昨年政権交代したことでいろいろな政策が方針転換されたが、自民党政権時代からこの「自給率危機」は叫ばれています。民主党はかねてから「自給率向上を目指す」「10年後に50%、20年後に60%」という方針なので、政権交代による影響はなし、というか予算増額?な感じです。
方針変更はないので、去年に発売されたこの本は政府の政策説明書と見てもかまわないだろうか。
著者は農林水産省食糧安全保障課長です。
つまり官僚の結構偉い人。本を出すぐらいこの問題には熱心なんだね。
あれ、これ印税どうしてんだ?副業にならないのかな・・・関連することだからいいのかね。
まあそれは置いといて。
この本は「FOOD ACTION NIPPON」の運動をさらに細かく説明したものだと言えます。
以下引用
「かつて、日本の食糧安全保障を考えていくときに、いったいどの自給率が最適な目安になるのかという議論があった。結局、いざというときに体力(生命)を維持していくためという最も基本的なことに直結しているとの意味合いから、カロリーベースの自給率が適していると判断され、この数値を使うことに落ち着いた。しかし、議論の余地があるということは、それぞれに一長一短があるということであり、カロリーベースの自給率についても、カロリーにだけ着目していいのかという問題は残る。~カロリーベースの食料自給率という数字を厳密で絶対的なものだとみなすと、それは適当ではないだろう。あくまでも不測の事態が起きたときに対する備えとして、どれくらい自国で供給できているかの指標である。ただ、この数字が小さければ小さいほど食料の大部分を外国に頼っているということであり、わが国の食糧安全保障においてリスクが高くなるということだけははっきりしていると思う。~ちなみに農林水産省の事務方としては、食料自給率の目標値を設定することについては消極的な意見が多かったようである。厳密でない点とか、独り歩きすることの心配を強く感じていたからだと思う」
「食料自給率は、平常時の食料供給力であり、基礎体力であるということから考えれば、その数字は高いほうが安心である。しかし、海外からの食材を含めて豊かな食生活を送っていることも考えると、100%でなければならない、というものでもない」
農林水産省発表の資料を見ても、カロリーベースがメインであるものの、生産額ベースの自給率も並列して記載しています。
「カロリーベースの自給率に問題があることはわかっていますよ、100%とも言ってませんよ」と一応の反論はしていることになるのかな?
そしてそれと同時に、これは「食糧安全保障」分野から見て主張しているのだ、ということです。
それは「不測の事態」に備えましょう、という意味。
その「事態」とは、たとえばある品目で多くの割合を輸入に頼っている場合、何かの事故や予期しない出来事が発生して、輸入が途切れてその食品が食べられなくなるような出来事のことを指しています。
近年ではBSE問題でアメリカからの牛肉輸入を禁止せざるを得なくなる事態・中国のいわゆる「毒餃子問題」など・・。
その他には穀物などが不作になって、いつも輸出している国が輸出をしませんということになったら、日本は輸入ばっかしているので困るでしょ、みたいな。
あと、多くのブログであった批判の対象になっている「世界同時不作」を前提にしているようでもなさそうです。(世界ですべての国が不作になったら日本の自給率が高くても日本も不作なんだから同じじゃん!論)
BSEの問題ではオーストラリア産牛肉が少し質が違うにしても急激にライトアップされました。
それにこちらのページ(PDF)を見ると、主な懸念はアメリカ、オーストラリア、カナダ等、三大穀物で主要な輸出シェアをもっている国に対してのようにもみえます。
それでは、他の理由を箇条書き。
・肉を食べてると肥満が増えて医療費が増える
・水田が減っていくと、田舎の風景が変わってしまう
・水田は「多面的機能」(洪水・土砂崩れの防止、地下水を貯える、ダムの代わりになる・・etc)蛙やメダカ、ドジョウなど、生態系を守ること、田舎の良い風景など、貨幣価値ではない重要な価値がある
