猫の慢性腎臓病(慢性腎不全)のアウトライン

海外でまで勉強された獣医師のスペシャリストのサイトですね、コメントが沢山あります。
その部分は割愛しました。。今さらですが自分のインフォームドコンセントが得られなかった教訓のためにまとめています。


2015年6月17日 41 コメント
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よく相談を頂く猫の病気のアウトライン「どんな病気なのか」「どういう治療があるのか」を解説します。今回は腎臓病です。先に申し上げておきますが、このページには最先端の情報や画期的な治療方法はありません。誤解されやすいところ、わかり辛いところに文字数を割き、愛猫が腎臓病と初めて診断されたオーナーさんの情報整理のために使って頂けると幸いです。以下4つのカテゴリーに分けて説明していきます。

1.概要 2.検査 3.治療 4.予後

1.概要

腎臓病は老化に伴う腎機能の低下を示す慢性腎臓病、急激な腎機能の低下を急性腎障害の2つに分けられます。猫では慢性腎臓病が圧倒的に多く、このページでは断りがない限り腎臓病は慢性腎臓病を示します。

具体的に腎臓病の定義としては腎臓の機能が50%以上失われた状態を示します。高齢の猫に多く、10歳以上の猫は30〜40%以上の猫で慢性腎臓病になっていると考えられています。

腎臓という臓器は一度機能を失うと回復することがありません。そのため、治療目標は進行を遅らせることと猫の気分を楽にしてあげることがメインになります。

1.0 なぜ猫は腎臓病になりやすいのか

よく聞かれる質問ですが、はっきりした理由は分かっていません。猫の祖先は砂漠で生きていたため、水分を温存するために少量の濃縮した尿を作れるように進化しました。濃縮された尿を作る過程で腎臓のネフロン(腎臓はネフロンと呼ばれる構造が沢山集まってできている)が摩耗していくのではないかと考えられています。またネフロンの数自体も人間が左右の腎臓で200万個、犬が80万個に対して猫は20万個と少なめです。ただ、人間は猫より10倍体重が重いのでこれはある意味当然のことでしょう。腎臓の密度あたりのネフロンの数は10000/gとなり、これは人、犬、猫で一致します。

猫は完全肉食動物で他の動物よりもたんぱく質を多く摂取します。そのため尿素が多く産生され腎臓が多く働かされるという説もあります(尿素と腎臓の関係は後述)。また感染症の関与も考えられ、最近の研究ではモリビリウィルスが猫の腎臓病と関係しているかもしれないと香港の研究チームに2012年に報告されました。今後さらなる研究が待たれます。

1.1腎臓の機能

腎臓病の話をする前に腎臓の機能に触れないといけません。腎臓の主な機能は以下の3つです。これは人間も猫も殆ど同じです。腎臓病になるということはこれらの機能が低下するということです。

1. 体内の老廃物の排泄:たんぱく質を体でエネルギーにしたときにできた窒素化合物、老廃物、毒物、薬物などを尿として排泄しています。この機能が低下すると尿毒症と言って毒素が体に溜まり気持ちが悪くなり、食欲がなくなる、嘔吐などの症状がでます。

2.体液(血液など)のバランス調整:水分、ナトリウム、カルシウム、リン、カリウム、重炭酸イオンなどを一定のバランスで保つように調整しています。しょっぱいものを沢山食べた翌日むくんでも、夕方には元に戻るのは腎臓のおかげです。同様にビールを沢山飲んだ時のように過剰な水分はすぐに尿として排泄されます。

3.ホルモン等の産生:腎臓は尿を作るだけでなくホルモンも産生しています。血圧の調整するホルモン(レニン)、カルシウムを吸収するためのビタミンDの調整(活性型ビタミンD)、赤血球の産生を促すホルモン(エリスロポイエチン)を産生しています。

1.2症状

食欲不振、体重減少、元気消失、毛づやが悪い、嘔吐、便秘、口臭、尿量の増加(飲水量の増加)などがあげられます。

腎臓から排出されるべき廃棄物が体に溜まり気持ち悪くなりこれらの症状が現れます。進行すると貧血にもなります。また猫の毛づやは健康のバロメーターなので、他の病気でも体調が悪くなると毛がパサパサしてきます。

