日米逆転か、自動車向け電池を巡る攻防
自動車向けリチウムイオン電池は開発競争に勝利すると思われていたが、今は戦国時代
出典:http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20080108/144405/
最近まで、自動車向けリチウムイオン電池はパナソニック EVエナジーや三洋電機が開発競争に勝利すると思われていたが、今は戦国時代
2008年1月15日 火曜日
GMが開発中のリチウム電池採用のハイブリットカー「シボレー・ボルト」
◆リチウムイオン電池の開発最前線に異変 1月15日 白水徳彦
2007年の自動車産業におけるトップニュースの1つにトヨタ自動車が安全性の問題を理由に、次世代技術として注目されるリチウムイオン電池のハイブリッド車搭載を少なくとも2年遅らせるという苦渋の決断をしたことが挙げられる。
それと並んで大きなニュースだったのが、米ゼネラル・モーターズ(GM)が現在、開発中のハイブリッド車に日本製リチウムイオン電池の採用を見送ったことだ。
GMはその代わり米国製もしくは韓国製のリチウムイオン電池を搭載し、フル充電で10マイル(約16キロ)電気走行ができる「プラグインハイブリッド」を早ければ2009年までに投入するという。
そして40マイル(約64キロ)の電気走行が可能なプラグインハイブリッドを2010年までに投入するという。
リチウムイオン電池搭載でGMがトヨタに先んじる可能性
この2つの決定は何を意味するのか。
トヨタにとってリチウムイオン電池の導入遅延は、ハイブリッド戦略でトップを独走してきたその地位が脅かされていることを意味する。トヨタがもたつく間に、ハイブリッドの技術開発に力を入れ始めた GMがリチウムイオン電池の導入では先を越す可能性が出てきたからだ。
さらにこれらの出来事を国単位で見ると、先端バッテリー技術の開発でこれまで世界をリードしてきた日本が米国に逆転される可能性が出てきたとも言える。
リチウムイオン電池は、小型でも高出力を発揮できるのが特徴だ。この高エネルギー密度を誇る電池の先駆的な研究は、もともとそのほとんどが欧米で行われてきた。欧米に後れを取っていたにもかかわらず、日本がリチウムイオン電池市場で世界トップの座を築けたのは、研究室で開発された欧米の技術の実用化にいち早く着手したからだ。
欧米勢がリチウムイオン電池の事業化に対する投資に躊躇するのを尻目に、ソニーを皮切りに三洋電機、松下電池工業などの日本企業は1990年代前半に実用化のための技術や製造ノウハウを確立、以来、生産設備の積極投資に踏み切ると同時に市場開拓に力を入れてきた。
おかげで今や世界で販売される携帯電話やノートパソコン向けのリチウムイオン電池は日本製コバルト酸リチウムイオン電池が圧倒的なシェアを誇る。米国など競争相手どころか、日本製リチウム電池を買い続けてくれるお得意様に過ぎない存在だ。少なくとも今まではそうだった。
ところが、トヨタがリチウムイオン電池の次世代ハイブリッド車への搭載を延ばしたことで、この構造に変化が生じ始めていることが明かとなった。きっかけは、2006年から2007年にかけてノートパソコンや携帯電話用のリチウムイオン電池が大量にリコールされたことにある。限られた件数ではあるが、オーバーヒートし、火災が発生したケースが問題視されリコールされた。
確かに、現在リチウムイオン電池の主流となっているコバルト酸リチウムイオン電池はオーバーヒートしやすく、電池の中に不純物が入っていたり、事故で電池自体がつぶれたりすると、ショートして「熱暴走」と呼ばれる爆発につながる危険があることが分かっている。だが、そうだとしても実際に引火したり、爆発する可能性は極めて小さいという。
お流れとなった次世代「プリウス」への搭載
トヨタは、日本製コバルト酸リチウムイオン電池の技術を進化させた自動車用リチウムイオン電池を開発し、2008年後半に発売を予定していた次世代「プリウス」に搭載しようと計画していた。実現すれば、既に低燃費である「プリウス」の効率性をさらに向上させ、他社の追随を許さないクルマに仕上がるはずだった。
しかし、自社が採用を検討しているリチウムイオン電池が基本的にはコバルト酸系であることから事態を重視、安全性を確認できるまで採用を遅らせることにしたのである。(中略)
今や電池は日米、国を挙げての開発競争に突入
リチウムイオン電池開発で有望な米国企業は A123システムズだけではない。そのほかにも、ネバダ州リノに本社を置くオルトエアー・ナノテクノロジーズ、テキサス州オースティンに本社を置くベイランスなども注目を集めている。
こうした新興企業がここへ来て台頭しているのは、米エネルギー省(Department of Energy)が中心となって研究資金を国家プロジェクトを通して供給、育ててきた背景がある。
もちろん、日本も負けてはいない。 経済産業省は、もともと太陽パネルや風力発電に分かれて動いていた先端電池プロジェクトを2006年、「次世代蓄電システム実用化戦略的技術開発プロジェクト」という1つの国家プロジェクトに統合した。このプロジェクトには49億円の予算がついた。A123 システムズなどの新興勢力を育成する米国政府の動きに対して、ある経済産業省の幹部は「どうぞやってくださいという感じ。まあお手並み拝見というところ」と平静を装う。
これに対して、米国の産業政策の日本に対する対抗意識は強烈だ。A123 システムズのある経営幹部の言葉を借りれば、「米政府は、日本企業と対抗し、米デトロイト3(GM 、フォード・モーター、クライスラー)を支援する気があるなら、米国企業でなくても韓国企業でもフランス企業でも誰にでも資金援助は拒まないという姿勢だ」という。
ほんの最近まで、自動車向けリチウムイオン電池はパナソニック EVエナジーや三洋電機が開発競争に勝利すると思われていた。だが、今や勝負は全く見えなくなっている、と言っていい。誰が勝ってもおかしくない状況にあり、当面は複数の勝者、つまり複数の種類のリチウムイオン電池メーカーが用途に応じて市場に存在する「戦国時代」の様相を呈するだろう、というのが米国の関係者の一致した見方だ。
今年はリチウムイオン電池の開発最前線から目が離せない年になる。