自給率を向上させることを目的とした本はいくつかありましたが、それを批判した本はあまりありませんでした(入手できた範囲では)。
ネット上では批判ばかりされているのにそれは不思議な感じがします。
「農業経営者」は検索していると批判派のソースとしてよく出てくるところですね。
最初は農水省批判を急ぐあまり感情的に数字をこねくり回しているのかなぁ、と思っていたのですが、ジャーナリストと侮ってはいけません。冷静に数字をこねくり回しています。それでいて農水省批判は舌鋒鋭く、自給率計算は国内農業保護を隠れ蓑にした天下りと予算確保のためのもので、農業GDPや生産額から言えば日本は世界で5番目に大きいと指摘しています。
農業人口が小さくなっていることを理由に、「日本の農業が弱体化している」というのは間違いだとしています。それは農業人口当たりの生産性に表れていて、60年から比較すると農業人口は6分の1ですが、生産性は6.4倍に増えています。(ただ、本書の文では減少率を過去十年、生産性を40年で比較しています。すぐ後にちゃんと計算しているのになぜ?)
それと同時に耕作面積が広い「プロ農家」が増えていて、売り上げ3000万円以上の農家は販売農家の1.5%ですが、国内生産額の30%を占めており、農家の9割もある売り上げ100万円以下のほとんど自己消費の「擬似農家」は生産額の5%だそうです。
農水省はWTOで宣伝するための「日本農業弱者論」を補強するために、もともと使っていた生産額ベースの自給率をそのころに低く見えるカロリーベースに替えました。
そして自給率目標は、「国民の望ましい消費」を農水省が決め、それが望みどおりになれば達成できる、という論理らしいです。生産目標量も勝手に決めています。
以下引用
「個々の消費者選択と、作物別の生産量を定めた全農業生産者の努力目標がどうリンクするというのか。いくら計画を読んでも支離滅裂だ。取材すると、『農業生産に関するあらゆる課題が解決された場合に実現可能な国内の農業生産水準』だという。ますますわからない」
また、バター不足、小麦価格高騰など、農水省の天下り団体が絡み、国内産業保護という名目での「価格統制」によって農水省の特別会計に「上納金」としてのお金が含まれることで国内の企業が苦しんだことを指摘しています。
そして食料自給率は「新たな自虐史観」で、小学生のころから刷り込まれ、国民は減反と高い価格のために負担を強いられ、民主党は大票田確保のために補助金をばらまき、補助金頼みの農業が衰退していくとしています。
著者は農水省が日本特有の「差額関税」という制度で抜け道を作って、輸出国を有利にしていることを挙げて「交渉国に利益を与え続ける売国奴」という言葉まで使っています(過激ですね。その他多くの事柄で農水省のムダ、天下り、悪制度をののしっています)。
一番共感?したのは、ここらへんです。
「目玉は補助金による小麦と米粉、牛乳の大幅な生産拡大による自給率向上。この裏づけとなる消費増を職員の職権で果たせるはずもないし、果たす責任があるともいっていない。~そもそも計画にある通り、自給率向上の前提となる「望ましい消費の姿」の達成は食品企業・消費者責任、「生産努力目標」は農業団体・農業者責任と分担が決まっている。農水省は両活動に対して税金をばらまくのみ(注:他の部分でそれがいかに目標に結びつかないかを主張しています)。~人件費だけで500億円もの血税を無駄にして導き出した結論が、『農家数が減りました。自給率が下がりました。さあ大変です。国民の皆さん、財布のひもを緩めて国産を食べましょう』では救いがなさすぎる」
この部分は『食料自給率のなぜ』を読んだときに感じた違和感の一つでした。農水省は供給を担当しているのになぜ消費構造の変化を目指しているのか、ということです。しかもその変化は制度の変化ではなく、啓蒙という名目でのCMなどの広告が狙い通り浸透することで達成でき、しかもその広告が効果のあるものと信じているようです。
浅川氏の主張は兼業などで農業以外から収入を得ている大半の小作農を補助金支給の対象から外し、「プロ」の農家を優遇することです。そして果物や野菜など、日本の農家が得意としている付加価値の高く、日本というブランドが活かせる分野で輸出も含めた生産拡大をすることです。
