「だいたいね、そんなものが存在するなら、そもそも倒幕派だの佐幕派だのと、お国が真っ二つに割れることもないし、同じ国の人間同士が殺しあうこともない。理解し合えないから殺すしかない、これが人間のすることですか」

「……お前はそんなことを考えていたのか」

「だからといって、トシさんのすることを否定はしませんよ。そのやり方が悪いとも思わない。殺し殺され、お互い様。それに、手先になって一番人を殺したのは……」

 この手だ、と、総司は右手を歳三に突き付けた。その突き出された手首の白さに、歳三はギクリとした。

「お前……体の具合は……」

「人はこの手は血に塗れていると恐れます。でも、ほら、今はこんなに綺麗で、子供たちは平気で握ってくれる」

「何が言いたい」

「さぁ? いいんですよ、トシさんはそのままで。しっかり近藤先生の為に働けばいい。何を迷ってるんですか。何なら『迷い』ごとすっぱり斬りましょうか? あまり具合が良くないけど、トシさんを斬るくらいわけはない」

 ちゃき、と鯉口を切る音がして、思わず歳三は一歩後ずさった。それを見た総司はケラケラと笑った。

「さて、鬼ごっこに本物の鬼は要りません。子供たちが怖がるのでさっさと立ち去ってください」

しっし、と犬でも追い払うように追い出され、歳三は釈然としないまま壬生寺を後にした。

どんなに歳三が腹を括ろうとも、世の中の流れというものは、歳三の思い通りに運ぶわけではない。

無理もない。後に「明治維新」と呼ばれる激流が彼らを呑み込んでいるのだから。

その流れは、歳三たちを、悪いほうへ、悪いほうへと、押し流してしまった。