今回は、2015年6月ドイツのハンブルクからです。
この日は、エレーヌ・グリモーのコンサート。仕事が終わってから会場のライスハレにやってきました。19:30スタート。
エレーヌ・グリモー(Hélène Grimaud)はフランスのエクサン・プロバンス出身のピアニストで、地元でピアノを学んだ後、マルセイユでピエール・バルビゼに師事、13歳でパリ音楽院に入学。1987年にはバレンボイムの招きでパリ管弦楽団との共演を果たし、以降、世界中の著名オーケストラとの共演、ソロ活動を重ねています。
前半のプログラムは、水に関する曲が演奏されました。
最初の曲は、ルチアーノ・ベリオ(Luciano Berio)の「水のピアノ」(Wasserklavier)。
この曲は、イタリアの現代音楽作曲家であるルチアーノ・ベリオが1965年から1990年にかけてアンコール用に作曲した「6つのアンコール」の3番目の曲でとても短い曲です。
2曲目は、武満徹(Toru Takemitsu)の「雨の樹素描II」(Rain Tree Sketch II)。
武満は若いころからオリヴィエ・メシアンの影響を色濃く受けてきましたが、この曲が作られた1992年に亡くなったメシアンを偲んで作曲されます。曲自身は大江健三郎の小説から着想と得たようです。本当に音の響きを聞かせる曲で、ある意味弾き手からすると恐ろしい曲かもしれません。
3曲目は、ガブリエル・フォーレ(Gabriel Fauré)の「舟歌第5番嬰ヘ短調 Op.66」(Barcarolle Nr. 5 fis-Moll op. 66)。
フォーレが1894年に作曲した曲で、フランスの伝統スタイルを重んじるフォーレらしい、エレガントで愛らしい曲です。
4曲目は、モーリス・ラヴェル(Maurice Ravel)の「水の戯れ」(Jeux d'eaux)。
ラヴェルがパリ音楽院在学中に作曲した曲で、作曲の師でもあったフォーレに献呈されています。水の様々な動き、様子を見事に描いた曲で、なんともスタイリッシュで素晴らしい曲です。
5曲目は、イサーク・アルベニス(Isaac Albéniz)の「アルメリア」(Almería)。
スペインの作曲家イサーク・アルベニスが1905年から1908年にかけて作曲した組曲「イベリア」の第2巻に収められています。イベリアはスペインの様々な場所、地域から着想を得て書かれています。アルメリアはアンダルシア地方の地中海に面した町で、この曲ではアルメリアの踊りであるタランタスが使われているようです。穏やかな中にもとても特徴的な曲です。
6曲目は、フランツ・リスト(Franz Liszt)の「エステ荘の噴水」(Les Jeux d'eaux à la Villa d'Este)。
エステ荘の噴水は「巡礼の年」の第3年に収められている曲で、アルペジオが無数の滝や噴水の水の流れを感じさせ、その上に神聖な響きを持つ動機が流れていきます。「わたしが与える水はその人の内で泉となり、永遠の命に至る水がわき出る。」というヨハネ福音書からの引用がなされており、噴水自身を表現するとともに、それを見る人々の心も表しているようです。
7曲目は、レオシュ・ヤナーチェク(Leoš Janáček)の「霧の中で ~アンダンテ~」(In the mists 1.Andante)。
チェコの作曲家レオシュ・ヤナーチェクが1912年に4つの小品を収めた霧の中でを作曲します。このころヤナーチェクは60歳を前にまだそれほど名前が売れておらず、先が見えない状況にあったようですが、そうした作曲者自身の心の内が投影されているとも言われています。
8曲目は、クロード・ドビュッシー(Claude Debussy)の「沈める寺」(La cathédrale engloutie)。
この曲はブルターニュ地方の古い伝説に着想を得て書かれています。鐘の音で始まり、霧の中から大聖堂が浮かび上がり、曲の途中でその全容を表し、最後にはまた水の中に沈んでいく様子が描かれています。ゆっくりしたテンポの中で、とても息の長いフレーズが印象的な曲です。
後半は、ブラームスのピアノソナタが演奏されました
曲は、ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms)のピアノソナタ第2番(Sonate Nr. 2 fis-Moll op. 2)。
ハンブルク時代の作品で、ブラームス19歳の時に作曲されています。最初から骨太な和音の動機で始まり、「ブラームス来たーっ」という感じの曲です。4楽章で構成されるこの曲。なんとも劇的でロマンチックな第1楽章、幻想的で即興的な第2楽章、独特のリズムを感じる第3楽章、そして音階で力強くフィナーレを迎える第4楽章。
グリモーの演奏。
前半の水に関係する曲は、まあるい水の粒、水のうねり、水が重なり合うさま、水のしぶき、それが映像となって目に見えるような演奏。そして、スタインウェイのコンサートピアノが小さく見えるほどの迫力ある音。本当にピアノ全体が鳴っている印象を受けます。スタインウェイってこんな風に鳴らすことができるんだ、でも本当にスタンウェイだよね?と思い、思わず休憩の時に舞台前まで見に行ってしまいました。本当にスタインウェイでした。いやあ、同じピアノでも、ピアニストによって全然違う姿を見せるんですよね。
後半のブラームスのソナタ2番。これもすごいいい曲で大好きな曲です。グリモーによくあってる気がします。素晴らしい熱演で、終わってからも拍手が鳴りやみません。アンコールも3曲演奏されました。前回ベルリンでベートーヴェンのコンチェルト聞いた時とは全く違った面を見せてくれました。正直、ピアノの演奏をこんなに楽しく聞いたのは久しぶりで興奮しました。人を楽しませるピアノ、迫力満点のピアノ、激しく、豊かな表現力、映像が浮かぶような演奏。どう弾きたいかがよく伝わってきて素晴らしい演奏でした。
会場を出たところで、たまたま奥さんを連れたドイツ人の同僚にばったり出会い、彼もエネルギッシュな演奏だったと興奮気味に語っていました。
素晴らしい演奏の余韻に浸りながら家までドライブします。