・「フードマイレージ」食料の輸送時に環境負荷がどれくらいかかるかがわかる。日本はアメリカの三倍でダントツである
・「仮想水」日本に輸入が増えると世界の水資源に悪影響がある。動物の飼料にも水は大量に使う。水戦争が起こるといわれている昨今、水を使いすぎるのはどうか
・飢餓の人が9億人以上いるのに、大量の食品を廃棄するのはどうか
・穀物価格の高騰が止まらない!(2008年12月発行。つまり、そういうこと)
・価格高騰でお金を出せず必要な食料を手に入れられない国があるのに、奪ってまで輸入するのか
・地球温暖化、砂漠化や、地下水位の低下が世界中で問題になっている。生産性の増加や農地拡大はもう望めない
・人口増加で穀物需要がどんどん増えていく
・途上国が経済成長すると肉を食べるようになるため、穀物需要がどんどん増えていく
こんなとこか・・・。
では、「食料自給率のなぜ」でこうすると自給率は上がると考えているものを引用も含めて見てみましょう。(一部は自給率向上には結びつかないが、安全保障の面からあげている)
・米粉の普及
・米を飼料米に使う
・米を使う場合、コストの問題は解決できてない。施策を充実させていくことが大事である。(~ことが大切である・~必要であると考えている・~検討していかなければならない・・・がこの周辺にちりばめられている)
・小麦と大豆の国内生産が大事
・裏作により小麦を生産できる可能性がある
・A三〇〇運動(Aランクの大豆を10アール当たり、300キログラム生産しようという運動)というもので国産大豆を推進する
・輸入先が偏っているものを多くの国から輸入するようにして、輸入先の多元化をめざす
・農産物の備蓄を増やす
・備蓄には費用と保管の問題がある。どのような方法が財政的・効率的に優れているか検討を深めていく必要がある
・世界の食糧事情が安定すれば、結局は日本の食糧安全保障にもつながる
・「ネリカ米」でアフリカに緑の革命を
・「消費者一人ひとりが食生活を見直していかなければならない。まずは、今までよりも肉類や油脂類の摂取量を減らし、そのかわりにご飯を一口でも多く食べること、そして食品のムダを出さない工夫をすること、さらに、食に対してきちんと選択できる目を持つことも大切だと思う」
・「食料自給率は、各品目ごとの消費量が増え、それが積み重なってはじめて全体として向上が図れるものであると思う」
で、感想。
つくづく官僚というのは大変な職業であると思いました。
国民全体のことと予算を考え、医療費の抑制のために国民のライフスタイルを規定しなければならないのだから。
それはそれとして「ご飯を食べて肉や油脂類を摂るな」が一番の自給率向上策であると考えていると見て良いようです。
「なんであんたなんかに自分の食べるものに注文つけられにゃならんのだ」と言いたいところはぐっと我慢して、これが彼らの愛情表現なんだと納得するべきだろうか。まあ、「未来のことを考えて我々は準備する必要がある」といってるんでしょう。
では、自給率が低下した原因をどのように言っていたかを見てみると、肉、油脂類などの消費増加など、食料の消費構造の変化と、農業生産が消費にマッチングしていないことをちゃんと指摘しています。
ここで確認しておきますが、著者は農林水産省の食糧安全保障課長です。
2007年まで大臣官房環境政策課長という肩書きで、畑違いの「食」の分野への異動を命じられたことは「おわりに」で書いています。つまりほとんど農政には関連していなかった人ではある。ですが農林水産省は日本の農業、漁業など、食に関わる分野の多い省です。
この本は新書という性格上なのか、平易に説明するためなのか、農林水産省の過去の政策について触れていません。
減反政策、補助金、関税、これらは話題に出ていないのです。ほとんど関与していなかったとはいえ、自給率問題のステークホルダーで、直接舵取りができる組織にいる人間が自分たちの今までの取り組みをほとんど説明していないのはどうしてでしょうか?