今までに私も挙げた自給率計算の矛盾から、食料自給率を意味のない数字として批判しているのですが、面白いのは『食料自給率100%を目指さない国に未来はない』の島崎氏や、『日本の農業は成長産業に変えられる』の大泉氏とそれほど乖離した筋の話をしていないということなのです。もちろん自給率の扱い方は離れているのですが、根本は農業を活性化させることが目的だ、ということです。
農業の産業としての「体力」は自給率とは関係がない、ということを前提として、農業活性化には「高付加価値」の産物にウェイトをかけること、非効率な零細農家への優遇に対する批判などは似ている提言だと思います。
ただ、いかにダメかを協調するために、アメリカの農政と比べていることには賛成できませんでしたね。
以下引用
「農務省の戦略計画には、米国農業をさらに発展させるための明確な目標と、『農業の成長は自分たちに任せろ』という確固たる自負心が強く感じられる。責任の所在もわかりやすい。これならば職員も高いモチベーションを保ち、努力を続けてくれるはずだ。」
「老獪さ」という言葉も出しているので職務の遂行に関する見地からというのはわかるのですが、それによって途上国がいかに非関税障壁で苦労しているか、WTOでの輸出ごり押し姿勢と国内での補助金漬け、日本も元々はいらなかった小麦を消費させられたこと、などを考えると、他国からはそういう姿勢も褒められたものではないのじゃないかとも思います。(まあこのへんはちょっと話が違うのでいいのですが)
著者は、民主党の所得保障制度は農業を衰退させるとし、「日本農業成長八策」を提案しています。
1.「民間版・市民(レンタル)農園の整備」
潜在需要を見込めれば、5000億円程度の市場が見込める。
2.「農家による作物別全国組合の設立」
農家が組織を作り、品目別にマーケティングをする。
3.「科学技術に立脚した農業ビジネス振興」
日本の技術革新は発展にいかされていないので、特許やライセンスを世界的に展開するべき。
4.「輸出の促進」
この40年間でイギリスは20倍、ドイツは70倍にも輸出を増やしたのに、日本は9.5倍。マーケットの0.2%程度しかなく、これを1%にすれば1兆2000億円になる。
5.「検疫体制の強化」
検疫は各国で事実上の非関税障壁となっている。おかげで日本は中国にコメを輸出できなくなってしまった。海外に売り込むためにも農水省の職員を検疫や交渉に当たらせればいい。
6.「農業の国際交渉ができる人材の育成または採用」
「日本の農業は弱い」という認識から脱皮し、世界にPRできる人材を育成する。
7.「若手農家の海外研修制度の拡充」
平均68歳の疑似農家に毎年100万円所得保障するより、意欲のある若者を世界に派遣したほうがどれほど日本の将来にとって有益か。仮に10万人を送り込んでも、所得保障の10分の1ですむ。
8.「海外農場の進出支援」
自動車やアパレルと同じように、農家が海外に進出するのを支援すべき。
私は大部分特に異論はありませんね。
ただ、3,4,6に関しては、どうも農水省には無理なんじゃないかと思います。
こういうことが今更出来ていないということは、能力がないんじゃないかなぁ・・・。
いや、ひどいことをいうようでアレなんだけれど。それとも、制度的な問題だからということなのかな。
長くなってしまったので続きます。
ネット上では批判ばかりされているのにそれは不思議な感じがします。
- 日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)/浅川 芳裕

- ¥880
- Amazon.co.jp
「農業経営者」は検索していると批判派のソースとしてよく出てくるところですね。
最初は農水省批判を急ぐあまり感情的に数字をこねくり回しているのかなぁ、と思っていたのですが、ジャーナリストと侮ってはいけません。冷静に数字をこねくり回しています。それでいて農水省批判は舌鋒鋭く、自給率計算は国内農業保護を隠れ蓑にした天下りと予算確保のためのもので、農業GDPや生産額から言えば日本は世界で5番目に大きいと指摘しています。
農業人口が小さくなっていることを理由に、「日本の農業が弱体化している」というのは間違いだとしています。それは農業人口当たりの生産性に表れていて、60年から比較すると農業人口は6分の1ですが、生産性は6.4倍に増えています。(ただ、本書の文では減少率を過去十年、生産性を40年で比較しています。すぐ後にちゃんと計算しているのになぜ?)
