受話器を置くか置かないか、のうちに、1階にあるダンス教室から大音量の音楽が流れてきた。
「うわっ、近所迷惑!」
5階のこの部屋まで、歌詞も旋律もビートも、すべてくっきり聞こえてくる。心なしか、ズンズンと空気が震えているような気すら、する。
バタバタと階段を駆け下りて、ダンス教室に入る。
「アチャラ、静かにしなさいっ!」
ラーガの細い声など、楽しそうに踊るアチャラには全く届かない。
ずかずかとフロアを横切って、音楽のボリュームを下げようとリモコンを探すが、なんと本人が手に持って踊っている。
「ちょっと、アチャラ! ボリューム下げなさい!!」
以前、音が五月蝿いと、怒鳴り込まれたことがあった。なにせ、アチャラ一人だと、ライブハウスかと錯覚するくらいの大音量で踊るのだ。
ついでに、テレパシー能力で自分がいかに楽しいかをせっせと伝え、子供達に、一緒に踊ろうと誘っていることも発覚。
「また叱られるわよ。お隣、学習塾なんだから……」
アチャラの思考が頭に流れ込んでくる。
『ラーガも超能力者なんだから、それでどうにかすればー!?』
「言ったわね!?」
『でっきるかなー』
きっ、とアチャラをにらみつけたラーガの、黒髪がぶわりと逆立った。
「いい加減にしなさい!」
ぎゅるるる、と水の膜が現れ、踊りまわっているアチャラを拘束した。
「ええー!?」
「ふん、わたしだってね、やるときはやるの」
「やだやだ、開放してよ」
「音量下げる?」
「うん」
「テレパシーで授業の妨害しない?」
「う、うん」
「先生の頭の中にあるテストの答えを、子供達に伝えるのは人助けじゃないのよ?」
「……ちぇっ」
ラーガの髪の毛が更に逆立ち、水の膜の締め付けが更に厳しくなった。
ギリギリと、アチャラの華奢な体が軋むほど。
「ぐえぇぇぇ! ぶ、ブラフマン、た、たすけてーっ!」