王子とソフィアは熱烈に抱き合い、キスを交わす。ごほんごほん、と王は、咳払いで割って入った。
「いいか! ……大神殿に問い合わせてみたが、次の聖女は見当たらぬ、しばらくは聖女不在だと回答があったぞ」
「それは、大神官の秘蔵っ子だったアリサから聖女の称号を剥奪したことを恨んで、ソフィアを聖女と認めようとしないのでしょう。いつまでも偽聖女の味方でいるなら大神官の地位を剥奪し大神殿も解散を命じればいいのです。なぁにちょっと脅せばいいのです。このソフィアが聖女の力を使いこなしますよ、ねぇソフィア……」
痴れ者が、と吐き捨てた国王は、玉座から立ち上がった。父上? 王にそっくりの息子たちが声をそろえる。
「わしが、騎士団に同行して魔物退治をしよう。愚かな息子の、愚かな発言を真に受けた愚かな父の、せめてもの罪滅ぼしじゃ……。そして、アイズ。居るか?」
「はい、お父さま、こちらに」
「お前は第六王子じゃが正妃の子、わしの魔力を受け継いだうえに正統な王位継承権者じゃ。アリサ嬢も会わぬとは言い辛いはずじゃ。わしの代理人としてな、アリサ嬢に会ってきてくれ。そしてな、早急に我が国に戻ってきてくれるよう頼んでくれ」
「戻ってくださるでしょうか?」
「戻るに決まっておる。どこぞで、家も仕事もない、みじめな生活を送っておるであろうからな。これまでどおりの聖女の称号と衣食住を保証すれば、泣いて喜ぶじゃろ」
承知いたしました、と、頭を下げたアイズ王子は小さくため息をついた。
きっとアリサ嬢は、結界が消滅し魔獣が跋扈していると聞けば民を守るためにすっ飛んでくるに違いない。
⑦に続く