実際には猫は症状を隠す動物であること、緩やかに進行する病気のため飼い主さんが初期に気づくことが難しいです。最も気をつける症状は「尿量の増加(飲水量の増加)」です。これは自宅で確認でき、(→飲水量の測り方)嘔吐などの症状が出る前に愛猫の異変に気がつくことができます。

1.3腎臓病の種類

慢性腎臓病と急性腎障害があります。文字通りゆっくり進行するのが慢性腎臓病と急に腎機能が低下するのが急性腎臓病です。

1.3.1慢性腎臓病 (CKD)

猫で多いのはこちらの慢性腎臓病です。15歳以上の猫では30%以上が慢性腎臓病のであるという報告があります。特に原因がなくても老化に伴い腎機能が低下していきます。

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縦軸:腎臓病の進行度 横軸:時間経過
人間では3ヶ月以上続く腎機能低下、または腎障害を慢性腎臓病と診断します。腎障害とは腎臓機能の低下や蛋白尿がでるなどです(検査の項を参照)。

1.3.2 急性腎障害(AKI)

元気な猫や若い猫が急に元気がなくなり、病院で腎臓病であることが判明した場合は急性腎障害の可能性が高いです。急性腎障害はなんらかの原因で腎臓への血流が不足した時(虚血)、腎臓への感染、薬物などが原因で起こります。猫で多いのは尿路結石、毒性(ユリ科植物、エチレングリコール中毒)などです。

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縦軸:腎臓病の進行度 横軸:時間経過
急性腎障害の予後は原因やケースによってことなり、腎臓の機能が戻らずそのまま亡くなってしまう(赤線)、元の機能まで戻る(青線)、完全には機能は戻らないが生存できる(緑線)の3パターンがあります。

1.3.3 慢性腎臓病と急性腎障害の区別

実際の獣医療では腎臓病の診断時に厳密に急性腎障害と慢性腎臓病を区別することは難しいです。それは猫は体調が悪くなってきたから来院することがほとんどで、急激に腎臓が悪くなったのか、ゆっくり腎臓が悪くなったのか判断できないからです。

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上のグラフは過去のデータがない猫で腎臓病のイメージ図です。腎臓病が悪いことはわかりますが、これでは慢性腎臓病が進行した状態なのか、もしくは急性に腎臓が障害されたのかは判断できません。

猫の年齢、体格、腎臓の形やサイズからおおよそ区別がつきますが、初診時には慢性か急性かわからないことがあります。慢性か急性かの区別は予後(病気が治る見込みがあるのか、どのくらい生きられるか)に関係する大事なことです。



1.4慢性腎不全と慢性腎臓病の違い

慢性腎臓病と慢性腎不全という言葉が混同されていることがしばしばあります。「不全」という言葉はその機能が失われ、生存が困難になった状態を示します。そのため腎機能が下がっていても食欲があり無症状な猫を慢性腎不全とは呼びません。より広い用語である慢性腎臓病という言葉が正しいです。そして慢性腎臓病の中でも進行した状態を慢性腎不全、最終的に腎機能がなくなった状態を末期腎不全と呼びます。



2 検査

腎臓病の検査は腎機能検査と画像検査にわけられます。最終的な診断は身体検査を含んだ各検査結果と猫のプロフィール、症状から総合的に獣医師が判断します。

2.1腎機能検査

文字通り腎臓の機能を検査します、動物病院で一般的に行われるのは血液検査ではCre(クレアチニン)、BUN(Blood urea nitrogen:血液尿素窒素)、尿検査では尿比重(尿の濃さ)と尿たんぱくクレアチニン比です。

2.1.1Cre(クレアチニン)

Creは筋肉運動のエネルギー源でアミノ酸の1種であるクレアチンが代謝されてできた物質です。腎臓から排出されるので、血中のCr濃度が高いと腎機能が低下していることがわかります。

クレアチニンは筋肉の量に比例するので、大きい雄猫の方が数字が高くなりやすいです。血液検査でクレアチニンが上昇してくるのは腎機能の75%以上が失われた状態です。


腎機能の低下とクレアチニンの数値の変化の大まかなグラフ。腎機能が25%以下になるとクレアチニンの数値が急激に上昇する
クレアチニンは上のグラフのように変化しますので、腎臓病が進行するほど(GFRが下がるほど)上がりやすくなります。クレアチン濃度が1から2に上昇するのには長い時間がかかりますが、4から5は数%腎機能が落ちただけでも上がってしまいます。

2.1.2BUN(血液尿素窒素)