読んでいる間は著者との一体感を大事にする私ですが、漠然となにかが抜け落ちている違和感がありました。
方針変更はないので、去年に発売されたこの本は政府の政策説明書と見てもかまわないだろうか。
- 食料自給率のなぜ (扶桑社新書)/末松 広行

- ¥735
- Amazon.co.jp
著者は農林水産省食糧安全保障課長です。
つまり官僚の結構偉い人。本を出すぐらいこの問題には熱心なんだね。
あれ、これ印税どうしてんだ?副業にならないのかな・・・関連することだからいいのかね。
まあそれは置いといて。
この本は「FOOD ACTION NIPPON」の運動をさらに細かく説明したものだと言えます。
以下引用
「かつて、日本の食糧安全保障を考えていくときに、いったいどの自給率が最適な目安になるのかという議論があった。結局、いざというときに体力(生命)を維持していくためという最も基本的なことに直結しているとの意味合いから、カロリーベースの自給率が適していると判断され、この数値を使うことに落ち着いた。しかし、議論の余地があるということは、それぞれに一長一短があるということであり、カロリーベースの自給率についても、カロリーにだけ着目していいのかという問題は残る。~カロリーベースの食料自給率という数字を厳密で絶対的なものだとみなすと、それは適当ではないだろう。あくまでも不測の事態が起きたときに対する備えとして、どれくらい自国で供給できているかの指標である。ただ、この数字が小さければ小さいほど食料の大部分を外国に頼っているということであり、わが国の食糧安全保障においてリスクが高くなるということだけははっきりしていると思う。~ちなみに農林水産省の事務方としては、食料自給率の目標値を設定することについては消極的な意見が多かったようである。厳密でない点とか、独り歩きすることの心配を強く感じていたからだと思う」
「食料自給率は、平常時の食料供給力であり、基礎体力であるということから考えれば、その数字は高いほうが安心である。しかし、海外からの食材を含めて豊かな食生活を送っていることも考えると、100%でなければならない、というものでもない」
農林水産省発表の資料を見ても、カロリーベースがメインであるものの、生産額ベースの自給率も並列して記載しています。
「カロリーベースの自給率に問題があることはわかっていますよ、100%とも言ってませんよ」と一応の反論はしていることになるのかな?
そしてそれと同時に、これは「食糧安全保障」分野から見て主張しているのだ、ということです。
それは「不測の事態」に備えましょう、という意味。
その「事態」とは、たとえばある品目で多くの割合を輸入に頼っている場合、何かの事故や予期しない出来事が発生して、輸入が途切れてその食品が食べられなくなるような出来事のことを指しています。
近年ではBSE問題でアメリカからの牛肉輸入を禁止せざるを得なくなる事態・中国のいわゆる「毒餃子問題」など・・。
その他には穀物などが不作になって、いつも輸出している国が輸出をしませんということになったら、日本は輸入ばっかしているので困るでしょ、みたいな。
あと、多くのブログであった批判の対象になっている「世界同時不作」を前提にしているようでもなさそうです。(世界ですべての国が不作になったら日本の自給率が高くても日本も不作なんだから同じじゃん!論)
BSEの問題ではオーストラリア産牛肉が少し質が違うにしても急激にライトアップされました。
それにこちらのページ(PDF)を見ると、主な懸念はアメリカ、オーストラリア、カナダ等、三大穀物で主要な輸出シェアをもっている国に対してのようにもみえます。
それでは、他の理由を箇条書き。
・肉を食べてると肥満が増えて医療費が増える
・水田が減っていくと、田舎の風景が変わってしまう
・水田は「多面的機能」(洪水・土砂崩れの防止、地下水を貯える、ダムの代わりになる・・etc)蛙やメダカ、ドジョウなど、生態系を守ること、田舎の良い風景など、貨幣価値ではない重要な価値がある
