すぐにその場所を見つけることが出来たのだが、生憎、総司は現在「注目の的」である。
迂闊なことに隊服を着たままのため、「新選組です」と言っているようなものである。
途中で羽織を脱いだものの時すでに遅し、壬生狼や、と露骨に避ける人もいれば、朋輩の仇と叫びつつ襲い掛かってくる人もいる。
「ああもう、今は非番なんです!」
上段の構えで突進してくる男は横に飛んでかわし、ひょいと足を出して転ばせる。
地面に突っ伏したところを峰打ちに倒して、完了。
もう一人は、切り上げてくるのを適当にいなして手首を峰で打ち、刀を取り落したところを投げ飛ばす。
それぞれの刀の下げ緒を解いて手を縛り、道端に積み上げておく。
「このことを、屯所へ知らせてください」
恐る恐る見ていた子供を手招きして、そっと小遣いと飴玉を握らせる。
その小さな背中を見送ってから、総司は改めて「隠れ家」を見た。
「あーあ、堂々と暮らしてくれちゃって……」
腰に手を当てて溜め息をつきたくなるほど、分かりやすかった。
力任せに外したらしい板は無造作に放り捨てられ、入り口には何やら赤い布が翻っている。
大方、後から来る仲間への目印だろうがこんな派手なものにする必要があるのだろうか。
ぐるっと家の周囲を歩いてみれば、甲冑らしきものが二領日陰に干されており、その隣に下帯と袴が二枚づつ。
あとは見たことのない小さな布が何枚か干してある。
「男が二人だけ……?」
小窓から中を覗けば竈に火が入っていて、雑炊らしきものが作られている。
「ん? 椀が三つ、匙も三つ……? でも甲冑は二つしかない……」
総司が首をかしげるところへ、近所の人々が押し掛けてきた。
「沖田はん、どうにかしてや」
「どうしました?」
「変なお人がここに数日前から住み着いて、難儀してます」
人々がこわごわと指差す家は、例の怪しい家だ。
「変な人って……過激な志士たちが戻ってきたんじゃ……」
違う違う、と人々は一斉に首を横に振った。
話を聞いてみたところ、どうやら少なくとも若い武士二人と奇妙な格好の女の子が暮らしていることは間違い無さそうである。
しかしこの町で暮らすための規則を守らないし、近隣から三日に一度、火や薪や食べ物を盗っていく。
のみならず、時おり早朝から奇声を上げて剣術に励み、一体どこから持ってきたのか馬術の稽古に励む。
「往来を馬が二頭、駆けるんです。大弱りで……」
たまりかねて抗議しようと家の戸を叩けばぬっと槍の穂先を突きつけられ、大変な大声で誰かと尋ねられたそうな。
怪しい人物がいる以上、子どもたちも外で遊べないし、女性の一人歩きもままならない。
「沖田はん、助けて~」
「わ、わかりました。お任せください」
とは言ったものの、一体何と声を掛けたものか。
「頼もーう」
と大声を張り上げた総司は、首筋に寒気を感じて、ぱっと飛び下がった。
その、総司の首があった場所を正確に突く槍がある。すぱん、と扉が開かれた。
仁王立ちになる若い男は、体に合っていない浴衣を身につけているが、手にした槍は見事だ。
「ひゅー! やるじゃん、幸村」
その槍使いの背後から、明るい少女の声がする。
「あさぎ殿、某は幸村ではないと申すに……」
「いいじゃんいいじゃん! で、お客さん?」
「そうらしいな」
ひょいと顔を出そうとした少女の首筋を、幸村と呼ばれた青年が捕まえた。
「伊達殿! 客人は相当の手練れ、あさぎ殿を奥へ」
「承知。いくぞ、あさぎ」
「やだーっ、わたしも決闘見る!」
「覚悟のないおなごが見るものじゃねぇ」
「独眼竜のばか! はなせー!」
「おいおい、まるで俺が人さらいか何かみてぇじゃねぇか」
独眼竜、と呼ばれた男が少女を奥の間へ連れていく。そのやりとりを見ていた総司は、ため息をついた。
この三人は間違いなく時空の歪みによってここへ飛ばされてきた人たちだ。
(だいたいこの人達にその自覚はあるのかな……?)
ここが、徳川の世で、京の都であるということを、彼らは判っているのだろうか。
(ぼく、そんなこと説明できないよぉ……!)