「ビーユーエヌ」と発音されることが多いです。と血液中の尿素窒素を測定することで尿素の量がわかります(尿素を直接測るのは大変なので尿素についている窒素を測っています)。尿素とはタンパク質の最終代謝物質(残りカスのようなもの)です。体のなかでタンパク質を利用するためにアミノ酸に分解します。アミノ酸がさらに分解されるとアンモニアが発生します。アンモニアは体にとって有害な物質なので肝臓で尿素にされ、腎臓から排泄します。そのためBUNは腎機能と関係しています。

BUNは腎臓の機能が下がると上がりますが、タンパク質の摂取量(高たんぱく質のものを食べると上がる)、脱水の程度、肝機能により影響されます。血液検査でBUNが上昇してくるのは腎機能の75%以上が失われた状態です。

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肝臓と尿素のイメージ 引用:http://heart-clinic.jp/index.php?ウイルス性肝炎


2.1.3 SDMA

近年新たに開発された腎機能のマーカーです。腎機能が40%失われた段階で、数値が上がり始めるので、クレアチニンやBUNよりも早い段階で腎機能の低下を検出できる可能性があると期待されています。ただし新しい検査項目ですので、他の項目と併用して腎機能を評価する必要があります。特に子猫の6%は上限に近い高値を示すため特に解釈に注意が必要です。

2.1.4 尿比重

尿比重とは簡単にいうと尿の濃さです。尿中には水分のほか上記の尿素窒素、ミネラル(ナトリウムやクロール)などが含まれています。腎臓は必要に応じて濃い尿、薄い尿を作りわけています。尿は腎臓で濃縮(水分の再吸収)されながら作られています。腎臓が悪くなると薄い尿しかできなくなり、尿比重が低下します。腎臓病の他には沢山水を飲んだ後、またホルモンの病気でも尿比重が下がることがあります。

尿検査で尿比重が低下してくるのは腎機能の66%以上が失われた状態です。(必ずしも尿比重が下がるわけではなく、BUN,Crの上昇のみが現れることもあります)

2.1.5 UPC (尿中たんぱくクレアチニン比)

尿中のたんぱく質とクレアチニン濃度の比率を測ることで、たんぱく尿の程度が数字で客観的に分かります。猫では軽度のたんぱく尿は正常ですが(詳しくは猫の尿たんぱく)、UPCが高すぎると異常といえます。他の検査が正常でもUPCのみ異常値がでることもあります。

2.1.0「なぜ複数の項目を測るんですか?」

上記のように各検査は腎臓以外の因子にも影響されます。複数項目測ることで弱点を補い合いより確実な診断することができます。同様に「BUNとCrどちらが正確ですか?」という質問もケースバイケースなので一概にどちらが正確とはいえません。

2.2画像検査

腎臓病で行われる主な画像検査はレントゲン検査(X線検査)、超音波検査の2つです。腎機能検査は文字通り腎機能はわかりますが、腎機能が下がっている原因はわかりません。慢性腎臓病以外の腎機能を低下させる病気がないか(腎臓のがん、尿路結石など)確認します。

画像検査ではありませんが、触診をすることで腎臓の形や大きさの変化が判明することもあります。レントゲンや超音波装置は全ての病院で設置されているわけではありません。

2.2.1レントゲン検査

1枚の画像で猫の腹部全体を写すことができます。腎臓のサイズだけでなく他の臓器との位置関係がわかります。尿管に結石がみつかることもあります。

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青丸:腎臓の位置
2.2.1超音波検査

腎臓のより正確なサイズ、そして内部構造を見ることができます。腎臓を検査する場合はレントゲンよりも多くの情報が得られます。

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内部構造が異常な腎臓


2.3 腎臓病のステージ分類

IRIS(International Renal Interest Society)という団体が猫の腎臓病のステージ分類表を提唱しています。IRIS分類では血中クレアチニン濃度をもとに4つのステージに分けられます。

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注意点としては猫の状態が安定したときの血液検査の結果を用いなければいけないので、一番体調が悪い時の数字(多くの場合初診時)で判断してはいけません。

IRISのガイドラインでは前日の夕ご飯を抜き(飲水は可)、当日午前中に検査、さらに2週間間隔で測定すべきと提唱しています。

さらにステージ分類の補助としてUPC、血圧を元にサブステージ分類があります。

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例) Cr 2.9、血圧190mm/Hg、UP/C 0.3の猫

