日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)/浅川 芳裕
前回の続きです。

数字とかに関しては、調べてみると農水省が巧妙に隠しているのか?と思えるくらい見つからない数字などもあります。土地あたりの生産性や、総生産額、金額ベースの世界比較など・・。探せば分かるのですが、自給率関係のページから分かりやすいPDFなどがないんですよね。(つまり農水省が自分たちで取り上げていない?)
ただ、その数字の取り上げ方が絶妙です。さすがに農業雑誌の編集者。農業生産額を例にとって世界5位とするなどは日本のGDPを考えればある程度普通のことだし、

政府統計の総合窓口

こちらの統計(1番の年次別農業総産出額)から見ると、農業総産出額8兆円(生産額と違う?同じ・・・だよね)は著者の言う「アメリカに次ぐ先進国第2位であり、農家弱者論は農水省のでっちあげである」という論理からは見えてこない数字があります。
それは、80年代から96年までは総生産額は10兆円だったということであり、明らかにピークから2割ほど規模が縮小していることです。それの説明としては、日本のGDPが同様に同じ割合で減っているとしています。つまり、農業が衰退しているわけではないと。
そのほとんどは減反と価格低下があった米の販売額減少によることが大きいのですが、品目別で見ても、額が大きくなっている品目はほとんどありません。
「付加価値産物」の作りやすい野菜や果物も同じ感じで減っているのです。
比較として一番総産出額の多かった1984年のGDPとの比率を見てみると、農業の割合は3.3%。1995年は2.1%。2008年は1.5%です。

農業生産と農業所得額の推移

こちらのサイトでは「農業総産出額にしめる生産農業所得の割合が、所得率、すなわち農業者の手元に残る割合であるが、1975年当時は50%を越えていたのに対して、最近は4割を切っている(2006年には37.0%)」とも書かれています。
もちろん農業人口が減っているので一人あたりの額は大きくなるかもしれませんが、それで成長しているとは・・・(数字に弱いので、合ってるかどうかわかんない+割合だけで弱体化論を支持するわけではないですが)。

加えて、『農協の大罪』などの著者、山下一仁氏は、『フード・セキュリティ』の中で、このように書いています。
「2002年の農業の生産額は9.9兆円です。農業のGDP(国内総生産)はこれから農業中間投入額4.7兆円を差し引いた5.2兆円です。しかも、関税や価格支持等によって守られたところが大きく、これらの支持を示すOECDが計測した日本の農業保護額(PSE)は5.3兆円で農業のGDPを上回っています。つまり、農業保護がなければ農業のGDPはゼロまたはマイナスとなってしまうのです。2006年の数値は若干改善していますが、農業生産額は8.5兆円、GDPは4.7兆円、PSEは4.5兆円です」
その文の後、コメなどでも収益を上げている農家はあるが、多くは零細で収益が低いことを指摘し、「これには、日本では耕作可能な土地自体が少ないという自然条件に加え、農地政策におけるゾーニング(農地と都市的利用との線引き)の不徹底や高米価政策による零細農家の滞留、減反政策により稲作の単収向上やスケールメリットが発揮できなかったことなどの政策の失敗によるところが大きいと考えられます」と続きます。

それから考えると、「自由競争で農業は一般産業と同じ競争が働き、プロ農家に任せることで日本農業の未来は明るい」とは必ずしもいえないのではないかと思ってしまいます。
現在の農業は旧来の補助金体制で生きてきたわけですし、実際の施策は別にして以前から自民政権と農水省の方針は「規模拡大・市場主義」だったはずです。
補助金漬けの「疑似農家」(兼業で規模が小さい農家)が減少する分プロが農地を拡大し、生産性の違いから結果として農業が成長する、というのは(土地の所有移行という点で)日本の平地の少なさや、農協の存在、農地に関する話題から考えると実現可能性からも実際やさしいものではないだろうなぁと。
それと実際、「プロ」の農家の多くが北海道に集中しているのではないかということもあります。農水省の統計では、平成21年の都府県の主業農家の割合は、18.9%です。
また、販売金額別農家数は都府県での割合が100万円未満が50%を占めています。
ということは、北海道以外ほとんどの都府県で農業は廃れていくという結果になりかねないということではないでしょうか。

