この前、宮台真司氏の講演があるということで、行ってみた。


宮台教授の就活原論
この本の出版記念のイベントで、知っている人にとってはおなじみの言説なのだろうけれど、私にはほとんど始めて知った人なので、興味深く聞くことができた 。
本もその場で買ってサインしてもらっちゃったりして。

で、実際本を読んでみたら やっぱり社会学者の本としてしっかりしてるんだなぁと。(前半と後半で同じような文章が出ているのは時間がなくて推敲する暇が無かったのかとも思ったけど)

この本自体は大学生に向けて書かれたものなのだけれど、「これから落ちることが確実な社会(人口動態、いわゆるグローバル化による社会変動など)」でどういう生き方を志向するべきか、を考えるうえで大学生以外でも参考になることがあると思う。
この人はまえがきで書いているように、「ポストモダンが、共同性の不可能を刻印する一方、グローバル化が、共同性を不可避に要求する。どう構えるか」というところから、共同体自治の重要性を訴えている。

大学生ならば、安易に考えれば「コネをどれだけ作れるかが勝負の分かれ目」であり、そのためには大学生活でどれだけ充実した「出会い」ができるかが重要なんだ、という「改めて言っちゃうと当たり前のこと」が書いてあるんだけど、その当たり前のことが難しい。(ぶっちゃければ就活で悩んでいる大学生には役に立つことはあまり書いていない)

その講演にゲストで出ていたTBSラジオの平山氏の言葉で、「自分の言葉で体験したこと、思ったことを相手に伝わるように話せるかどうか、普通に話していて「こいつとだったら一緒に仕事をしているイメージができるな」という人が良い」みたいな趣旨の話が印象的だったけれど、やはりそれには常日頃から人と会い、「感動アンテナ」を張り巡らせなければいけない。
それって、やっぱり共同性が失われつつある今の大学生(含む社会人全般)には難易度の高い仕事なんだよね。

私自身は就活で失敗して本当にドロップアウト寸前の身で、自分の大学生活を思い返しながら(思えばあれが鬱になった原因で今回想しても苦虫を噛み潰したような顔になってしまう)聞いていた。

確かにマニュアルの画一的なこと。あれを「建前だけどわかるよな?気づいたもの勝ちゲーム」にしたのは誰の仕業なのだろう。私も含めた日本は弱肉強食の世界ではないと誤解している多くの人にとって足元をすくわれるこういう構造は、「要領の良さ」だけを基準としない漠然とした「人間本来の価値(的な何か)」を顧みないようにも見えて、少し悲しいというのか、寂しいというのか。

この本の就活以外の部分では、私も思っていることがよく出ていて、嬉しい感覚もあった。
特に「CSR、社会的責任投資やフェアトレードが議論されるようになったのは、綺麗事の道徳ではなく、社会的に善いことをしないと儲けられない社会構造になりつつある」という部分。
「社会的な正しさがカッコいい」という価値観への転換を進めないと日本はダメになる、という感覚は震災後、急激に拡大してきたように思う。国がなにもしてくれないからこそ、ソーシャルビジネスは成長する。欧米では共同体自治が重要になっている、と宮台氏は書いているけれども、積極的な変化ではなく、「制度への依存度」という点において欧米では必要に迫られて拡大するほか無かったんだろうなぁ。

あとアマゾンで「で、どうしろと?」というレビューがあったけれど、この人は「社会学」で博士になった人であることを忘れてはいけない。
社会学というのは、個人的な偏った見方だが、「こういう社会問題がある。大変だ。これはあれが原因だと言われているけれど、実はデータをこう見れば原因はこれなんだよ。すげぇだろ」という学問だ。
構造的な背景を分析するのが主なので、個人ができる問題への対処に言及される事柄は少ない。
解決策を提示して「私の言うとおりにすれば万事解決だ」という経済学みたいな言い方をするやり方ではない。

それを前提に考えれば、宮台氏は珍しく議論をできている人だと思う。
ちゃんと「誰か何とか言ってやれよ問題」という題で、こう言っている。

  「他人の期待による呼びかけに応じられない人は、どの会社に就職してもうまくいかないでしょう。 ~誰かが、そうした就職活動以前的な「手遅れ問題」があることをちゃんと伝えなければなりません。 ~-「他者性の有無-」は自省するだけでは分かりません。 ~本人が気づくようにするにも、社会が気づくようにするにも、誰かがちゃんと言わなければ始まらない」

ダメなやつはダメ、ということです。そう。救いがない。
それを共同体性の強化によってフォローしようよ、というのが主旨。だと思う。