暗闇から、ぬっと突き出される手。

 そこに、さっと乗せられる小さな包み。

 かさり、と、懐に仕舞う音がし、二人が反対方向へと歩き出す。


 その、片方。

 金銭を受け取った方の男が、不意に足を止めた。

 斜め前方の民家の壁に、人影を認めたからだ。

「土方副長、何をしてるんですか。こんなところで」

「……その言葉、そっくりそのままお前に返す。……総司」

「ちっ、もう見つかったのか」

「当たりめぇだ、馬鹿が」

 土方は、大股で沖田に歩み寄ると、いきなり沖田の懐に手を突っ込んだ。

「何するんですか!」

「それもこっちの科白だな、総司」

「何って仕事だよ、仕事!」

「誰に命じられての仕事だ。俺も勝ちゃんも、何も命じていない」

 沖田は、悪戯を咎められた子供のように口を尖らせ、ぷいっとそっぽを向いた。

「その仕事が無いから、仕事を求めただけだし……」

 沖田の言う「仕事」が、子守や留守番、買い物代行などといったものではないことは、報酬の多さからも、沖田の服装からも、明らかだ。

「勝手なことをするなとあれほど」

「大丈夫、壬生浪士組の沖田総司とは名乗ってないから、歳さんにも若先生にも迷惑はかからない」

「念の為に聞くが、お前、何て名乗ってるんだ?」

「沖田宗次郎」

 馬鹿、の「ば」と言ったところで土方は大きくため息をついて天を仰いだ。

 偽名でもなんでもない。本人の幼名ではないか。

「あのな、総司」

「はい?」

「この京の都に、沖田と言う名の剣の遣い手が何人いると思ってるんだ」

「は?」

「鮮やかな手並みで確実に相手を仕留める沖田という名の剣豪が、そうそう居てたまるか!!」

 ごつん、と沖田の頭が鳴り、火花が散った。

 幼い日のように、土方の拳骨が落ちたのだ。

「二度と勝手に暗殺を請け負うな! 解ったか!」

「はい……」


 その日、屯所へ戻った土方は、隊の規律の草案を再び練り始めた。

「勝手な暗殺請け負うべからず……いやいや、こんなのはあの馬鹿くれぇだろ。勝手に儲けるな……いや、露骨過ぎるか。勝手に金を……金を作るな?」

 うんうん唸ること、およそ半刻。

「勝手に金策致す間敷き事。こんくれぇか?」


 後日。

 近藤をはじめとした幹部達に、この変な一文は何かと問われた土方は、しれっとした顔でこう答えた。

「勝手に金のやりとりをするな、そう解釈してくれていい。金は何かと騒動の火種になるからな」

 ちらり、と土方が見る先には、こちらもしれっとして座している沖田が居る。

 が、その横顔が若干苦々しげであることに気付いたのは、土方だけであった。


【終】


あとがき。

新選組の規律に「勝手に金策致す間敷きこと」というものがあったらしいと聞いたときに、真っ先に思いついた小話です。

あの規律。

どうにでも解釈できて、面白いですよねぇ……。