それと同時に耕作面積が広い「プロ農家」が増えていて、売り上げ3000万円以上の農家は販売農家の1.5%ですが、国内生産額の30%を占めており、農家の9割もある売り上げ100万円以下のほとんど自己消費の「擬似農家」は生産額の5%だそうです。
農水省はWTOで宣伝するための「日本農業弱者論」を補強するために、もともと使っていた生産額ベースの自給率をそのころに低く見えるカロリーベースに替えました。
そして自給率目標は、「国民の望ましい消費」を農水省が決め、それが望みどおりになれば達成できる、という論理らしいです。生産目標量も勝手に決めています。
以下引用
「個々の消費者選択と、作物別の生産量を定めた全農業生産者の努力目標がどうリンクするというのか。いくら計画を読んでも支離滅裂だ。取材すると、『農業生産に関するあらゆる課題が解決された場合に実現可能な国内の農業生産水準』だという。ますますわからない」
また、バター不足、小麦価格高騰など、農水省の天下り団体が絡み、国内産業保護という名目での「価格統制」によって農水省の特別会計に「上納金」としてのお金が含まれることで国内の企業が苦しんだことを指摘しています。
そして食料自給率は「新たな自虐史観」で、小学生のころから刷り込まれ、国民は減反と高い価格のために負担を強いられ、民主党は大票田確保のために補助金をばらまき、補助金頼みの農業が衰退していくとしています。
著者は農水省が日本特有の「差額関税」という制度で抜け道を作って、輸出国を有利にしていることを挙げて「交渉国に利益を与え続ける売国奴」という言葉まで使っています(過激ですね。その他多くの事柄で農水省のムダ、天下り、悪制度をののしっています)。
一番共感?したのは、ここらへんです。
「目玉は補助金による小麦と米粉、牛乳の大幅な生産拡大による自給率向上。この裏づけとなる消費増を職員の職権で果たせるはずもないし、果たす責任があるともいっていない。~そもそも計画にある通り、自給率向上の前提となる「望ましい消費の姿」の達成は食品企業・消費者責任、「生産努力目標」は農業団体・農業者責任と分担が決まっている。農水省は両活動に対して税金をばらまくのみ(注:他の部分でそれがいかに目標に結びつかないかを主張しています)。~人件費だけで500億円もの血税を無駄にして導き出した結論が、『農家数が減りました。自給率が下がりました。さあ大変です。国民の皆さん、財布のひもを緩めて国産を食べましょう』では救いがなさすぎる」
この部分は『食料自給率のなぜ』を読んだときに感じた違和感の一つでした。農水省は供給を担当しているのになぜ消費構造の変化を目指しているのか、ということです。しかもその変化は制度の変化ではなく、啓蒙という名目でのCMなどの広告が狙い通り浸透することで達成でき、しかもその広告が効果のあるものと信じているようです。
浅川氏の主張は兼業などで農業以外から収入を得ている大半の小作農を補助金支給の対象から外し、「プロ」の農家を優遇することです。そして果物や野菜など、日本の農家が得意としている付加価値の高く、日本というブランドが活かせる分野で輸出も含めた生産拡大をすることです。
今までに私も挙げた自給率計算の矛盾から、食料自給率を意味のない数字として批判しているのですが、面白いのは『食料自給率100%を目指さない国に未来はない』の島崎氏や、『日本の農業は成長産業に変えられる』の大泉氏とそれほど乖離した筋の話をしていないということなのです。もちろん自給率の扱い方は離れているのですが、根本は農業を活性化させることが目的だ、ということです。
農業の産業としての「体力」は自給率とは関係がない、ということを前提として、農業活性化には「高付加価値」の産物にウェイトをかけること、非効率な零細農家への優遇に対する批判などは似ている提言だと思います。
ただ、いかにダメかを協調するために、アメリカの農政と比べていることには賛成できませんでしたね。
以下引用
「農務省の戦略計画には、米国農業をさらに発展させるための明確な目標と、『農業の成長は自分たちに任せろ』という確固たる自負心が強く感じられる。責任の所在もわかりやすい。これならば職員も高いモチベーションを保ち、努力を続けてくれるはずだ。」
「老獪さ」という言葉も出しているので職務の遂行に関する見地からというのはわかるのですが、それによって途上国がいかに非関税障壁で苦労しているか、WTOでの輸出ごり押し姿勢と国内での補助金漬け、日本も元々はいらなかった小麦を消費させられたこと、などを考えると、他国からはそういう姿勢も褒められたものではないのじゃないかとも思います。(まあこのへんはちょっと話が違うのでいいのですが)
著者は、民主党の所得保障制度は農業を衰退させるとし、「日本農業成長八策」を提案しています。
1.「民間版・市民(レンタル)農園の整備」
潜在需要を見込めれば、5000億円程度の市場が見込める。
2.「農家による作物別全国組合の設立」
農家が組織を作り、品目別にマーケティングをする。
3.「科学技術に立脚した農業ビジネス振興」
日本の技術革新は発展にいかされていないので、特許やライセンスを世界的に展開するべき。
4.「輸出の促進」
この40年間でイギリスは20倍、ドイツは70倍にも輸出を増やしたのに、日本は9.5倍。マーケットの0.2%程度しかなく、これを1%にすれば1兆2000億円になる。
5.「検疫体制の強化」
検疫は各国で事実上の非関税障壁となっている。おかげで日本は中国にコメを輸出できなくなってしまった。海外に売り込むためにも農水省の職員を検疫や交渉に当たらせればいい。
6.「農業の国際交渉ができる人材の育成または採用」
「日本の農業は弱い」という認識から脱皮し、世界にPRできる人材を育成する。
7.「若手農家の海外研修制度の拡充」
平均68歳の疑似農家に毎年100万円所得保障するより、意欲のある若者を世界に派遣したほうがどれほど日本の将来にとって有益か。仮に10万人を送り込んでも、所得保障の10分の1ですむ。
8.「海外農場の進出支援」
自動車やアパレルと同じように、農家が海外に進出するのを支援すべき。
私は大部分特に異論はありませんね。
ただ、3,4,6に関しては、どうも農水省には無理なんじゃないかと思います。
こういうことが今更出来ていないということは、能力がないんじゃないかなぁ・・・。
いや、ひどいことをいうようでアレなんだけれど。それとも、制度的な問題だからということなのかな。
長くなってしまったので続きます。