ダニール・トリフォノフ(2016年2月、ドイツ・ハンブルク) | クラシック音楽と食べ物と。。。

クラシック音楽と食べ物と。。。

ヨーロッパでの生活を振り返るブログ。

今日は、2016年2月のドイツはハンブルクからです。

今日もライスハレでのコンサートで、ピアニストのダニール・トリフォノフのリサイタルです。

 

ダニール・トリフォノフは、ロシア出身のピアニストで、1991年ソ連のニジニ・ノヴゴロドで生まれます。5歳でピアノをスタートし、グネーシン音楽院でタチアナ・ゼリグマンに師事、その後、クリーブランド音楽院でセルゲイ・ババヤンに師事します。スクリャービン国際コンクール第5位、サンマリノ国際ピアノコンクール第1位、ショパン国際ピアノコンクール第3位、ルービンシュタイン国際ピアノコンクール第1位、チャイコフスキー国際コンクール第1位と輝かしい成果を残しています。このコンサート時点で若干24歳の若いピアニストです。


ヨハン・セバスチャン・バッハ/ヨハネス・ブラームス: 左手のためのシャコンヌ


最初の曲は、

ヨハン・セバスチャン・バッハ/ヨハネス・ブラームス: 左手のためのシャコンヌ

Johann Sebastian Bach/Johannes Brahms: Chaconne d-Moll für die linke Hand  BWV 1004

 

バッハがバイオリン独奏向けに作曲した、無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータの6曲のうち「パルティータ第2番ニ短調 BWV1004」は、1.Allemande、2.Corrente、3.Sarabanda、4.Giga、5.Ciacconaの5つの曲から構成されています。長大なシャコンヌを最終楽章に持ち、6曲の中でも最高傑作と言われています。特に、最終楽章のシャコンヌは多くの音楽家に影響を与え、様々な音楽家が管弦楽版、ピアノ版などの編曲を加えました。今回の演奏は、ブラームスが左手のために書いた「左手のためのシャコンヌ」が演奏されました。とても美しく、親しみのあるメロディーは、多くの聴衆をとらえて離しません。左手だけで演奏されているとは思えない、素晴らしい曲です。

 


ヨハン・セバスチャン・バッハ/セルゲイ・ラフマニノフ: 前奏曲、ガヴォット、ジグ


2曲目は、

ヨハン・セバスチャン・バッハ/セルゲイ・ラフマニノフ: 前奏曲、ガヴォット、ジグ

Johann Sebastian Bach/Sergej Rachmaninow: Prelude, Gavotte und Gigue  BWV 1006
 

バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータの「パルティータ第3番ホ長調 BWV1006」から演奏されました。「パルティータ第3番ホ長調 BWV1006」は、1.Preludio、2.Loure、3.Gavotte en Rondeau、4.Menuet I、5.Menuet II、6.Bourrée、7.Gigueの7つの楽章から構成されていますが、ラフマニノフは、1.Preludio、3.Gavotte en Rondeau、7.Gigueの3つの楽章をピアノ編曲版として残しています。今日の演奏は、この3曲が演奏されました。とても明るく、テンポが速く、コロコロと駆け回っていくような曲で、なんとも愛らしい曲です。本当にバッハは多くの音楽家に愛されてるんだなあと感じます。

 


ヨハン・セバスチャン・バッハ/フランツ・リスト: 幻想曲とフーガ ト短調


3曲目は、

ヨハン・セバスチャン・バッハ/フランツ・リスト: 幻想曲とフーガ ト短調

Johann Sebastian Bach/Franz Liszt: Fantasie und Fuga g-moll  BWV 542

 

バッハの「幻想曲とフーガ ト短調 BWV542」。大フーガとも呼ばれるこの曲は、バッハのオルガン曲の中でも最高傑作のひとつと数えられています。今回は、ピアノの魔術師フランツ・リストの編曲版が演奏されました。曲が始まった途端、「バッハだけど、リストだ!!」という感情が沸き起こってきます。リストは様々な曲の編曲を残しており、この曲は比較的原曲に忠実だと言われていますが、それでも、どうしてもリストらしい曲になっている印象はぬぐえません。ある種、バッハの荘厳さ、重厚さとリストの華やかさが織り交ざった感じでしょうか。

 


フランツ・リスト:パガニーニによる大練習曲


休憩を挟んで後半は、

フランツ・リスト:パガニーニによる大練習曲

Franz Liszt: Grandes Etudes de Paganini S 141

 

フランツ・リストがニコロ・パガニーニ「24の奇想曲」「ヴァイオリン協奏曲第2番」などから6曲を選びピアノ曲に編曲したものです。ニコロ・パガニーニといえば、悪魔に魂を売り渡したと言われるほど、悪魔的な超絶技巧のヴァイオリン名手。その曲をリストが編曲したわけですから、1838年に作曲された初版は演奏困難などと言われ、1851年に改訂版が出されています。現代で演奏されるのも、この改訂版がほとんどではないでしょうか。初版は「パガニーニによる超絶技巧練習曲」、改訂版を「パガニーニによる大練習曲」などと呼んで区別しているようです。ちなみに、今回の演奏も改訂版からの演奏でした。3番のラ・カンパネッラはよく単独で演奏される曲ですね。

 


セイルゲイ・ラフマニノフ:ピアノソナタ第1番 ニ短調


最後の曲は、

セイルゲイ・ラフマニノフ:ピアノソナタ第1番 ニ短調

Sergej Rachmaninow: Sonate Nr. 1 d-Moll op. 28

 

1907年から1908年にかけて作曲されたこの曲は、ラフマニノフ一家がモスクワの喧騒を離れ、ドレスデンに一家で暮らしていた時期に作曲されます。3楽章からなるこの曲は、当初はゲーテ「ファウスト」の登場人物である、ファウスト、グレートフェン、メフィストフェレスをイメージして作曲がはじめられましたが、その構想は結局実現しませんでした。その結果、標題音楽とはならず、ファストに強く影響を受けた曲が出来上がりました。長大で技巧的にも難易度が高いこの曲ですが、実はこれでも友人たちのアドバイスで短縮されたといことですから、驚きです。初演は、1908年モスクワでコンスタンティン・イグムノフによって行われますが、ラフマニノフ自ら初演を行うことが多いことを考えると、こちらも少し異例の曲だったということでしょうか。

 

ダニール・トリフォノフの演奏、ところどころミスタッチに近いものや、バランスの悪いものはあるけれど、非常に素晴らしいポリフォニーを感じます。彼の演奏を聞いていると、たくさんのメロディーが聞こえてきます。そして曲の流れの構成が非常にうまい。プロとしてテクニックは相当に高いレベルではありますが、最高レベルというわけではなく、もっと確実に弾ける人はいるでしょう。でも音楽の作り方はトップレベルと言ってもいいんじゃないかと思います。アルゲリッチも「「優しさも悪魔的な一面も…彼はすべてを持ち合わせている。こんな素晴らしい演奏、今まで聴いたことがありません。」と言っているとか。見ていると、背筋をしっかり伸ばして弾いているところ、やたら猫背で鍵盤にくっつくようにして弾いているところ、どう分けてるのか結構不思議な感じでした。お客さんはかなり盛り上がって、終わった途端立って拍手している人も結構いました。アンコールは3曲。2曲が終わってかなりのお客さんが帰り始めたので3曲目はないかなあと思っていたら、3曲目。

 

今日も素晴らしい演奏会でした。