難波まで行こうと、梅田から地下鉄に乗った。車内はそこそこ混んでいるが、座ることはできた。すぐに買ったばかりの週刊誌を読み始める。

 

 淀屋橋駅に着きドアーが開くと、それこそ「鼻がひん曲がりそうな」臭いが流れ込んできた。ドアーが閉まり電車が動き出すと、臭いは薄らぐ。次の本町駅でも同じことが起こった。二回も続いてホームから悪臭が漂ってくるとは妙な話だ。

 

 妙なことはもう一つある。私の右隣が空いているのだが、座りかけた人はみな慌てて逃げていく。活字を追っていても目の端にそれが映っている。

 

 首を捻ってそちらを見た。空席の向こうに小柄なおじいさんが、座っている。伸び放題の髪やひげ、また服装からもホームレスの人だとわかる。おじいさんの足元には、ぱんぱんに膨らんだ大きな紙袋が二つ置かれている。どこかへ引越し中らしい。

 

 臭いのもとはこのおじいさんだったのだ。ドアーが開くと、空気がうごくので余計に臭うのだろう。そうと気がつくと、閉まっていても耐えられない気がする。だが、座りかけては去っていく乗客の後姿を追うおじいさんの目が、とても哀しげなのだ。

 

 また、おじいさんの右側に座っている若者は、臭いなどまったく意にかいさないふうで、さきほどから文庫本を一心に読み耽っている……ように見えた。それらのことが私に席を立つことをためらわせ、そのまま難波まで行ってしまった。

 

 それでよかったのだと思う。席を移っていれば、おじいさんのあの哀しそうな目は私にとり、より辛いものになっていただろう。