日常タクシードライバーをしていますが、基本お客様に声をかけることはありません。


行き先をお伺いして、目的地まで無言の状態で車を走らせます。


ですが、実は7割くらいのお客様が、声をかけてくれます。


その際は、有り難くお話しをさせていただきます。


長距離になると、込み入ったお話しをされる方も珍しくはありません。


人生経験豊富な方も多くいらっしゃいますので、大変興味深くお話しを伺っています。


一期一会ですね。







先日、とある医療センターに27年間通われているお客様にご乗車いただきました。


27年前に交通事故で、生死の境を彷徨ったようなのです。


事故当時助手席に座っていたようですが、相当に激しい事故で、運転をされていた方は即死でした。


その方も意識不明の重体で、半年間意識がなかったのですが、半年後奇跡的に目を覚ましました。


目を覚ました瞬間一番初めに感じたことは、治療室の白い天井を見上げ、


「なぜ、こんな所に寝ているのだろうか。」


と、自身の置かれた状況を理解できなかったのですが、自分の家ではないことには、気がついたそうです。


ですが、それ以外のことはほとんど記憶がなく、事故当時のことも、奥さんの顔すら覚えていませんでした。







一命は取り留めましたが、目を覚ましたその日から地獄のリハビリが待っていました。


頭を強く打ってほとんど何も思い出せないし、身体も思ったように動かすことができない。


結局、ある程度歩くことができるまで一年以上かかったそうです。


そして、その後奥さまとは離婚。


現在も定期的に脳の検査、生涯続くであろうリハビリ。


壮絶な人生を歩まれている方でした。


お話しを伺っている最中に、僕はこのように思いました。


(もしかしたらこの方は、目を覚さないほうが幸せだったのではないだろうか。

このような苦しみを味わう必要は無かったのではないのか。)


一瞬そのように感じました。


ですが、その方は嬉しそうな声で僕にこう言ったのです。


「私が甦ったことは奇跡だと思う。

こんなについてる奴は、珍しいだろ!」


ミラー越しに爺さんの笑顔が、幸せそうに映りました。







幸運や幸せな気持ちは、他人が測ることではないですよね。