・「フードマイレージ」食料の輸送時に環境負荷がどれくらいかかるかがわかる。日本はアメリカの三倍でダントツである
・「仮想水」日本に輸入が増えると世界の水資源に悪影響がある。動物の飼料にも水は大量に使う。水戦争が起こるといわれている昨今、水を使いすぎるのはどうか
・飢餓の人が9億人以上いるのに、大量の食品を廃棄するのはどうか
・穀物価格の高騰が止まらない!(2008年12月発行。つまり、そういうこと)
・価格高騰でお金を出せず必要な食料を手に入れられない国があるのに、奪ってまで輸入するのか
・地球温暖化、砂漠化や、地下水位の低下が世界中で問題になっている。生産性の増加や農地拡大はもう望めない
・人口増加で穀物需要がどんどん増えていく
・途上国が経済成長すると肉を食べるようになるため、穀物需要がどんどん増えていく
こんなとこか・・・。
では、「食料自給率のなぜ」でこうすると自給率は上がると考えているものを引用も含めて見てみましょう。(一部は自給率向上には結びつかないが、安全保障の面からあげている)
・米粉の普及
・米を飼料米に使う
・米を使う場合、コストの問題は解決できてない。施策を充実させていくことが大事である。(~ことが大切である・~必要であると考えている・~検討していかなければならない・・・がこの周辺にちりばめられている)
・小麦と大豆の国内生産が大事
・裏作により小麦を生産できる可能性がある
・A三〇〇運動(Aランクの大豆を10アール当たり、300キログラム生産しようという運動)というもので国産大豆を推進する
・輸入先が偏っているものを多くの国から輸入するようにして、輸入先の多元化をめざす
・農産物の備蓄を増やす
・備蓄には費用と保管の問題がある。どのような方法が財政的・効率的に優れているか検討を深めていく必要がある
・世界の食糧事情が安定すれば、結局は日本の食糧安全保障にもつながる
・「ネリカ米」でアフリカに緑の革命を
・「消費者一人ひとりが食生活を見直していかなければならない。まずは、今までよりも肉類や油脂類の摂取量を減らし、そのかわりにご飯を一口でも多く食べること、そして食品のムダを出さない工夫をすること、さらに、食に対してきちんと選択できる目を持つことも大切だと思う」
・「食料自給率は、各品目ごとの消費量が増え、それが積み重なってはじめて全体として向上が図れるものであると思う」
で、感想。
つくづく官僚というのは大変な職業であると思いました。
国民全体のことと予算を考え、医療費の抑制のために国民のライフスタイルを規定しなければならないのだから。
それはそれとして「ご飯を食べて肉や油脂類を摂るな」が一番の自給率向上策であると考えていると見て良いようです。
「なんであんたなんかに自分の食べるものに注文つけられにゃならんのだ」と言いたいところはぐっと我慢して、これが彼らの愛情表現なんだと納得するべきだろうか。まあ、「未来のことを考えて我々は準備する必要がある」といってるんでしょう。
では、自給率が低下した原因をどのように言っていたかを見てみると、肉、油脂類などの消費増加など、食料の消費構造の変化と、農業生産が消費にマッチングしていないことをちゃんと指摘しています。
ここで確認しておきますが、著者は農林水産省の食糧安全保障課長です。
2007年まで大臣官房環境政策課長という肩書きで、畑違いの「食」の分野への異動を命じられたことは「おわりに」で書いています。つまりほとんど農政には関連していなかった人ではある。ですが農林水産省は日本の農業、漁業など、食に関わる分野の多い省です。
この本は新書という性格上なのか、平易に説明するためなのか、農林水産省の過去の政策について触れていません。
減反政策、補助金、関税、これらは話題に出ていないのです。ほとんど関与していなかったとはいえ、自給率問題のステークホルダーで、直接舵取りができる組織にいる人間が自分たちの今までの取り組みをほとんど説明していないのはどうしてでしょうか?
読んでいる間は著者との一体感を大事にする私ですが、漠然となにかが抜け落ちている違和感がありました。