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●世界に先行するEUの温暖化対策案

 EU(欧州連合)は今年1月に、ポスト京都議定書(2013~20年)での画期的な温暖化対策包括案を発表しました。この対策案は温室効果ガスをめぐる世界の流れを大きく変えていくでしょう。


 包括案には3つの注目するべき政策があります。第一に、2020年までに1990年比で温室効果ガスを20パーセント削減するとの目標の下で、各国ごとの温室効果ガスを定めました。第二の柱として、再生可能エネルギー(太陽光や風力発電など)の利用拡大を、各国に数値目標を定める形で設定しています。


 そして最も注目すべきは、排出権の有償化です。2012年までは排出権は過去の実績を参考に対象企業に「無償」で配分され、実際の排出量がそれを上回れば罰金が科せられる仕組みになっています。しかし、13年からの対策案では、企業が排出枠を入札によって

「有償」で購入しなければなりません。過不足が出た場合、欧州・排出量取引制度の枠内で調整することになります。


 つまり排出権が「タダ」で手に入る時代は、終わりそうです。高値だから排出権を買いたくない、あるいは買えないでは、企業は活動できなくなります。温室効果ガスの排出権の量が企業の経済活動を決める時代、すなわち「CO2本位制」の時代が到来するのです。


 包括案がもたらす規制対象企業の新たな負担はEU全体で、年間当たり最高600億ユーロ(約9兆円)になるとの試算があります。その負担額を払えない企業の中には、市場から退出を迫られるものも出てくるでしょう。


 だが、否定的な面ばかりではありません。有償化がもたらす国家の収入増加分が、産業構造を戦略的に組み替える財源にもなります。また企業の変化をうながして温室効果ガスをあまり排出しない「低炭素経済」への移行を促進します。


 ヨーロッパに広がる温暖化への危機感を考えれば、この対策案の政策の多くが実現する可能性が高いと、私は考えています。そして、それは日本にとって遠い世界の話ではありません。温暖化問題での対応が遅れた国の製品に、EUは貿易規制を行うことも検討しています。


●企業経営の「今そこにある」リスク

 温暖化防止は、「地球環境を破壊しない」という次世代への責任という次元だけではありません。別の側面として、どの国が21世紀の環境外交、そして温暖化をめぐる国際政治で主導権を握るのかという覇権争いの性格もあるのです。これは各国の政府だけでなく、それぞれの産業でも同じことが言えます。


 EUの対策案の驚くべき点は、「世界のルールはわれわれが作る」との意志の下に、50年先を見据えたその戦略の長期的視点にあります。そして、政治が長期の方向性を示せば示すほど、ビジネスは動きやすくなるでしょう。EU域内の企業は、ある意味では幸せとも言えます。政治のサポートの下で、温室効果ガス削減であれ、再生エネルギーへの投資であれ、「低炭素経済」につながる事業に安心して取り組めるからです。


 ところが、日本では政治が進むべき方向を政治が示していません。そして日本では、温室効果ガスの削減を各業界が設定した目標に基づいて行う「自主規制論」が依然として根強く、排出枠の設定に反対する意見が政府、産業界の主流となっています。そして、企業ごとの削減の義務付けについて、断固反対しています。


 先行するEUだけでなくアメリカの大手企業も含め、先進工業国の産業界の流れは温室効果ガスの排出量規制に大きく傾いています。その中で日本の「自主規制」はいつまで持ちこたえられるのでしょうか。


 日本も、削減義務まで踏み込んだ規制を行う時期が来たのではないでしょうか。産業界も具体的政策作りに積極的に参加する方が得策であると、私は考えます。「海図なき」まま国際競争という荒海で航行する日本の企業は、無謀といっては言いすぎでしょうか。


 温暖化対策を誤れば企業の将来はありません。温暖化の被害そのものに加え、前倒しで始まる世界規模の規制に適応できなくなるためです。そして温室効果ガス削減に関心を向ける消費者の動きにもついていけないことになります。


 ビジネスの世界では、いかに早く社会の変化の方向性を読み、他社より早く動くかで勝負が決まります。皆が動くまで待つことは、経営上のリスクなのです。日本の個別企業やビジネスパーソンは、既に始まっている「温室効果ガスの有償化」という世界の流れに乗り遅れてはいけません。対応するために、残された時間はあまりありません。