:新選組で5つのお題:
その5:誠
新しい、西本願寺の屯所の庭に翻る、「誠」一字を染め抜いた旗。
それをぼんやりと、近藤勇は見上げていた。
「誠、か」
新選組の旗を作ろうという話になったとき、土方歳三と、今は亡き芹沢鴨・山南敬介の三者の意見がぴたりと一致したのがこれだった。
「最初で最後の、意見の一致だったなぁ……」
相撲の興行を打ったときも、八・一八の政変に出動したときも、大樹公の護衛についたときも、池田屋に斬り込んだ時も、この旗が共にあった。
この旗が出来たときも、近藤はこうして一人で旗を眺めていた。そこへ芹沢がふらりと近寄ってきて、近藤にこう言った。
「自分の道に迷ったらな……この旗をみろ」
「旗を?」
聞き返した近藤の肩を、芹沢は大真面目な顔で掴んだ。
今まで見たことがないほどの真剣さに、思わず近藤も顔つきが引き締まる。
「誠の一文字が見るものを睨みつける。そこでだ。お前が進もうとしている道は、誠の一字に相応しいか否か。道理に適っているか否か。よーく考えろ。俺たちは誠を忘れたら、ただの浪人集団に成り下がる。誠があるかないか、大きな違いだ。わかるか?」
「わかるような、わからないような……」
「今はまだ、それでいい。そらからな、その顔だ。いつもそんな顔をしていろ。上に立つものが、情けない面を見せれば、隊の士気に関わるぞ」
一つ頷くと、芹沢は今までの大真面目で引き締まった顔をだらしなく崩した。
「おら、誰か。酒もってこい、酒だ! お梅、野口、誰かいねぇのか!」
この日の出来事を、近藤は忘れたことがない。
自分はあの時、芹沢の「誠」を託されたのだ、と、おぼろげながらに理解できるようになったのは、つい最近のことだ。
「芹沢さん、誠のある、大きな組織になりましたよ」
しかし、それでも近藤の心がすっきりと晴れることはない。
伊東甲子太郎一派を入れたのは本当に良かったのか。
山南敬介を死なせてしまったこと、西本願寺へ強引に屯所を移したこと……誠の旗に睨み据えられて、視線をそらしたくなることがある。
「近藤先生、なんて顔してんですか」
「総司!」
「局長がそんな不安そうな顔をしていないでください。隊士たちが、何を信じればいいのかわからなくなりますよ」
「すまん」
沖田はにこりと笑うと、旗を担いで己が率いている一番隊の隊士のほうへと歩いていく。
「一番隊、今日はこの旗と一緒に巡察行きます」
「は?」
「みなさんがそろそろ、一番大事な『誠』を忘れてるんじゃないかと思って」
忘れてないですよ、と言う声と、忘れてました、と正直な声もする。
総司がゆらりと振って見せた旗は、よく晴れた青空に誇らしげに翻った。