「殿! 殿! 八朔(はっさく)さま!」

 朝も早くから、柑橘(かんきつ)家当主の八朔の元へ駆けてきたのは代々家老職にある金柑(きんかん)家の嫡男・酢橘(すだち)である。

「いかが致した。若がまた何かやったか」

「いえ、蜜柑(みかん)さまは、大広間にて客人を接待しておりまする」

「客人じゃと?」

 わしはきいておらぬぞ、と、八朔は居室から出てきた。

「は、それが、正確には、殿や蜜柑さまのところへの客人ではなく、姫君の元へ」

 そうであった、と、八朔は大きなため息をついた。

 先日、蜜柑の妹・柚姫(ゆずひめ)の縁談がまとまった。

 しかし、姫一人に対して、夫は何十人もいる、という有様だ。それもこれも、蜜柑が勝手に全て承諾してしまった所為である。

「で? いかが致した」

「あ、それがですね。柚姫さまが、さすがにこのように大勢の夫では困ります、と仰せになり、様々の条件をお出しになりました」

「……兄の影響か」

「はぁ、まぁ。蜜柑さまほど、ぶっ飛んではおりませんが……」

「申してみよ」

 

 柚姫の提案した条件とは、こんなものだった。

「武将たるもの、風雅風流を解せなければなりませぬ。それゆえ、わたくしあてに、和歌や恋文を書いてくださいませ。これ、と思うものにはわたくしがお返事いたします。その後、私の元へ通ってきてくださいませ。いずれ三夜、通いとおせば、夫として順番にお迎えいたしましょう」

 平安貴族の姫君のような、条件である。まだ幼い姫が、一人で思いついたとは到底思えない。これは、やたらと知識のある、蜜柑の入れ知恵に違いない。

 八朔は、苦虫をまとめて噛み潰したような顔になった。

「……誰も同意せぬであろう?」

「いえ、某もそう思いましたが……奥州の伊達殿、信州の真田殿を筆頭に、皆様次々と付け文を……。その旨を殿が知らぬでは済まされぬと思い……」

「して、蜜柑は?」

「蜜柑さまの検閲や面接を突破したもののみ、姫さまの元へ届けられることになっております。お歴々は、蜜柑さまのご機嫌伺いに必死の様子」

「いかぬ、蜜柑をすぐに下げよ! いや、わしが見張りに行く!」


 八朔が大広間へ駆けつけたとき。 

 各国の名立たる武将・大名たちがこぞって蜜柑に平伏していた。

「義兄上!」

「兄者!」

 などと既に呼ぶ者もいる。口々に何かを叫ぶ一同に向かって、蜜柑は偉そうにこう言った。

「義弟らよ、良くぞ参った! 大儀である!」

 八朔が卒倒したのはお約束どおりである。