IRIS ステージ3、血圧スコア3、たんぱく尿 ±

IRISのガイドライン通り検査を行うのが理想的ですが、実際には難しいことが多いです(多頭飼いで絶食が困難、2度の通院ストレス、じっとしていられず血圧が測れない猫、検査費用 等)。愛猫にとって無理のない検査をかかりつけの獣医師と相談して下さい。

・SDMAによる補正

2015年のIRISのステージングではSDMAについて、少し触れています。IRIS分類はクレアチニンを元にステージを分けていますが、クレアチニンは筋肉量によって値が変化します。つまり痩せ細った猫ではクレアチニンは低くなる傾向にあり、腎機能の低下を過小評価している可能性があります。SDMAを同時に測ることで、正しい腎臓の状態を把握する助けになるかもしれません。

例)痩せた猫の血漿クレアチニン濃度 2.5mg/dlで、SDMA濃度は30μg/dlであった。クレアチニンを元にした部類ではステージ2だが、筋肉量が少ないこと+SDMAが高いこと、を考慮しステージ3と評価する。

3治療

概要でも書いた通り、腎臓という臓器は一度機能が失われると元に戻りません。これは人医療でも同じで、腎機能が著しく低下してしまった場合は透析を行うか、移植をしなくては生きていけません。そのため早期に発見し進行をゆっくりにさせることが大切です。

治療の目的は「腎臓病の進行を防ぐ」、そして「猫の生活の質を上げる」ことが目的になります。「生活の質を上げる」というのはいかに苦しみ、不快感なく穏やかに暮らせるようにサポートする、ということです。特にステージ3、4で大事になってきます。

3.0 腎臓病は良くならないと言われましたが、血液検査の数字が良くなったのはなぜですか?

治療について解説する前に、よく聞かれる質問にお答えします。各検査は腎機能以外の要因も絡んでいます。BUNであれば低タンパク質の食事、Crであれば筋肉量が低下すれば検査結果が下がります。またその日の飲水量、また検査機械の誤差によっても結果が変わります。これらの要因で、最初に検査した数字より低く出るとうことが起こります。

3.1食事療法

腎臓病の治療の中で最も効果が大きいのが食事療法です。ステージ2,3の猫では通常の食事に比べて2倍以上寿命が伸びるという報告があります。グルメな猫は療法食を嫌うことがありますが、食事の変更を慎重に行えば90%の猫は療法食を食べるという報告もあります。(食事の変更のコツ)

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慢性腎臓病の猫の中央生存日数、ノーマルフードと腎臓療法食の比較
腎臓病療法食の特徴

・タンパク質の制限

検査のBUNの項で述べたように、タンパク質は分解されると尿素を作られます。高タンパク質の食事は体内の尿素が増え、腎臓病の症状を悪化させるためタンパク質が抑えられています。

・リンの制限

高リン血症は腎臓病の進行を早めることがわかっています。リンも腎臓から排出されるミネラルで、腎臓病が進行すると高リン血症になっていきます。

そのほかにもナトリウムの制限、カリウム/オメガ3脂肪酸/ビタミンB/の添加などの工夫が加えられており、嗜好性(味)も日々改良されています。各メーカーから発売されています。


ステージ1のCKDに対して腎臓療法食が効果的であるか否かは現時点では不明です。SDMAの登場によりステージ1での食事療法の効果が明らかになるかもしれません。

3.2 血圧コントロール

慢性腎臓病の猫の20%は高血圧症になっているという報告があります。高血圧症はたんパク尿を引き起こし、たんぱく尿は腎臓病の悪化につながります。また腎臓病を悪化させるだけでなく、心臓負荷、視力低下、頭痛などの症状を示し生活の質を低下させます。

しかし血圧測定が難しい理由として猫は病院に来ると緊張してしまうので血圧が一時的に上がってしまうことです。(詳しくはこちら→ホワイトコートエフェクト)血圧コントロールの薬としてはアムロジピン、ベナゼプリル、エナラプリル、テルミサルタン(セミントラ)などがあげられます。たんぱく尿の治療として処方されることもあります。



3.3 血中リン濃度のコントロール

食事の項でも触れたように、高リン血症は腎臓病を進行を早めます。ネコの腎臓病の約60%は高リン血症になっているという報告があります。既に療法食に切り替えられていても、血中リン濃度が高い場合は血中リン濃度を下げるため、リンを吸着し便と一緒に排泄する「リン吸着剤」を使うことがあります。具体的にははレンジアレン、カリナール1などがあげられます。

