出展:http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/af970e7c1d625925c67386ad2dffd1e4/



●「CO2本位制」がビジネスシーンを変える

 「CO2(二酸化炭素)を出すのは悪いことだ。減らすのは良いことだ」。

 地球温暖化が危機的な状況に向かう中で、新しい価値観が生まれました。この明瞭かつ単純な座標軸が地球社会のあらゆる場所で、そして全ての局面で適用されることになります。21世紀の人々の生き方、そして当然にビジネスのあり方を根本から変えていきます。


 CO2を増やすことは悪いことですから、そんな企業は消費者から嫌われ、資本市場からも敬遠されます。一方、CO2削減に取り組む企業は歓迎されます。言うまでもなく、そこで働く人々の人生をも変えていくことになります。この現実を、私は6回の連載でビジネスパーソンの皆さんとともに、考えたいと思います。


 毎日の情報の洪水の中で、表面的な出来事ばかりを追っているとなかなか気付かないことがあります。その一つが「21世紀の国際社会を運営するルール作りが進行中」という事です。その中心にあるのが「地球温暖化問題」です。いま世界で多くの人々が「CO2を減らさなければ、未来はない」という強烈な危機感を共有し、具体的な行動を始めました。


 私の造語ですが、地球社会はいま「CO2本位制」に入りました。使えるCO2の排出量の大きさが人間活動や経済活動の大きさを決めてしまう時代に入り、人類は地球環境が許す範囲内でしかCO2を排出できなくなりました。かつての「金本位制」の時代には、国家の金の保有高が通貨発行量、ひいては経済の規模を決めました。それと同じように、限られたCO2排出量の下で経済活動が制約を受け、その条件の下で利益やベネフィットを極大化する競争が始まったのです。


 CO2本位制の下では「パラダイムの逆転」が数多く生れます。これまでは「good」だったものが「bad」になります。その一例を示しましょう。「CO2を大気汚染物質とみなす」という判決が、米国連邦最高裁判所で2007年4月に下されました。この訴訟はカリフォルニア州政府などが原告となり、連邦政府に自動車の排気ガスに含まれるCO2を規制すべきだ、と主張した訴訟での判断でした。


 ブッシュ大統領の姿勢だけを見ていると「米国は温暖化対策に後ろ向き」と捉えがちですが、実態は違います。やがて米国ではこの最高裁の判決に沿った動きが活発になります。そうなると自動車産業はもとより、多くのビジネス、更には世界各国にこの判決の影響は及ぶでしょう。


●「ルール」を押し付けられるだけでいいのか

 国際社会をコントロールするためのルールは大国の首脳会談などの表舞台だけで、決まるものではありません。外からは見えない長いプロセスが隠されています。

 世界ではさまざまな分野で、いろいろな会議やセミナーなど、その分野の専門家などが顔を合わせる機会がたくさんあります。そこでお互い顔なじみの人々が「あの問題はどう思う?」と意見交換を始めます。そんなやり取りを何回かするうちに「やはり、あの問題をしっかり議論する必要があるね」となります。


 そうなると「あの問題」についての正式の会議が生まれます。ここまでのプロセスは「アヒルの水かき」のように表面には表れない努力です。こんな水面下での動きが重要で、正式に会議が始まるころには中身は大方固まってしまいます。ですから、「アヒルの水かき」の仲間に入るのか、外されるのかが決定的に重要になります。


 私は国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP・FI)に参加し、世界の金融界の自主的ルール作りや、温暖化防止のための議論やプロセス作りに参加してきました。そこで日本勢のルール作りの場での存在感の無さを見てきました。恐らく他の分野でもそうでしょう。温暖化問題では、各国政府やグローバル企業が、ルール作りの主導権争いを始めています。しかし、日本は政府も産業界も存在感を示していません。


 世界の中で日本の利害をはっきりといい、世界にも貢献する姿勢もちゃんと示す。それには、早い段階からの「アヒルの水かき」をいとわぬ志とガッツが必要です。ビジネスパーソンに訴えたいのは、自発的にルール作りに取り組み、世界の議論に参加してほしい、ということです。少なくとも、そういった視点から世界の動きを見て、その動きに敏感であってほしいのです。


 温暖化への対応は「次の世代と地球を守る」という倫理上の責務です。それに加えて、ビジネスパーソン個人にとっても、生き方とキャリア形成での「将来」を左右する重要な問題なのです。