- 「食糧危機」をあおってはいけない (Bunshun Paperbacks)/川島 博之

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そして一般に広がっている「需給逼迫で世界的に食料が足りなくなる」という論説に反論する形をとっています。
これは批判派にとっては心強い本ですね。
ここではおおまかな紹介をして、後に各論ごとに紹介する時に反論として詳細を載せようとおもいます。
まず、最初に「穀物生産性がこれ以上あがらない」とする説。
これにはイギリス、フランス、アメリカの一部と日本だけが1ヘクタール当たりの収量が高く、それを上限とする場合にはそれ以外の地域でまだまだ収量を上げる余地があると見ています。
そして「人口爆発で需要が増える」という説。
ほとんどの人口予測は国連の推計を用いるのですが、これは「一番多いと(高位推計)107億人。低いと(低位推計)77億人」という推計で、一般的には中間の91億人という数字を用います。
著者は少なくともアジアでは中位推計も多いと考えているようです。途上国では教育の効果が浸透しはじめており、経済成長によって出生率が下がることでそれほどにはならないとしています。
そして、逆に貧困がはびこっているサハラ以南のアフリカで人口が爆発することに触れ、「全世界を均一に扱おうとするから、『世界の人口が爆発して、すべての資源が足りなくなる』という発想になってしまう」というように、食料の偏りに触れています。
つまり、日本のような先進国では現在のように食料があろうが、将来なくなろうが、お金があれば買える。
アフリカの貧困地域ではお金がないため、現在食料需給が正常であろうとも食えないし、将来もお金が無い限り食えないのです。
成長の定型である、食料増産→工業化という方程式がなりたつのは、食料の売り込み先があるからだという著者の主張はもっともです。
食料の生産性を上げて、収量を多くしても、輸出はできないので地域内で消費するしかない。
消費量は限られているので、ちょっとでも作物が余ると価格は下がります。
つまり生産性をあげるインセンティブがアフリカの小農には働かないことになります。
「食料危機について日本人が真剣に憂慮している一方で、WTOの交渉で先進国が話し合っているのは穀物の押し付け合いなのです」という言葉どおり、実際には先進国が穀物輸出シェアを奪い合っていて、途上国が入り込む余地はありません。
全体的な食料供給について、「食料生産性が限界だ」という説に対しては、
・窒素肥料と収量の関係性を挙げ、肥料を多く投入している国がわずかなこと
・世界全体の休耕地が三億五千ヘクタールもあるため、「食料供給力という面から見れば、休耕している農地の分だけ生産余力がある」としていること
・粗放農業であるオーストラリアの農地などは、手間をかけないために供給が不安定だが、言い換えればやり方次第で何倍にも生産性をアップさせる余力がある
・「農地のうち灌漑されている面積の割合(灌漑率)と単位面積当たりの収穫量(単収)の関係を調べると、はっきりした相関関係が見られない」
「北米、南米、オセアニア、ヨーロッパという世界の穀物輸出地域では、(取水率10%以下であることを理由に)生産のネックにならない」
・水不足は天水農業をしているところが多いから心配ない
・地球温暖化は生産量アップの要因
消費の増加に対しては、
・中国の肉需要はブラジルの大豆生産によって賄われた。
・トウモロコシのエタノールは補助金によって成り立っていて、サトウキビのエタノールに対して全く価格競争力がない。ブームが過ぎれば従来通り過剰生産されたトウモロコシの在庫処分という形に戻る。
「バイオ燃料の利益は石油の値段に左右されます。代替燃料は、決して石油価格を超えるわけにはいきません。食糧の値段が高くなれば、食糧として売ったほうが確実に利益が上がるのが農産物なのです」
・ブラジルのサトウキビも他の作物に影響することなく増産することができる。
・インド人は肉をほとんど食べない
・魚の消費量が増えているのは一過性のブームで、日本人以外はそんなに食べない
また、在庫率が下がっていることについては、近年の技術進歩で在庫を抱えるコストや流動性の変化などが原因であるとしています。
市場の情報がなかったり、物流が不安だったりする場合、多めに在庫をもっておかなければなりません。
それがスムーズになれば在庫率が低下するのは当然だということですね。
そして、麦などは数ヶ月ごとに北半球と南半球、地域別に収穫期が入れ替わります。つまり、一時的に在庫率が減ってもすぐに他の地域で収穫月が来る、また、価格高騰などは作付面積を増やすことになることから問題ではないとしています。
そして、「世界同時不作」の事態は歴史上起こったことがないともいっています。
「仮に世界同時不作で食糧価格が高騰した場合、これらの国々(途上国)と食糧を争う日本が、買い負けるということはちょっと考えられません」ともいっています。
07、08年にかけて穀物価格が高騰したことについては、著者は「金融現象」だとしています。
つまり、循環的に起きるお金の流れのなかで一時的に穀物価格が上がっただけで、それによって世界的な争奪が起こったわけではないということです。
実際に世界的に暴動がおこるなどしましたが、日本ではお菓子やカップ麺が20円、30円上がった、みたいなことしか起こらず、小麦や大豆が買えなくなるような事態は起こりませんでした。
この真因は、バイオ燃料などではなく、サブプライムローン問題などで世界的な金余り現象が生じたことだとしています。
「最初に穀物価格が上がりだしたときは、何が原因だかわかりませんでした。というのも、2007年が不作で生産量が需要に対して不足していたという事実はなかったからです。もし本当に需給が逼迫しているのならば、2008年の夏に高騰して、秋になって急に下がるということはあり得ません」
この分析は私も同意します。
著者が日本農政に関して言及している部分です。
「日本の農政は、『将来、食糧危機が来る』ことを前提に、国内での生産力を維持しようとしてきました。~しかし、一向に食糧危機は起こらず世界の食糧価格も高騰しません。このような状況の下、国内の米価は低下し続け、乳価は横ばいで、農家の経営は苦しくなる一方です。現在の農業保護政策では、財政コストがかさむばかりで、まじめに日本人の食糧をつくろうと考えている農家ほど困窮しているのが現実です。それは日本政府が農業生産についての戦略判断を根本的に間違えているためです。~穀物のような基礎食糧の分野では、日本は世界の農業大国には到底かないません。~いま日本が食糧をアメリカ、オーストラリアなど限られた国から主に輸入していることを問題にすることもあります。これらの国が穀物を禁輸したら、たちまち日本は飢える、という危機意識です。しかし現代の日本の商社はきわめて優秀で情報収集能力が高く、世界中から食料を集めてくることができます。2008年の穀物価格急騰にしても、~日本は必要な量の食糧を確保できていました。~『食糧安全保障』は、世界の穀物市場をよく見ている民間企業に任せておけば、現代では問題ないでしょう。むしろ日本の農家は、安価な基礎食糧が世界中から調達されてくることを前提にした上で、『日本人が好む味』『日本人が好む品質』に特化した農作物づくりを目指すべきです」
それほど具体的な提言をしていないのですが、米保護を廃止し、付加価値産物へのシフトを望んでいるようですね。
これ自体は農政に関する意見としてあまり真新しい意見ではありません。
いわゆる自由競争で、日本の農作物は勝てる市場で勝負すべきだ、ということです。
次はこの本に対する批判を見てみます。