3.4 胃腸炎の治療

尿毒性消化器炎といって、腎臓病になると胃炎や腸炎が現れやすくなります。消化器炎は食欲不振や、吐き気、痛み、下痢などを起こし猫の生活の質を低下させます。ファモチジン、スクラルファート、オメプラゾールなどが挙げられます。

3.5 脱水の治療

腎臓病の猫は尿量が水分の排泄量が増えるだけでなく、飲水欲の低下から脱水に陥りやすいです。脱水は腎臓病の進行を早めるだけでなく、猫の体調に大きく影響するため脱水を補正してあげる必要があります。皮膚をつまんで皮膚の形が戻る時間で脱水を評価する試験(ツルゴール試験)で、皮膚が戻るのに2秒以上かかる時は脱水を示唆しています。

直接血管に送る静脈点滴と皮下(皮膚と筋肉の間)に点滴を行う皮下点滴があります。脱水の程度、猫のキャラクターにより使い分けています。自宅で皮下点滴を行う場合は、必ず獣医師の指示に従って点滴量と頻度を調整してください。点滴量が多すぎると心臓に負荷がかかり危険な状態になることがあります。

3.6 カリウムのコントロール

低カリウム血症は20〜30%の猫でみられるという報告があります。低カリウム血症もやはり腎臓病の進行と、筋炎を起こし痛みがあります。典型的な低カリウム血症の猫の姿勢は「首が上がらず下を向く」です。具体的にはフィトケア(カリウ補助剤)、点滴へのカリウム添加などでカリウムを補正します。

3.7 貧血の治療

腎臓から分泌される赤血球産生を促すホルモン(エリスロポイエチン)の低下、栄養状態の悪化、消化管からの出血、尿毒症による赤血球の寿命低下などの理由により腎不全の猫では貧血になりやすくなります。貧血の治療としてはエリスロポイエチン製剤、鉄分や葉酸などの補給サプリメント(ヘモテクトなど)があげられます。

3.8活性炭製剤

活性炭を食事と一緒に摂取することで、活性炭が窒素を吸着しそのまま便と一緒に排出されます。尿毒症症状を抑制する効果があります。具体的にコバルジン、ネフガードなどです。この薬(コバルジンは動物用医薬品)は日本で開発された薬で、海外の獣医学書やガイドラインでは触れられていません。

3.9腎臓を保護する薬

2017年に認可を取ったベラプロストナトリム(ラプロス)という薬は単独で腎機能の悪化を抑える効果があることが示されました。腎臓の血流量を増やす、慢性的な炎症を抑える働きがあります。詳しくはこちら。

4 予後

予後とは今後の病状についての見通しで、進行具合や生存率を示します。患猫を腎臓病と診断した時、あとどれくらい生きられるのか、どう進行していくのかを話すことは獣医師の最も辛い仕事の1つです。比較的最近にでた3つの報告があるのでご紹介します。

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CKDのステージごとの中央生存日数
ステージ2bというのはCr濃度 2.3〜2.8mg/dL を意味しています。

個人的には腎臓病の予後はあまり当たらない、という印象を持っています。この3つの論文でも結構差がありますね。実際にはステージ4でも数ヶ月元気な猫もいますし、ステージ2でも急激に進行してしまうこもいます。これはおそらく血中クレアチニン濃度による分類だけでは予後を正確に予想できないからでしょう。

まとめ

インターネット上で猫の腎臓病の情報が氾濫し混乱される飼い主さんが多いと感じます。今回は問診でよく質問されること主に書きました。猫の腎臓病は老化の一部であるという意見もあります。もちろん腎臓病で愛猫が弱っていく姿をみるのは凄く辛いことですが、腎臓病で亡くなるというのはある意味寿命を全うしたと考えることもできます。他の病気と比べると、病気が発覚してから亡くなるまでの期間が長いこともあり、今までの思い出を振り返り、感謝の気持ちを伝える時間があります。このページが腎臓病の猫の飼い主さんの助けになれば幸いです。

参考文献

The Cat: Clinical Medicine and Management

Feline CKD Current therapies – what is achievable? JFMS (2013)

ISFM Consensus Guidelines on the Diagnosis and Management of Feline Chronic Kidney Disease (2016)

IRIS staging of CKD (modified 2015)