それにプラスしてなのですが、多くの自給率関係の本では「コメ」をどうするかに相当の論議があります。
しかしこの本では農家の規模で比べていて、その農家が何を生産しているかを考慮していません。
日本の農業では、コメは農業補助金の多くを占める品目であり、たくさんの農家で作られているものです。
大規模なプロ農家でも、補助金が出なければコメや、減反対象の品目など作らないでしょう。
つまり著者は「何を生産しているかに関わらず」大規模農家を優遇しろと言っているわけですね。

しかしながら、「付加価値農業」を推進することは結構なことなのですが、たとえば無農薬や有機農法の野菜などはよく見られる付加価値産物でしょう。これらははたして大規模な農地で成立可能なものなのでしょうか?
農薬を使わない場合は、手間をかけて虫がつかないようにしたりしますよね。それは農地が広いほど大変で、割に合わなくなるはずです。
著者はその辺りを「一般的な認識では、耕作面積が広いプロの大規模農家のほうが人手が足りず、農薬や肥料に頼っていると思われがちだ。だが、プロの大規模農家は、低い生産コストで質の良い作物をたくさん作り、売ることで利益が出せるので、農薬や肥料などコストアップにつながるものはできるだけ使わないように努めており、結果として環境へ与える負荷も少なくなっている」と書いています。ふむ、私の認識不足だっただけなのかな。

それに対して、東京大学の生源寺氏は『農業再建』の中で農業が経済成長に適応したタイプ分けでこのように言っています。
「ひとつは、経済の成長と歩調を合わせるように規模拡大を実現したV型農業(value added、付加価値)、すなわち施設野菜や施設型畜産に代表される付加価値型農業である。ただし、規模拡大といっても、農地の面積を大きく拡大したわけではない。むしろ、ガラス温室や畜舎などの施設を利用し、農地の拡大をさほど必要としない集約型農業であるからこそ、規模拡大を実現することができたのである。とくに目覚ましい規模拡大で知られるのは、養豚や養鶏である。~施設園芸も健在である。~施設野菜の主業農家の割合は、酪農や養豚に次いで高いことが分かる。こうしたV型農業とは対照的なのが、稲作である。主業農家のシェアは18%に過ぎない」

「2000年の農業センサスによれば、日本には13万5163の農業集落があり、このうち水田集落は8万86を数える。統計上の水田集落とは、農地に占める水田の割合が70%を超える集落を指す。~50.4%に当たる4万342集落には主業農家がいない。~米の生産額に占める主業農家のシェアは36%に過ぎない。この推計からは販売金額の小さい自給的農家が除かれているから、これでもいくぶん過大に見積もられていると言ってよい」

後半の部分、コメのシェアの大部分はプロでない人たちが作っているということでしょうか?
その場合は補助金が無くなった場合、コメの自給率が低下することが予想されますね。93年のコメ危機のときとは状況が違うようになるでしょうが、今ただでさえ供給不足な国際コメ市場に参入するのは少し迷惑な話かもしれません。

著者はその辺りを自由競争にすべきだと言っているみたいですね。実際にはオランダなどを挙げて、数字の「自給率」と農業で儲けている国に関係性がないことを指摘しているので、これは許容範囲だと考えているのでしょう。
まあ、実際に農業をしたことのない私がどうこう言えるものではないのですが・・・。(それを言うならばすべてのことに対してでしたか)

自分の説を強調するために恣意的に数字を挙げている感じも受けるのですが、それはどっちもどっち。参考にして、他の本と読み比べるのが正しい読み方ですね。